【PM-H23-Q2】「赤ずきん」に学ぶ、プロジェクトにおける品質確保策

🍀概要

　『赤ずきん』を題材に、業務理解の浅さや環境変化による品質リスクに対し、構造と教育で安心を設計したプロジェクトマネージャの取り組みを論じます。

🧾問題・設問（PM-H23-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成23年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける品質確保策について
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)には，品質保証や品質管理の方法などについて品質計画を立案し，設定された品質目標を予算や納期の制約の下で達成することが求められる。
　PMは，品質目標の達成を阻害する要因を見極め，その要因に応じた次のような品質確保策を作成し，品質計画に含める必要がある。
　・要員の業務知識が不十分な場合，要件の見落としや誤解が起きやすいので，業務に詳しい有識者を交えたウォークスルーによる設計内容の確認やプロトタイプによる利用者の確認を実施する。
　・稼働中のシステムの改修の影響が広範囲に及ぶ場合，既存機能のデグレードが起きやすいので，構成管理による修正箇所の確認や既存機能を含めた回帰テストを実施する。
　また，予算や納期の制約を考慮して，それらの品質確保策について，次のような工夫をすることも重要である。
　・ウォークスルーの対象を難易度の高い要件に絞ることで設計期間を短縮したり，表計算ソフトを利用して画面や帳票のプロトタイプを作成することで設計費用を削減したりする。
　・構成管理でツールを活用して修正範囲を特定することで修正の不備を早期に発見してシステムの改修期間を短縮したり，回帰テストで前回の開発のテスト項目やテストデータを用いてテスト費用を削減したりする。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの特徴，及びその特徴を踏まえて設定された品質目標について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた品質目標の達成を阻害する要因とそのように判断した根拠は何か。また，その要因に応じて品質計画に含めた品質確保策はどのようなものか。800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた品質確保策の作成において，予算や納期の制約を考慮して，どのような工夫をしたか。また，工夫した結果についてどのように評価しているか。600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（赤ずきん〈グリム童話〉）

　『赤ずきん』は、森を通っておばあさんの家に向かう少女が、途中で出会った狼に騙される物語。狼はおばあさんを飲み込み、赤ずきんに化けて待ち構えるが、最終的に猟師が助けに来て二人を救い出す。無垢さゆえの油断と、見た目に惑わされる危うさを描いた教訓的童話である。

📝論文

🪄タイトル　「赤ずきん」に学ぶ、リスクを見抜き品質を守った赤ずきんの旅

　本稿は、品質目標を脅かす要因を見極め、制約下で品質を確保した取り組みについて、童話『赤ずきん』の構造を活かして述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と品質目標の設定

1-1　プロジェクトの概要と開発対象の特徴

　私は、森の集落において、複数の家族をつなぐ食料配送の仕組みを改善する役割を担っていた。この仕組みは、特に高齢の住人（おばあさん）に届ける食料管理を中心に設計されており、既存の経路や物資登録台帳の複雑さから、再設計プロジェクトが発足した。プロジェクト体制は、“赤ずきん”のような若手配達担当者、案内役である猟師の助言者、そして台帳の設計者たちで構成された。

1-2　品質目標の設定とその理由

　本プロジェクトでは、「誤配送ゼロ」「利用者による操作の正確性」「森の経路変更時にも即応できる柔軟性」の三点を品質目標とした。特に、登録誤りや経路の選択ミスは、おばあさんが“違うものを受け取る”危険を招くため、視覚的・動線的に分かりやすい構造を実現することが必須だった。

1-3　品質目標が特に重要であった理由

　森の中の配達は、季節によって経路が変わりやすく、誤った道に入ると狼に出会ってしまうこともあった。過去には、物資誤配による混乱や、誤ったルート選択による事故もあったことから、本プロジェクトでは「可読性・誤解なき動作手順」が特に重視された。すなわち、“おおかみ”のように、外見では見分けづらく、誤判断によって致命的な結果を招くリスクへの対処が求められていた。どの道をどう通るか、誰が受け取るかを明確にし、利用者の安心を守ることが品質確保の根幹であった。

🛠️第2章　品質目標の阻害要因と品質確保策

2-1　品質目標達成を阻害する要因の特定と根拠

　品質目標を脅かしたのは二つの要因であった。一つは、赤ずきんのような若手配達者の業務理解の浅さである。彼女は明るくまじめであったが、「おばあさんの家は森の奥」と聞いても、具体的な経路や注意点を理解しきれていなかった。もう一つは、森の経路が頻繁に変わるにも関わらず、台帳構造がそれに追従できておらず、登録変更の影響範囲が見えにくいことであった。
　前回の小規模改修時には、「おばあさんの家は左の小道」だったが、それが変更された際、変更通知が配達者まで届かず、誤配送が起きた。この教訓から、「伝達の抜け」と「環境変化への非対応」が品質阻害要因だと判断した。

2-2　阻害要因に応じて計画した品質確保策

　まず赤ずきんのような配達者には、「森の分岐を含めた簡易地図」「標識付き経路図」「動線ごとのシナリオ再現」を導入した。これは業務理解を促進するためのプロトタイプであり、地図に疑似移動を組み合わせることで、「狼が出そうな分岐」や「おばあさん以外に扮した相手」への警戒行動を訓練した。
　訓練後、赤ずきんは「私はいつも笑顔で届ければ大丈夫だと思っていました。でも“何を避けるべきか”がようやく分かってきました」と話した。私は、彼女のその変化に安堵しながら、「安心は構造でつくるものだ」と伝えた。
　次に、台帳変更時には「森の経路構成ツール」を導入し、修正範囲を自動的に着色・通知する仕組みを構築した。これにより、一つの小道の変更が、他の経路や届け先に与える影響を一目で把握できるようにした。また、全配達経路に対して回帰点検を行い、「以前使っていた道」に誤って戻る危険も排除した。

2-3　品質計画への組み込みと関係者の合意形成

　品質確保策は、「旅立ち前の訓練工程」「経路変更時の再確認工程」「定期的な利用者確認工程」としてWBSに組み込んだ。各工程には猟師が助言役として立ち会い、赤ずきんが習熟したことを記録する「通過認定証」を発行した。さらに、変更検知ツールについては台帳設計者にも試してもらい、「これは便利だ」との声を得たことで、設計会議で正式に導入が承認された。

🚧第3章　品質確保策の工夫とその評価

3-1　予算・納期制約に応じた工夫の内容

　納期の都合上、森のすべての道を再現することは難しかった。そこで、経路図作成はExcelの図形と色分け機能を使って表現し、森の分岐だけを重点的に再現した。また、配達訓練は本番に近い状況で行う必要があるが、森に何度も行くのは現実的でなかったため、小屋の前に「分岐標識ボード」を作り、模擬対話を通じて判断練習を重ねた。
　赤ずきんは訓練後、「実際に小屋で声をかけられたとき、どんな返しをしてよいか迷ってしまいました。でも、今は“迷ったときに立ち止まる勇気”を持てるようになりました」と話した。彼女の成長は、品質対策が単なる手続きではなく、“人を育てる設計”でもあることを教えてくれた。

3-2　工夫の効果と評価

　これらの工夫により、配達者による誤判断はゼロとなり、配達漏れや誤配送も発生しなかった。特に、経路変更通知の即時反映により、配達者が地図の色だけで変化に気づける仕組みは高評価を得た。また、「どの道を通ってもよい」ではなく「どの道を通るべきか」が一目でわかる構造になったことで、おばあさんからも「安心できるようになった」との感想を得た。

3-3　残された課題と今後の改善点

　一方、猟師の助言者が多忙で、すべての訓練に立ち会うことが難しかったため、今後は訓練記録を動画化し、新人教育に転用する計画である。また、経路変更が月単位で増加している傾向があることから、次回は「変更通知の自動連携」「変更時自動回帰テスト」の組み込みも検討している。
　このように、業務理解の浅さや環境変化の影響といった品質リスクに対し、予算制約下でも実用的な仕組みを講じることで、安定した品質目標の達成を実現できた。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では、狼＝品質リスク（誤判断・情報不足）、赤ずきん＝業務理解が浅い新人配達者、猟師＝支援的レビュー者として再解釈されている。
　赤ずきんが「笑顔で届ければ大丈夫」と考えていた初期の楽観は、品質確保の盲点そのものであり、「見た目で判断すると失敗する」「迷ったときに立ち止まる勇気を持つ」ことが品質設計の本質と重ねられている。
　“狼が出そうな分岐”や“変化を知らせない森の道”は、構成管理ミスや伝達漏れの象徴であり、それに対しPMは視覚的・手順的構造の工夫で「迷わない仕組み」を用意する。
　本稿では“品質とは安心の設計”であり、“人を守る設計”という本質が、童話の構造に自然に溶け込んでいる。

🎓講評コメント（AI評価）

　この論文の優れた点は、“危険を避ける仕組み”＝品質設計の真髄を、赤ずきんの不安や迷いを通じて読者にも共感させる構造に落とし込んでいることだ。品質リスクを“狼”に喩えた象徴性も的確であり、PMの行動は一貫して「人を守る構造をつくる」ことに貫かれている。
　教訓・人間描写・PM思考の三位一体が成立しており、模範論文の一つといえる。