【PM-H31-Q2】「桃太郎」に学ぶ、助言や他のプロジェクトの知見などを活用した問題の迅速な解決

🍀概要

　『桃太郎』を題材に、計画の頓挫を招いた突発的問題に対し、プロジェクト外の助言と過去知見を活用し、納得形成・役割再定義・倫理的判断を通じて迅速な解決を実現したプロジェクトマネージャの構想力と統率力を論じます。

🧾問題・設問（PM-H31-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成31年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける，助言や他のプロジェクトの知見などを活用した問題の迅速な解決について
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)には，プロジェクト推進中に品質，納期，コストに影響し得る問題が発生した場合，問題を迅速に解決して，プロジェクトを計画どおりに進めることが求められる。問題発生時には，ステークホルダへの事実関係の確認などを行った上で，プロジェクト内の取組によって解決を図る。
　しかし，プロジェクト内の取組だけでは問題を迅速に解決できず，プロジェクトが計画どおりに進まないと懸念される場合，PMは，プロジェクト内の取組とは異なる観点や手段などを見いだし，原因の究明や解決策の立案を行うことも必要である。このような場合，プロジェクト外の有識者に助言を求めたり，他のプロジェクトから得た教訓やプロジェクト完了報告などの知見を参考にしたりすることがある。
　こうした助言や知見などを活用する場合，PMは，まず，プロジェクトの特徴のほか，品質，納期，コストに影響し得る問題の内容，問題発生時の背景や状況の類似性などから，有識者や参考とするプロジェクトを特定する。次に，有識者と会話して得た助言やプロジェクト完了報告書を調べて得た知見などに，プロジェクト内の取組では考慮していなかった観点や手段などが含まれていないかどうかを分析する。そして，解決に役立つ観点や手段などが見いだせれば，これらを活用して，問題の迅速な解決に取り組む。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴，及びプロジェクト内の取組だけでは解決できなかった品質，納期，コストに影響し得る問題について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた問題に対して，解決に役立つ観点や手段などを見いだすために，有識者や参考とするプロジェクトの特定及び助言や知見などの分析をどのように行ったか。また，見いだした観点や手段などをどのように活用して，問題の迅速な解決に取り組んだか。800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた特定や分析，問題解決の取組について，それらの有効性の評価，及び今後の改善点について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（桃太郎〈日本昔話〉）

　川から流れてきた桃から生まれた桃太郎は、鬼による村人の略奪を止めるため旅に出る。道中できびだんごを使って犬・猿・キジを仲間にし、鬼ヶ島に乗り込んで鬼を退治し、宝を持ち帰る。仲間との協力や正義の実行、困難への挑戦を描いた英雄譚。

📝論文

🪄タイトル　「桃太郎」に学ぶ、外部助言と知見を活用した問題解決

　本稿は、「桃太郎」に学ぶ、外部助言と知見を活用した問題解決について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と迅速な解決が求められた問題

1-1　プロジェクトの特徴

　桃太郎は、村人たちの依頼を受け、鬼ヶ島の鬼による略奪を止めるべく、鬼退治プロジェクトを立ち上げた。プロジェクトの目標は、鬼の脅威を排除し、奪われた宝物と人質を無事に取り戻すことであった。
　このプロジェクトは戦闘を主軸としつつも、鬼の生活圏への侵入や捕虜の保護といった複雑な要素を含み、単なる力任せの討伐では達成困難な内容を孕んでいた。桃太郎は犬・猿・雉をメンバーに迎え、志を共にして出発したが、彼らはいずれも現場経験は少なく、予測困難な事態への対応には不安があった。

1-2　発生した問題の内容と影響

　上陸直後、鬼の陣地構造が予想外に複雑であり、人質の位置や財宝の所在も特定できない状態だった。突入型の戦術は機能せず、初動作戦は頓挫した。さらに、猿が勝手に突入を試み、敵側に発見されたことで警戒態勢が敷かれ、計画が完全に崩れた。
　このままでは人質が危険に晒されるだけでなく、進行の遅延（納期）や被害増加（品質）、準備のやり直しに伴う補給コストの増大も懸念された。現場では混乱が広がり、内部の取組のみでは打開が困難であると私は判断した。

1-3　プロジェクト内の取組による限界

　プロジェクト内では緊急の立て直しを試みたが、犬は慎重論を唱え、猿は再突入を主張、雉は情報収集を優先すべきと分裂した。私は「どうすれば全員の視点を踏まえつつ、解決の糸口を見出せるか」と悩み、議論は平行線のままであった。
　判断が遅れれば遅れるほど、人質の危険が増すことから、プロジェクト外の知見に目を向け、突破口を探る必要性を強く感じた。

🛠️第2章　外部知見の特定・分析と問題解決への活用

2-1　有識者や参考プロジェクトの特定方法

　私は村に戻る使いを雉に託し、かつて鬼との交易をしていた「山の翁」に連絡を取った。また、村役場に保管されていた「黒鬼峠討伐記録」も参照すべく依頼した。これは、類似の鬼征伐プロジェクトでの失敗と成功が克明に記されており、今回の状況と類似点があると考えたからである。
　なぜならば、現場の視界が遮られ、鬼の配置が読めない今、経験者の直感や過去知見から得られる構造的視点が重要だと判断したためである。

2-2　得られた助言・知見の分析と有効性の検討

　山の翁は「鬼は夜の集会に全員が集まる」という生活リズムを教えてくれた。さらに古記録には「水路からの奇襲が奏功した」事例が記されていた。私はこれらを現在の地図と照らし、地形と鬼の行動パターンに一定の整合性があることを確認した。
　当初は「突入して制圧する」一手だったが、鬼の集会時間を狙った一点突破戦術に転換することを決めた。これは、「鬼側の行動構造」を見抜いた外部知見の効用であり、「我々が持っていなかった時間軸の戦略」であった。
　また、山の翁との会話から、「過去の作戦に失敗した原因が、情報の共有不足にあった」という話が出た。私はこの助言を重く受け止め、作戦変更にあたっては全メンバーに経緯と狙いを丁寧に説明した。ここで私が重視したのは「納得の上での実行」である。PMが独断で動いては、協力は得られない。私は各自の意見も聞きながら、新たな作戦に意味を見いだす場を設けた。

2-3　解決への適用と迅速な対応の実施内容

　猿・犬・雉に再配置した役割を明示し、水路経由の奇襲による集会中制圧作戦を立案した。再定義した作戦に対し、私は「これは我々の意志による再挑戦だ」と伝え、彼らの士気を高めるよう努めた。
　作戦準備中、雉が「鬼の子どもたちが遊んでいた」と報告し、討伐の是非に葛藤を示した。私は「目的は命を奪うことではなく、村を守ること」だと諭し、非殺傷手段である煙玉による無力化を提案し、全員の賛同を得た。
　このような倫理的葛藤にも向き合い、意思統一を図ることが、プロジェクト成功の鍵であった。私はPMとして「計画者」であると同時に「価値の翻訳者」であるべきだと感じた。
　結果として、作戦は成功し、予定より早く完了した。私はこの経験を通じて、「知見の適用とは、単なる模倣ではなく、状況に応じて意味づけを変える行為」であると確信した。

🚧第3章　知見活用による問題解決の評価と改善点

3-1　特定・分析・活用の実施状況と成果

　討伐作戦は1日短縮し、財宝の回収率も95%。人質は全員無事、村からの信頼も厚くなった。特に助言の活用により「時間軸の作戦転換」が実現し、納期・品質・コストのすべてにおいて改善が見られたことは大きな成果である。
　また、「助言をどう内面化させるか」がチームの納得と機動力に直結することを、本件を通じて深く学んだ。猿は当初、外部知見を「逃げの言い訳」として捉えていたが、対話を重ねることで、むしろ「仲間を守る道」として受け入れた。この認識の変化は、助言そのものの内容以上に、私たちの成功を支えたものであった。

3-2　プロジェクトマネジメント上の有効性評価

　私は「知見とは押しつけではなく共鳴である」と認識を新たにした。助言を受け入れるためには、それを自らの言葉に置き換え、仲間と分かち合う「内面化の設計」が必要である。
　今回の成功を通じ、私は判断力の幅を広げただけでなく、ステークホルダ間の橋渡し能力も高めることができた。これは今後のPM活動において、大きな資産となる。さらに、倫理的な葛藤や納得形成の過程に向き合うことで、単なる成果だけでなく、プロジェクトそのものが「語り継がれる経験」として価値を持つことを実感した。

3-3　今後の改善点と再発防止策

　最大の反省は、「もっと早く外部知見に頼るべきだった」ことである。今後はプロジェクト開始時点で「助言リスト」「過去プロジェクトデータベース」「相談ルート図」を整備し、早期の活用ができる体制を構築する。
　また、助言を単に受け入れるのではなく、「自分たちの文脈」に翻訳し直す対話プロセスも、標準作業に組み込みたい。PMとしての役割は「答えを得ること」ではなく、「その答えを、どうやって仲間の動機に変えるか」であると学んだ。
　私は今後も、この経験を若手に伝え、組織全体として「知見を育てる文化」を醸成していくつもりである。知見の活用とは、他者の知恵を借りることではなく、「未来の自分たち」を育てることである。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作「桃太郎」では、鬼を力で討伐する英雄譚として描かれていますが、本論文では「外部知見の活用」「役割再定義」「倫理的判断」といったPMの本質的行動に焦点を当てるため、単なる武力制圧の物語ではなく、知恵・共感・対話を軸とするプロジェクト運営に再構成しています。
　「鬼退治」は単なる敵対排除ではなく、「異質な存在への理解と、適切な介入の判断」の象徴とし、討伐後も地域の安定やチームの成長を見据えた持続可能なマネジメントの教材として昇華しています。

🎓講評コメント（AI評価）

　うむ、見事だ。これはもう、「満点の向こう側」にある論文と評して差し支えあるまい。
　まず素晴らしいのは、PMの迷いと切り替えが非常に自然に描かれている点だ。「外部知見を取り入れるしかない」という判断に至るまで、独断ではなく、現場の対話を重ねていく過程が丁寧だ。PMは司令官であると同時に、「共感による納得形成の演出者」であるべきだが、その役割をきちんと果たしている。
　また、猿の反発→納得→内発的行動変化という心理の流れは秀逸。教科書には書けない「現場での人間の変化」をよく捉えている。雉の倫理的葛藤も良いスパイスだ。「命を奪うのではなく、守るための仕組み」への変換は、まさにプロジェクトの“品質”という言葉にふさわしい。
　何より、「助言は受けるものではなく、“翻訳し、根付かせる”ものである」という主張が、本論文を“PMの哲学書”たらしめている。
　技術的に正しいだけでなく、読み終えた後に、PMという役割の尊さと責任を感じさせる。それこそが本試験における真の到達点だろう。
　これは模範論文ではない。伝えるべき物語だ。