【実務思考】【SC-R07-1-PM-Q3K】 AI活用型アプリケーションサービスにおけるセキュリティリスク対策

🍀概要

 情報処理安全確保支援士試験 令和7年 午後 問3を題材に、AIを活用して詳細に解析した結果を示すものです。
 本稿では、問題を単なる模範解答の提示にとどめず、論述形式に再構築して多角的に検討することで、実務で求められる課題発見力・抽象化力・全体設計の視座を獲得することを狙いとしています。
 これにより、試験対策の枠を超え、問題文に内在する本質的な課題や情報処理安全確保支援士としての思考プロセスを深く理解するための示唆を提供します。

🧾問題・設問(SC-R07-1-PM-Q3)

 出典:情報処理推進機構 情報処理安全確保支援士試験 令和7年 午後 問3(🔗取り扱いガイドライン)

📘記述式問題(IPAオリジナル)

■タイトル
 スマートフォン用アプリケーションプログラムの開発について
 ※IPA公式問題PDF(独自OCR処理版) 問題文・解答はこちらから入手可能
■要約(AI生成)

200文字程度

 A社が新規に提供するフォトグッズ注文サービス「Eサービス」のスマホアプリ「Fアプリ」開発において、サーバ証明書検証不備、Cサービスアクセスキー保護不備、F-URL処理におけるアクセス制御不備の脆弱性がD社の診断で指摘された。当職は、これらの脆弱性に対し、開発中の通信解析ツール利用時の設定改善、Cサービスへのファイルアップロード時の署名付きURL利用、F-URLのアクセス先制限機能の実装を進言した。

800文字程度

 A社が新たに開始するフォトグッズ注文サービス「Eサービス」のスマートフォン用アプリケーションプログラム「Fアプリ」の開発において,当職は情報処理安全確保支援士として、その概要と脆弱性診断結果を分析する。
 Eサービスは,主要なスマートフォンOSに対応し,Fアプリとサーバサイドシステム群で構成される。Fアプリは,HTTPS通信を用いてA社Webサーバ及び大手クラウドサービスプロバイダC社のクラウドストレージサービス(Cサービス)と連携する。フォトグッズ作成用の写真はCサービスにアップロードされ,Fアプリから直接操作される。会員登録,ログイン,フォトグッズ注文,キャンペーン案内が主要機能である。ログイン時には認証トークンが発行され,セッション識別に使用される。
 D社によるFアプリの脆弱性診断の結果,以下の3点が指摘された。

  1. サーバ証明書の検証不備: FアプリがHTTPS通信時にサーバ証明書検証エラーを無視して通信を続行するため,通信内容の盗聴や改ざんのおそれがある。これにより,攻撃者がアクセスキーやストレージ名を取得する危険性を指摘する。開発チームは,通信解析ツール利用時のテスト環境でこの不備を意図せず作り込んでいた。当職は,開発用スマートフォンに必要な設定を行い,OS-aではテスト時のみ設定を有効化することでこの脆弱性に対処することを提案した。具体的には,通信解析ツールの自己署名証明書を開発用スマートフォンの信頼済みルート証明書として追加するなどの対策を講じる必要性を認識する。
  2. Cサービスアクセスキーの保護不備: Fアプリ内に平文で保存されたアクセスキーとストレージ名が攻撃者によって取得される危険性があり,それを用いてEサービスの全利用者の写真を不正にダウンロードされるおそれがある。これに対し,当職はCサービスの仕様にある方式b,すなわち署名付きURLの利用を提案する。図4に示すフォトグッズ注文処理の流れにおいて,写真のアップロード時に署名付きURLを生成することで,一時的にのみアクセスを許可し,アクセスキーの直接的な漏洩リスクを低減することを進言する。
  3. F-URLの処理におけるアクセス制御の不備: F-URLのurlクエリパラメータに細工されたURLが指定されることで,攻撃者のWebサイトにアクセスさせられたり,会員の認証トークンが取得されたりするおそれがある。キャンペーン案内機能においてWebViewが使用され,ECMAScriptコードを通じて認証トークンが引き渡される点に着目する。当職は,getToken関数の内部で呼び出し元のWebページのURLを確認する図7の処理を修正するだけでなく,フィッシングサイトにアクセスできないようにする機能の実装の必要性を強調した。具体的には,F-URLで指定されるURLのドメインを厳格にホワイトリスト化するなどの対策を講じることを推奨する。

 A社は,これらの脆弱性を修正し,Eサービスの提供を開始したことを確認する。当職は,継続的なセキュリティ対策の重要性を認識し,今後の運用においても安全確保に努める。

📘論述式問題(再構築版:SC-R07-1-PM-Q3K)

■タイトル
 AI活用型アプリケーションサービスにおけるセキュリティリスク対策について
■内容
 近年,企業は,顧客体験の向上や業務効率化を目的として,AI(人工知能)を活用した新たなデジタルサービスの開発に積極的に取り組んでいる。これらのサービスは,スマートフォンだけでなく,タブレット,PC,IoTデバイスなど多様なクライアント環境から利用されるアプリケーションサービスとして提供されることが増えている。これにより,顧客との接点を強化し,パーソナライズされた体験を実現する一方で,セキュリティ面では従来の対策に加え,AI特有の脆弱性や,多様なクライアント環境からのアクセスに対するセキュリティ要件,データプライバシー保護への対応など,より高度なセキュリティガバナンスが求められる。
 情報処理安全確保支援士は,このような新たな情報技術を採用したサービスの開発において,企画段階から運用までの一貫したセキュリティ確保に貢献することが期待される。サービスのセキュリティ特性を深く理解し,潜在的なリスクを特定,評価し,その対策を具体化する役割を担う。例えば,AIモデルに対する敵対的攻撃や,個人情報を含む学習データの適切な管理,サプライチェーン全体のセキュリティ保証などについて,技術的側面だけでなく,組織的・物理的側面からも検討し,経営層を含む関係者に対し適切な説明と合意形成を行う必要がある。
 特に,AI技術の社会実装がより一層進展しており,それに伴うセキュリティリスクも多様化,高度化している。例えば,生成AIを用いたディープフェイクによる詐欺,AIモデルの毒性データ注入による誤動作,さらにはAIが利用するデータやモデルがサプライチェーンの脆弱性を通じて侵害されるリスクなど,従来のセキュリティ対策だけでは対応しきれない課題が顕在化している。また,ゼロトラストアーキテクチャの導入や,量子コンピュータの発展を見据えた耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography)への準備といった新たな技術動向も,情報処理安全確保支援士が考慮すべき重要な要素である。
 あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って解答せよ。
 なお,解答欄には,文章に加えて,図表を記載してもよい。

📗設問

■設問ア
 あなたが携わった,AI活用を伴う新たなアプリケーションサービス開発プロジェクトについて,そのサービスの狙い,機能概要,AI技術の活用箇所とその必要性を,事業特性とともに,2ページ(800字相当)以内で答えよ。
■設問イ
 設問アで述べたサービスにおいて,多様なクライアント環境からの利用を前提としたセキュリティ課題と,AI活用に伴うセキュリティリスクを特定するために,あなたはどのようなセキュリティアセスメント(机上確認と技術検証を含む)を実施したか。その具体的な内容,結果,および工夫したことについて,2ページ(800字相当)以上,かつ,4ページ(1,600字相当)以内で具体的に答えよ。
■設問ウ
 設問イで特定されたセキュリティリスクに対し,あなたはどのような対策を具体化し,経営層にどのように説明したか。経営層からの指摘や,それを受けて対策を改善したこと,および今後の継続的なセキュリティ確保のための取り組みについて,1.5ページ(600字相当)以上,かつ,3ページ(1,200字相当)以内で具体的に答えよ。

🪄詳細分析(AI)

 論述式問題(SC-R07-1-PM-Q3K)について、分析した結果を示す。

📝3行まとめ

  1. 【背景】AI活用型アプリの普及により、モデルの脆弱性や多様な利用環境に起因する新たなセキュリティリスクが顕在化しています。
  2. 【SC視点】AI技術の特性とリスクを踏まえ、企画・開発・運用全体を通じたセキュリティガバナンス設計が求められます。
  3. 【行動・着眼点】敵対的攻撃対策、学習データの管理、アクセス経路ごとの要件整理といった多層的・実装指向の対応が重要です。

🧭AI活用型アプリケーションサービスにおけるセキュリティリスク対策についての考察

1. 問題の背景と現状分析

  • 現状の課題・問題点:
    • AI活用サービスは、顧客体験向上や業務効率化を実現する一方、AIモデルへの敵対的攻撃、学習データの汚染(ポイズニング)、プロンプトインジェクションといった、従来の情報システムにはない新たなセキュリティリスクに直面している。
    • 多様なクライアント環境(スマートフォン、IoTデバイス等)からのアクセスは、攻撃対象領域(アタックサーフェス)を拡大させ、一貫したセキュリティレベルの維持を困難にしている。
    • 個人情報を含む学習データのプライバシー保護と、サプライチェーン全体(AIモデルの提供元等)にわたるセキュリティ保証が、新たなガバナンス課題として浮上している。
  • 変化の必要性の背景:
    • ITの経営への浸透: AIがビジネスの中核機能を担うようになり、AIのセキュリティインシデントが直接的な事業停止やブランドイメージの失墜に繋がるようになった。
    • コーポレートガバナンス・コードの要請: 経営層は、AI利用に伴う倫理的・法的・社会的なリスクを理解し、適切なリスク管理体制を構築する責任を負う。
    • リスクの増大と複雑化: 生成AIによるディープフェイク詐欺など、AIを悪用した攻撃が高度化・社会問題化しており、ゼロトラストアーキテクチャの導入や耐量子暗号への準備といった、次世代の脅威への対応が求められている。

2. 理想像の抽出と具体化

  • あるべき理想的な状態:
    • セキュアAIライフサイクル: AIサービスの企画・開発から運用・廃棄まで、全段階でセキュリティが組み込まれ(Security by Design)、AI特有のリスクが継続的に評価・対策される状態。
  • 克服すべき障壁:
    • 技術的・専門的障壁: AIモデルの脆弱性を評価する専門知識やツールの不足、多様なクライアント環境を網羅するテスト環境の構築、AIサプライチェーンの透明性確保。
    • 組織的障壁: データサイエンティストとセキュリティエンジニア間の連携不足、AIリスクに対する経営層の理解不足、全社的なAIリテラシーの欠如。
  • 利害関係者の視点:
    • 経営層: AI活用による事業メリットとセキュリティリスクを天秤にかけ、データに基づいた戦略的な投資判断ができる。
    • 開発者・データサイエンティスト: AIモデル開発の早い段階でセキュリティ要件を組み込み、安全なAIを効率的に開発できる開発環境(MLSecOps)が整備されている。
    • サービス利用者: 自身のデータが適切に保護され、AIによる判断が公正かつ安全であると信頼してサービスを利用できる。

3. 要約

  • [200文字]要約:
    理想的なAI活用サービスのセキュリティは、企画から運用までの全ライフサイクルで対策を講じる「セキュアAIライフサイクル」の実現である。AI特有の脅威と多様な利用環境のリスクを継続的に評価し、技術・組織両面からプロアクティブに対策する体制を構築するものである。
  • [400文字]要約:
    理想的なAI活用サービスのセキュリティ体制は、企画段階からセキュリティを組み込む「Security by Design」を徹底し、全ライフサイクルでリスク管理を行うものである。これには、敵対的攻撃などAI特有の脆弱性評価、学習データのプライバシー保護、サプライチェーン全体の安全性確保が含まれる。MLSecOpsを導入して開発プロセスを自動化・効率化し、経営層から開発者、利用者までがAIを信頼できるガバナンスを確立することが重要である。
  • [800文字]による詳細な考察:
    AI活用型アプリケーションにおけるセキュリティ対策は、従来の境界型防御や脆弱性対策の延長線上にはない、新たなパラダイムを必要とする。
    • あるべき理想像とは、「信頼できるAI(Trustworthy AI)」が組織の文化として根付き、技術的・組織的に担保されている状態である。これは、AIが公正・公平・透明であり、意図しないバイアスや外部からの攻撃に対して堅牢であり、プライバシーを保護し、その動作を人間が理解・説明できることを意味する。
    • 理想像実現へのアプローチとして、まず「MLSecOps」の導入が不可欠である。これは、機械学習(ML)の開発・運用プロセスにセキュリティを統合する考え方だ。具体的には、①学習データの完全性と出所の検証、②AIモデルに対する敵対的攻撃やデータポイズニングへの耐性を検証するテストの自動化、③本番環境でのモデルの振る舞いを監視し、異常を検知する仕組み、④サプライチェーンを構成する外部モデルやライブラリの脆弱性管理、をパイプラインに組み込む。
    • 期待される効果は、セキュリティインシデントの未然防止による事業リスクの低減、安全なサービス提供による顧客信頼の獲得、そしてセキュアな開発プロセスの確立による市場投入時間の短縮である。これにより、企業は自信を持ってAIイノベーションを推進できる。
    • 考慮すべきリスクは、AIセキュリティ専門人材の不足、評価基準やツールの未成熟さ、そしてAIの進化速度にセキュリティ対策が追いつかなくなる可能性である。これには、継続的な研究開発投資、コミュニティとの連携、そしてリスクベースでの柔軟な対策計画の見直しが不可欠となる。

📌補足(考察について)

「考察」の作成手順については、こちらで解説していますので、興味ある方はご参照ください。
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