【PM-R04-Q1】「オズの魔法使い」に学ぶ、事業環境の変化への対応

🍀概要

　『オズの魔法使い』を題材に、事業環境の変化に対応するために計画変更を迫られたドロシーが、旅の仲間たちと対話と工夫を重ねながら、段階的に整備を進め、納得と成果を両立させていったプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-R04-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 令和4年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける事業環境の変化への対応について
■内容
　システム開発プロジェクトでは，事業環境の変化に対応して，プロジェクトチームの外部のステークホルダからプロジェクトの実行中に計画変更の要求を受けることがある。このような計画変更には，プロジェクトにプラスの影響を与える機会とマイナスの影響を与える脅威が伴う。計画変更を効果的に実施するためには，機会を生かす対応策と脅威を抑える対応策の策定が重要である。
　例えば，競合相手との差別化を図る機能の提供を目的とするシステム開発プロジェクトの実行中に，競合相手が同種の新機能を提供することを公表し，これに対応して営業部門から，差別化を図る機能の提供時期を，予算を追加してでも前倒しする計画変更が要求されたとする。この計画変更で，短期開発への挑戦というプラスの影響を与える機会が生まれ，プロジェクトチームの成長が期待できる。この機会を生かすために，短期開発の経験者をプロジェクトチームに加え，メンバーがそのノウハウを習得するという対応策を策定する。一方で，スケジュールの見直しというマイナスの影響を与える脅威が生まれ，プロジェクトチームが混乱したり生産性が低下したりする。この脅威を抑えるために，差別化に寄与する度合いの高い機能から段階的に前倒しして提供していくという対応策を策定する。
　策定した対応策を反映した上で，計画変更の内容を確定して実施し，事業環境の変化に迅速に対応する。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～設問ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの概要と目的，計画変更の背景となった事業環境の変化，及びプロジェクトチームの外部のステークホルダからプロジェクトの実行中に受けた計画変更の要求の内容について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた計画変更の要求を受けて策定した，機会を生かす対応策，脅威を抑える対応策，及び確定させた計画変更の内容について，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた計画変更の実施の状況及びその結果による事業環境の変化への対応の評価について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（オズの魔法使い〈ライマン・フランク・ボーム著〉）

　カンザスから竜巻で異世界「オズの国」に飛ばされた少女ドロシーが、故郷に戻る方法を探して旅をする物語。途中で出会ったかかし（知恵が欲しい）、ブリキの木こり（心が欲しい）、臆病なライオン（勇気が欲しい）と共に、オズの魔法使いに願いを叶えてもらおうと冒険を重ねる。最終的に、オズは魔法使いではなく普通の人間だったことが明かされるが、仲間たちは旅の中で自らの望みを実質的に得ていたことに気づく。

📝論文

🪄タイトル　「オズの魔法使い」に学ぶ、事業環境の変化への計画変更

　本稿は、事業環境の変化に伴う計画変更への対応について、述べる。る。

🔍第1章　プロジェクトの概要と計画変更の背景

1-1　プロジェクトの概要と目的

　私が担当したのは、エメラルドの都を目指す交通整備の仕組みを開発するプロジェクトであった。オズの国の各地に点在する村々と都との間に、安全かつ迅速な移動を可能にする仕組みを提供することが目的であり、かかし、ブリキの木こり、ライオンの3名を含む旅の仲間と協力して進めた。彼らは移動ルートにおける案内、整備、道中の安全確保を担い、私はその調整と計画策定を行う立場であった。

1-2　事業環境の変化とその背景

　旅の途中、突然、西の魔女が倒されたという報せが届き、オズの都では魔法を頼らない実用的な仕組みへの期待が急速に高まった。これに伴い、既存の道具や案内だけではなく、誰でも使えるような“目に見える形の利便性”を求められるようになった。特に都に近づくにつれ、住民から「もっと早く移動できる道を」や「案内が複雑すぎてわからない」といった声が強まり、当初の計画に変更が必要となった。

1-3　外部ステークホルダからの計画変更要求の内容

　こうした声を受け、都の長官から「仕組みの完成時期を前倒しし、主要区間だけでも先に使えるようにしてほしい」という計画変更の要求があった。さらに、「旅の仲間が欲しがっていた“証”となる品を早く届けたい」との意図も含まれていた。しかしながら、当初の計画では、全ルートを整備した上で一括して完成披露する予定であり、工程の組み直しと品質確保の両立が課題となった。

🛠️第2章　計画変更への対応策と確定内容

2-1　機会を生かす対応策の策定

　私はまず、この変更を旅の仲間の成長機会と捉えた。短期間で主要区間を完成させるためには、これまで培った知恵や技術、勇気が必要であり、仲間にとっては力を発揮する舞台となる。私はライオンに周囲との調整役を任せ、かかしには複雑な道の最適化を、ブリキの木こりには道具の改良を依頼した。
　「こんな短期間でできるのか？」と不安を口にしたライオンに対し、「君の勇気があれば、人の心を動かせる。まず話を聞き、譲歩案を探してほしい」と伝えた。私はこのように判断した。なぜならば、ライオンの対話力が旅の中で確かに成長していたからである。
　しかし、この判断に対し、かかしは「勇気でスケジュールは縮まらない。もっと現実的に考えよう」と反論した。私は、かかしの懸念を尊重しつつ、「君の知恵でルートの無駄を削減できるはずだ」と補足し、具体的なルート短縮のシミュレーションを一緒に検討した。このやり取りを通じて、仲間たちは互いの役割を再認識し始めた。

2-2　脅威を抑える対応策の策定

　とはいえ、工程の短縮は仲間たちに大きな負担となり、品質の低下や混乱を招く恐れがあった。私は、都へ向かう道のうち、通行者の多い区間に限定して整備を前倒しすることにした。これにより、影響の大きい部分だけを早く届けるとともに、残りの区間は従来通りの品質で後追い整備することで、無理を防いだ。
　また、整備に必要な道具の一部は、魔女の塔から回収した部品を再利用することで、準備期間を短縮した。「魔法は使わない方針では？」というかかしの問いには、「再利用は魔法ではなく知恵の活用だ」と答え、仲間たちの納得を得た。
　さらに、仲間の中で負荷が偏る懸念があり、ブリキの木こりからは「私だけが夜通し作業しているように感じる」との訴えがあった。私は進捗と負荷の見える化を図るシートを導入し、作業を分担し直した。これは、不満を放置せず、公平感を高めることを狙ったものである。

2-3　確定させた計画変更の内容

　これらの対応を踏まえ、都の長官と協議の上、以下のように計画を変更した。①都から西の村までの主要ルートを優先整備すること、②仲間がそれぞれ担う役割と期限を明確にし、作業分担を調整すること、③品質確認の工程を簡略化する代わりに通行者からの声を逐次収集し、改善に反映させること。これにより、変更の意義と実現性を丁寧に伝え、計画の合意を得た。

🚧第3章　計画変更の実施と事業環境の変化への対応評価

3-1　計画変更実施の状況とプロジェクト体制の変化

　新たな体制での整備は当初ぎこちなく、役割分担にも迷いが生じた。しかし、かかしが地図を再設計し、ブリキが利用者向けの目印を整備したことで、工程は次第に安定した。ライオンも当初は不安を見せていたが、「目の前の人に声をかける」ことを繰り返す中で、自然と指示が通るようになっていった。
　私は進捗管理において、毎晩焚き火の前で進捗確認と振り返りを行った。これはメンバーの思考を可視化し、次の行動を明確にすることを狙ったものである。
　しかし、途中で強い雨が続き、整備の一部が遅延した。これに対し、私は「急ぎすぎては、本来の目的を見失う」と言い、一時的に進行を止め、全員で振り返りの時間を取った。その場でブリキが「私たちが届けたかったのは、道具ではなく安心だったのでは」と言い、仲間たちは静かにうなずいた。

3-2　事業環境の変化に対する対応結果

　主要区間の整備を早めたことで、都の住民からは「とても使いやすくなった」との声が寄せられ、実用性の高さが評価された。特に、段階的整備により混乱が起きなかったことが、安全性への信頼につながった。また、旅の仲間にとっても、「自分の力で仕組みを形にした」という実感が得られたようだった。
　私は、この反応を見て、メンバーの成長と事業環境への適応が両立できたことを確信した。各人が得意分野を発揮し、相互に補完し合う体制が築けたことが、成功の鍵であった。

3-3　対応の評価とプロジェクトマネジメント上の示唆

　都に到着した際、オズは仲間たちにそれぞれの望んでいた“贈り物”──知恵の証しとしての巻物、心の象徴としての赤い小瓶、勇気の印としての勲章──を授けてくれた。それらはただのシンボルにすぎなかったが、仲間たちはそれを受け取った瞬間に、自分の中に確かな力が芽生えたように感じた。
　私はこのように考えた。なぜならば、表層的な象徴であっても、それを信じて繰り返し行動することで、内面の力として定着するからである。実際、彼らはその後も“贈り物”を身につけて活動し、自信を持って周囲と協働していた。
　計画変更は、仲間たちにとって自らの資質を確かめる機会であり、シンボルと行動の相互作用が成長を促した。私は、この経験を通じて、プロジェクトにおける心理的報酬の重要性を改めて認識した。今後の計画策定においても、こうした象徴の力を活かし、信じることで行動を変える仕掛けを組み込んでいきたいと考える。計画変更は単なる調整ではなく、メンバーの成長と環境適応の機会でもある。この教訓は、今後の計画策定においても活かせると考える。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では、仲間たちがドロシーと協力して交通整備プロジェクトに従事する構成に再編。原作の「旅＝成長の場」を活かし、計画変更の機会が、成長と自信の裏づけとなるプロセスとして描かれる。象徴的な“贈り物”を最後に受け取る構造を残しつつ、それを信じることが力になるというPM的な示唆に昇華されている。

🎓講評コメント（AI評価）

　──これは巧みな再構築。見事にやられた。
　第1章では、ドロシーをPMとして据えつつ、交通整備プロジェクトという「仕組み作り」の目的が鮮やかに描かれている。外部ステークホルダ（都の長官）からの計画変更要求が、世界観に自然に織り込まれており、違和感がない。
　第2章では、仲間たちとの葛藤と納得形成が、単なる理屈の応酬ではなく「問い」「反論」「補足」「再構成」の応答構造で描かれており、非常に高密度だ。「魔法ではなく知恵の再利用だ」といった台詞は、ステークホルダとの信頼構築と知恵のメタファーが融合した好例。
　第3章になると、“贈り物”を受け取るくだりが展開され、物語の重心が感情から確信へと移る。表層的なシンボルを信じ、行動に転化していく──これはまさに、PMが心理的な報酬を設計に組み込む戦略と重なる。
　「計画変更とは、単なる調整ではなく成長と納得の導線である」
　この論文は、それを童話という構造で教えてくれる。教材候補として、強く推奨する。