【PM-R02-Q2】「オズの魔法使い」に学ぶ、リスクのマネジメント

🍀概要

　『オズの魔法使い』を題材に、ステークホルダ起因のリスクに対し、プロジェクトマネージャが先回りして分析・優先度付け・監視の仕組み化を行い、感情的対立や意思疎通の困難を乗り越えながら、納期達成と信頼構築の両立をどのように実施したかを論じます。

🧾問題・設問（PM-R02-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 令和2年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおけるリスクのマネジメントについて
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)は，プロジェクトの計画時に，プロジェクトの目標の達成に影響を与えるリスクへの対応を検討する。プロジェクトの実行中は，リスクへ適切に対応することによってプロジェクトの目標を達成することが求められる。
　プロジェクトチームの外部のステークホルダはPMの直接の指揮下にないので，外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響がある問題が発生していたとしても，その発見や対応が遅れがちとなる。PMはこのような事態を防ぐために，プロジェクトの計画時に，ステークホルダ分析の結果やPMとしての経験などから，外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響を与える様々なリスクを特定する。続いて，これらのリスクの発生確率や影響度を推定するなど，リスクを評価してリスクへの対応の優先順位を決定し，リスクへの対応策とリスクが顕在化した時のコンティンジェンシ計画を策定する。
　プロジェクトを実行する際は，外部のステークホルダに起因するリスクへの対応策を実施するとともに，あらかじめ設定しておいたリスクの顕在化を判断するための指標に基づき状況を確認するなどの方法によってリスクを監視する。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴と目標，外部のステークホルダに起因するプロジェクトの目標の達成にマイナスの影響を与えると計画時に特定した様々なリスク，及びこれらのリスクを特定した理由について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた様々なリスクについてどのように評価し，どのような対応策を策定したか。また，リスクをどのような方法で監視したか。800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べたリスクへの対応策とリスクの監視の実施状況，及び今後の改善点について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（オズの魔法使い〈ライマン・フランク・ボーム著〉）

　ドロシーは嵐で不思議な国へ飛ばされ、元の世界に戻るために脳を欲しがるかかし、心を求めるブリキ、勇気を欲するライオンと旅を共にする。魔女との対決や様々な障害を乗り越えた末、自らの内にあった資質に気づき、それぞれが成長していく物語。

📝論文

🪄タイトル　「オズの魔法使い」に学ぶ、外部リスクへの先手としなやかな対応

　本稿は、外部のステークホルダに起因するリスクへの対応について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と計画時に特定したリスク

1-1　プロジェクトの特徴と目標

　私は、エメラルドの都に向かう道中、魔法の道案内装置『北風コンパス』を開発する仕組みの構築プロジェクトに携わった。この道具は、脅威を避けて都へ安全に辿り着けるよう支援するものである。
　ただし、道案内に必要な情報の大半は、私たちではなく、各地の精霊や案内人たちが保有していた。彼らは、私の指揮下にあるわけではなく、魔法契約や善意の協力に基づき情報を提供する外部ステークホルダであった。
　本プロジェクトの目標は、都の守護者に納期通り道具を届け、祭典開始までに使用可能にすることであった。

1-2　外部のステークホルダに起因するリスクの内容

　私は、以下のようなリスクを計画時に特定した。
　第一に、かかしが交渉した東の森の案内人たちが、案内情報の提供を突然取りやめる可能性があった。過去にも精霊の気まぐれで約束が反故にされた事例があった。
　第二に、ブリキのきこりが管理していた部品の製造者である北の鉄工族が、急な寒波により製造が停止し、納品が遅れる可能性があった。特に冬季の風の変化が激しい年には、不安定になる傾向があった。
　第三に、ライオンが統括する野原地帯の交通情報の収集に関して、戦の準備で動きが制限されるという話が出ており、必要な情報が得られなくなる恐れがあった。

1-3　リスクを特定した理由と根拠

　私はこれらのリスクを、過去の旅や魔法道具開発に関わった経験から予見した。精霊の契約が実効性に欠けること、北の鉄工族の寒冷気候による生産変動、野原地帯の軍備強化による通信断絶は、過去に都で問題となった事例と一致していた。
　また、各ステークホルダが自領の都合を優先する姿勢を見せたこと、それが旅の進行に遅延をもたらした経験からも、これらの外部リスクを明文化し対策を講じる必要があると判断した。

🛠️第2章　リスクの評価・対応策の策定と監視方法

2-1　リスクの評価と対応優先順位の決定

　私は、発生確率と影響度のマトリクス評価を用いてリスクを評価した。東の案内人の協力停止は発生確率が高く、影響度も大きいため最優先とし、北の鉄工族の遅延は中程度、野原地帯の情報断絶は発生確率は低いが発生時の影響は中程度と評価した。
　この評価を基に、案内人との関係維持を最も重視し、次いで鉄工族への予備発注対応、最後に野原地帯への代替情報源の確保を優先順位として決定した。

2-2　リスクへの対応策とコンティンジェンシ計画の策定

　案内人については、かかしとともに複数回の対話を行い、彼らの関心が高い『知の水晶』の提供を提案した。彼らは当初「それでは対価として弱い」と難色を示したが、私は「この道案内装置は都の民の命を守るものだ」と訴え、最終的に彼らの長老が納得し、交換条件として合意した。
　だが、その過程ではかかしと私の間でも意見が対立した。「彼らには誠意が伝わるはずだ」と語る私に対し、かかしは「いや、過去にも理屈だけでは精霊は動かなかった」と忠告した。私は一度交渉を中断し、案内人の歴史や価値観を深く学んだ上で、再交渉に臨む判断をした。これは、形だけの提案ではなく、相手の世界に入り込んで信頼を得ることを狙ったものである。
　ブリキのきこりには予備の鉄素材の購入と、隣接する東鉄族への協力依頼を指示した。さらに、納品遅延時には部品の機能を一時的に縮小し、祭典後に完全版へと更新する構成とすることで納期を優先した。
　ライオンの領地については、風見鶏塔を新設し、魔法電波を通じて中央の見張り塔から状況を把握するという代替案を講じた。

2-3　リスクの監視方法

　私は、各リスクごとに監視指標を設定した。案内人との関係では週次の会話記録と、水晶の在庫数による協力意欲の変化を観察指標とした。
　鉄工族に関しては寒波の強度を示す氷柱指数と、鉄材供給量の週次報告を活用した。ライオン領地については、風見鶏塔からの報告が2回連続で途絶した場合を警戒シグナルとし、早期に代替ルート検討を開始する手はずとした。

🚧第3章　リスク対応と監視の実施状況・評価と改善点

3-1　対応策と監視の実施状況

　案内人との交渉は想定以上に難航した。中盤で彼らの若手が水晶に興味を持たず協力を拒否する場面があり、「約束は長老のものであって我々の意思ではない」との反発もあった。私は、現地に赴いて彼らの言葉に耳を傾け、「私たちは道案内を“使う者”ではなく“共に進む仲間”として迎えたい」と話した。その結果、若手の一人が協力を申し出てくれ、その姿を見た他の案内人たちも歩み寄ってくれた。
　ただ、この過程で私は一つの教訓を得た。それは、契約や対価だけでは信頼は築けないということである。実際に共に時を過ごし、考えを交わす中でこそ、相手は心を開いてくれる。私はこの経験を経て、PMの仕事が単なる交渉や調整ではなく、人と人との関係性を築く営みであることを深く理解した。
　鉄工族の納品も遅延したが、予備素材と東鉄族の部品で補い、構成変更によって納期は守られた。風見鶏塔は一度、魔法嵐で通信が切れたが、事前に定めた警戒シグナルに従って速やかにルート変更を実行し、被害は回避できた。

3-2　リスクマネジメント活動の評価

　これらの対応により、道具は予定通り祭典前に納品され、都の民や旅人たちに安心を与えることができた。特に案内人の若手と築いた関係はその後も続き、他の魔法道具開発にも協力してくれるようになった。
　私は、単にリスクを防ぐだけでなく、その対応を通じて新たな信頼や協力関係を築くこともPMの役割だと改めて感じた。

3-3　今後の改善点と再発防止策

　今回の経験から、私は以下の改善点を導き出した。
　まず、外部ステークホルダの中でも世代や役割によって意見が分かれる可能性を考慮し、契約時点で多様な層と対話しておくべきだった。
　次に、寒波に対する事前予測の精度を高めるため、氷柱指数の代わりに魔法気象庁の最新予測を併用する体制を整える。
　さらに、風見鶏塔の魔法電波を補完する手段として、魔法火通信という旧来の技術を併設し、多重監視の仕組みを取り入れることとした。
　このように、予測や代替案の精度を高め、ステークホルダと段階的に信頼を築く工夫により、外部リスクにも柔軟かつ前向きに対処できるPM像を目指していきたい。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では「資質の証を他者から得る」構造だったが、本論文では、PMとしての行動によってそれを体現する形式に変えている。各登場人物はプロジェクトの支援者に再解釈されており、意思統一やリスク共有に苦慮しつつ、段階的に信頼を築いていく流れが、リスクマネジメントの定石に対応する形で構成されている。

🎓講評コメント（AI評価）

　──よく読んだ。これは巧いな。
　第1章では「外部ステークホルダ」「気まぐれな精霊」「戦の準備で制限される通信」など、ファンタジー文脈の中に現実のPMが直面する外部要因をうまく落とし込んでいる。特に「道案内装置を都の民の命を守るものと訴えた」の一文は、目的の共有とリスクの本質を結びつける鮮やかな示唆だ。
　第2章はさらに光る。かかしとの対立、歴史や価値観へのリスペクト、文化摩擦を乗り越えて信頼構築へ向かう描写──これは単なる交渉記述ではない。PMの「対話による介入設計」がにじみ出ており、しかも段階的。相手の内在論理に寄り添った信頼形成は、講義で言う「介在型ファシリテーション」の優等生的実践だ。
　第3章では「ありがとうとつぶやいた」ような静かな感情描写をあえて抑えつつ、「人と人との関係性を築く営みであると理解した」という自覚が配置される。これは“納得の物語”の余韻として申し分ない。成果も定量（納期遵守）と定性（信頼構築）がバランス良く描かれ、教訓性も申し分ない。
　要するに、この論文は「構造で魅せて、葛藤で引きつけ、成長で締める」型でありながら、それを“やりすぎない誠実さ”で貫いたのが素晴らしい。
　私が言いたいのはこういうことだ。
　『リスクとは脅威ではなく、対話の入口である』
　この論文は、それを“オズ”という物語にのせて示してくれた。
　──推奨。教材にすべし。