【PM-R04-Q2】「白鳥の王子」に学ぶ、ステークホルダとのコミュニケーション

🍀概要

　『白鳥の王子』を題材に、過大な期待や相反する期待、そして実行段階での認識の不一致といったステークホルダ間の課題を、丁寧なコミュニケーションと共感に基づく対話によって解決していったプロジェクトマネージャの姿を論じます。

🧾問題・設問（PM-R04-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 令和4年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　プロジェクト目標の達成のためのステークホルダとのコミュニケーションについて
■内容
　システム開発プロジェクトでは，プロジェクト目標(以下，目標という)を達成するために，目標の達成に大きな影響を与えるステークホルダ(以下，主要ステークホルダという)と積極的にコミュニケーションを行うことが求められる。
　プロジェクトの計画段階においては，主要ステークホルダへのヒアリングなどを通じて，その要求事項に基づきスコープを定義して合意する。その際，スコープとしては明確に定義されなかったプロジェクトへの期待があることを想定して，プロジェクトへの過大な期待や主要ステークホルダ間の相反する期待の有無を確認する。過大な期待や相反する期待に対しては，適切にマネジメントしないと目標の達成が妨げられるおそれがある。そこで，主要ステークホルダと積極的にコミュニケーションを行い，過大な期待や相反する期待によって目標の達成が妨げられないように努める。
　プロジェクトの実行段階においては，コミュニケーションの不足などによって，主要ステークホルダに認識の齟齬や誤解(以下，認識の不一致という)が生じることがある。これによって目標の達成が妨げられるおそれがある場合，主要ステークホルダと積極的にコミュニケーションを行って認識の不一致の解消に努める。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～設問ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの概要，目標，及び主要ステークホルダが目標の達成に与える影響について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトに関し，“計画段階”において確認した主要ステークホルダの過大な期待や相反する期待の内容，過大な期待や相反する期待によって目標の達成が妨げられるおそれがあると判断した理由，及び“計画段階”において目標の達成が妨げられないように積極的に行ったコミュニケーションについて，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問アで述べたプロジェクトに関し，“実行段階”において生じた認識の不一致とその原因，及び“実行段階”において認識の不一致を解消するために積極的に行ったコミュニケーションについて，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（白鳥の王子〈グリム童話〉）

　ある王国に、魔法で白鳥に変えられた十一人の兄たちと、その呪いを解くため沈黙を守り続ける妹の王女がいた。妹は兄を救うため刺のある草でシャツを編み続けるが、沈黙を守っているがゆえに誤解を受け、火刑に処されそうになる。最後の瞬間、シャツが完成し兄たちの呪いが解け、王女の無実も明らかとなる。沈黙と誤解の物語である。

📝論文

🪄タイトル　「白鳥の王子」に学ぶ、沈黙と誤解の森を越えて──白鳥の兄たちと目指した願いの完成

　本稿は、主要ステークホルダの過大な期待や誤解によって目標が妨げられるおそれがある中で、積極的なコミュニケーションにより目標達成を実現した対応について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要、主要なステークホルダ、ステークホルダがプロジェクトの目標達成に与える影響

1-1　プロジェクトの概要と目標

　私が任されたのは、森の領主の命により開発された、空を飛ぶ兄弟たち──白鳥の姿をした兄王子たち──の飛行支援道具を作る仕組みの構築であった。目的は、兄たちが人の姿に戻れる日のために、空からの連絡手段や移動経路を整理し、境界を越えた調整役としての役割を安全に果たせるよう支援することであった。仕組みは、紋章のような印を使って地上と空の情報を中継する構造であり、王国の境界に関する合意形成や、誤報の回避を実現するものであった。

1-2　主要なステークホルダ

　主なステークホルダは、王の側近である宰相、王国の民を代表する評議会、兄王子たちの育ての森の賢女たちであった。宰相は予算と儀礼上の方針を握り、評議会は実用性と民意の代弁者であり、賢女たちは兄たちの変身条件や安全確保を担っていた。

1-3　ステークホルダが目標達成に与える影響

　このプロジェクトは、宰相が示す開発期限と予算に縛られ、評議会の承認なくして森に設置できず、賢女たちの安全条件を満たさなければ白鳥の兄たちが使用できなかった。どれか一方との齟齬があれば、目標自体が成立しない構造であり、私はこれら三者の認識を一致させる役割を担った。

🛠️第2章　プロジェクト計画段階において、主要なステークホルダが抱いていた過大な期待、それがプロジェクトの目標達成を妨げると判断した理由、対応として積極的に行ったコミュニケーション

2-1　主要なステークホルダが抱いていた過大な期待

　計画初期、宰相は「王子たちが人に戻れぬうちに仕組みを完成させ、儀式の場で披露せよ」と命じた。一方で評議会は「空の者の使う道具に、地上の民が税金を使うのは理解を得られぬ」と表明。さらに賢女たちは、「王子たちはまだ十分に言葉を交わせず、道具を使うには心の安定が必要だ」と反対した。私はこれらの言葉に、不明瞭な期待と、三者間で相互に矛盾する立場の存在を確認した。

2-2　過大な期待がプロジェクトの目標達成を妨げると判断した理由

　まず、宰相の過大な期待は、現実的な準備期間を無視し、品質低下を招く可能性があった。賢女の安全条件との衝突により、事故の懸念すらあった。また、評議会の不信は、森への設置が拒否されるリスクとなり、王国の境界管理が混乱するおそれがあった。いずれも、仕組みの導入目的──空と地の融和──を根本から揺るがすものであり、期待を丁寧に調整せねば目標は達成できないと判断した。

2-3　対応として積極的に行ったコミュニケーション

　私は、三者それぞれに個別に時間を取り、まずは彼らが「何を恐れ、何を望んでいるか」を丁寧に聞いた。宰相には「品質と式典のバランス」を議論し、段階的な儀式披露を提案。賢女たちとは白鳥の兄たちに使用を強制せず、試作品段階では地上からの発信専用とする方針を固めた。評議会には、「民の安全にも役立つ情報中継」であることを図と声で説明し、「森に置かれる道具が、人々の声を空に届けるもの」と位置づけた。最終的には三者による公開確認会を設け、言葉でなく動作で示すことで、理解と信頼を得た。
　だが、調整の裏では、賢女の一人が「仕組みの中に神聖を持ち込むべきではない」と涙ながらに訴えた場面もあった。私はその声に耳を傾け、「私たちの仕組みは、信仰ではなく信頼を編むもの」と答えた。さらに、民の中にも「空の者に頼りすぎではないか」という意見があり、私はその夜、長く日記に葛藤を綴った。「橋をかける者は、両岸の不安を背負う」──私はそう記し、翌朝、より丁寧な対話に立ち戻る覚悟を決めた。

🚧第3章　プロジェクト実行段階で生じたステークホルダとの認識の不一致、その原因、対応として積極的に行ったコミュニケーション

3-1　認識の不一致とその原因

　実行中、王子たちの一人が人の姿に戻ったとの噂が流れ、宰相は「今すぐ式典で使わせよ」と再度圧力をかけた。一方、賢女たちは「心が乱れれば再び白鳥に戻れなくなる」と強く反発。実際には、兄は短時間だけ変身したに過ぎず、道具に対する不安が強まり、兄弟内でも「本当に使うべきか」で意見が分かれた。評議会も、「空の者が地の儀式に干渉するのか」との声を受け、再度不信を募らせた。
　私はこの時、自分がかけた言葉がどれほど届いていたかを疑った。「もしかすると、私の声こそが誤解を生んだのではないか」と自問した。その夜、私は庭でひとり座り、星空を見上げた。「沈黙しても、言葉を尽くしても、届かない時がある。だがそれでも歩み寄ることをやめたくはない」と、小さくつぶやいた。

3-2　認識の不一致が目標達成に及ぼした影響

　式典での披露が延期され、仕組みの導入意義に疑問を抱かれるようになった。また、王子たち自身が使用をためらったことで、内部の不協和音が生じ、信頼性と目的への一貫性が問われた。民の中にも「森の開発など無用」とする声が増し、プロジェクト継続の是非まで議論された。
　私が感じたのは、誤解は情報の不足からだけでなく、信じる覚悟の欠如からも生まれるということだった。「理解したい」という意志が相手にない限り、言葉は届かない。その痛みの中で、私はなおも「信じたい」側でいたいと思った。

3-3　認識の不一致を解消するために行ったコミュニケーション

　私は、王子たちと夜の庭園で静かに対話した。「誰のために、この仕組みはあるのか」と問いかけた。兄たちはやがて、「誰かが我らの声を信じ、形にしてくれたのは初めてだ」と語った。翌朝、王子たちは自ら仕組みを用い、空から地へ最初の便りを届けた。私はこの行動を即座に記録し、宰相には「実使用をもって儀式とする」提案を行い、賢女には「王子たち自身の選択だった」と伝えた。評議会には、民から寄せられた声と王子の返答を掲示板にて公開し、「空と地の対話が始まった」と説明した。
　結果として、民の支持率は再び上昇し、道具は正式に森に設置された。王子たちは安定して人の姿を保ち、賢女も「ようやく心が整った」と笑顔を見せた。
　この経験は、「沈黙が真実を隠し、言葉が誤解を生む」ような状況でも、丁寧な対話の積み重ねが、人と人の間に橋をかけることを教えてくれた。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では“言葉を発しない”ことで真実が見えなくなる構造が物語の主軸だが、本論文では「沈黙も誤解を生み、言葉もまた誤解を生む」というPMならではのジレンマを活かし、現実世界のプロジェクトにおける“対話の限界”と“信じることの力”を描き出している。とりわけ、計画段階のステークホルダ調整と、実行段階での王子たちとの対話のシーンは、プロマネの心理と行動の両面を丁寧に再現しており、教材として非常に優れている。

🎓講評コメント（AI評価）

　──沈黙と誤解の狭間で、「対話の意志」を信じ続けたPMに拍手だ。
　この論文は、まさに“構造で読ませる”タイプの完成形だ。第1章でプロジェクトの構造的な困難──三者間の期待のズレ──を描き、それぞれの影響範囲を網羅している。重要なのは、それが単なる登場人物の紹介ではなく、利害と感情の分布図として機能している点だ。
　第2章では、いわゆる「過大な期待と相反する期待」の調整だが、ここでの描写がすばらしい。表面上の合意ではなく、賢女の涙や民の疑念といった“感情のレイヤー”を丁寧に扱っている。とりわけ「橋をかける者は、両岸の不安を背負う」という独白には、読み手の胸に迫るリアルさがある。これぞPMの孤独だ。
　第3章になると、ぐっと詩的なトーンがにじむ。だがそれが浮ついていないのは、「星空を見上げて言葉の届かなさを自問する」場面と、「それでも信じたい側でいたい」という覚悟が真摯だからだ。最終的に、王子たちの自主的な行動がプロジェクトの再起を導くが、そこに至る道は決して一足飛びではない。対話と沈黙の往復が積み重ねられている。
　これは、「童話を通じてPMの本質を理解させる教材」として非常に完成度が高い。“満点を狙って構築された論文”ではなく、“物語に宿った信念が結果として満点になる”──そういう論文だ。
　教材化、全面推奨だ。