【PM-H16-Q1】「鶴の恩返し」に学ぶ、プロジェクトの機密管理

🍀概要

　『鶴の恩返し』を題材に、見てはならぬという禁を比喩として活かし、プロジェクトにおける機密管理の難しさと、その意義の共有に奮闘したプロジェクトマネージャの取り組みを論じます。

🧾問題・設問（PM-H16-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成16年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　プロジェクトの機密管理について
■内容
　プロジェクトマネージャには，情報システムを開発する際に利用したり，作成したりする機密情報の外部への漏えい防止が求められる。機密情報が漏えいした場合，経済的な損害はもとより，社会的な影響も予想されるので，機密管理のルールを定めて運用し，漏えいを防止する必要がある。
　具体的には，まず，機密として管理すべき情報を明確にし，機密度(漏えいの影響レベルなど)を決定する。次に，機密度に応じて，アクセスコントロール，作業管理，文書管理などの諸ルールを定め，教育などを通じてプロジェクト関係者全員の機密管理意識を高め，ルールを周知徹底する。プロジェクト実行時は，ルールに従って運用されているか，ルール逸脱や漏えいが発生していないかを定期的に確認するなどの日常管理を徹底する。
　また，機密情報が漏えいした場合を想定し，損害を最小限に抑えたり，機密情報の利用を困難にしたりするなど，漏えい時の影響を少なくする対策も重要である。例えば，機密情報は可能な限り分割して管理する，機密情報を二重のパスワードで保護するなどである。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの概要と，その中で機密として管理した情報を，理由や機密度とともに800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトにおける機密管理のルール，及びルールに従って運用するための日常管理について，あなたが特に工夫した点を中心に，具体的に述べよ。また，漏えい時の影響を少なくする対策は何か。簡潔に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べたルール及び日常管理について，あなたはどのように評価しているか。また，今後どのような改善を考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（鶴の恩返し〈日本昔話〉）

　『鶴の恩返し』は、罠にかかった鶴を助けた男のもとに、ある日見知らぬ女性が訪れ、内職として反物を織って暮らし始める。彼女は「決して覗かないで」と約束し、部屋に籠って織物を続けるが、男はその約束を破ってしまう。実はその女性は助けた鶴であり、正体を知られたことで姿を消してしまう──「秘密を守ることの重さ」と「信頼の儚さ」を描いた物語である。

📝論文

🪄タイトル　「鶴の恩返し」に学ぶ、秘密を守る仕組みと心構え

　本稿は、プロジェクトにおける機密情報の管理と、ルール運用・日常管理・再発防止策について、プロジェクトマネージャとしての工夫と判断を述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と機密情報の管理対象

1-1　プロジェクトの目的と基本情報

　私が取り組んだのは、村の織物職人たちが使う新しい織機の仕組みづくりであった。期間は四季を一巡するほどの長さで、織物組合から依頼されたこの計画は、外部の職人や動物の力も借りた五人構成の旅のようなものであった。
　この織機には、村に古くから伝わる“秘伝の織り模様”を再現する技術が含まれており、その保護が重大な課題であった。この模様は、外に知られれば真似されてしまう恐れがあり、村の生計を脅かす可能性があった。

1-2　機密として管理した情報と機密度の判断

　機密指定したのは、織機の中核となる織り順番の記録、素材処理の工程表、そして模様生成の仕掛けである。これらは“高”の機密度に分類した。万一外部に流出すれば、村の織物が唯一無二でなくなり、取引先も失われる可能性が高いと判断したためである。

1-3　機密指定の背景と関係者の意識

　以前、他の村の職人が見学に来た際、図案が盗まれたという苦い経験があり、委託元である組合からは「絶対に再発させるな」と強く求められていた。ただし、我々の中にも「作業は開けた小屋でやった方が楽だ」という者もおり、機密管理への意識にはばらつきがあった。

🛠️第2章　機密管理ルールと日常管理の実施内容

2-1　機密管理ルールの策定と周知徹底策

　私はまず、織機の部品と設計図を管理するための箱に“開封禁止”の印をつけ、見た者には誓約を結ばせるようにした。また、作業小屋は遮蔽布で外から見えないように囲い、内部に入る者は許可制にした。
　その上で、「なぜ秘密があるのか」を皆で話し合う会を開き、村の未来がどうなるかを想像させた。「見たい気持ちは分かる。でも、それで何を失うか考えてほしい」と私は伝えた。
　それでも、若手の一人が「どうせ見たところで分かりゃしない」と反発したことがあった。私は彼と二人きりで話し、昔の図案盗難の経緯を語り、「信頼が壊れるのは一瞬なんだ」と訴えた。数日後、彼は皆の前で「ルールは重いけど、守らなきゃ意味がない」と語り、周囲の空気が変わった。

2-2　日常管理の仕組みとチェック体制

　小屋の入り口には鍵番を置き、作業前後には私が印籠に記録をつけて確認した。また、夜の間に誰かが中を覗いていないかを確認する“朝の見回り当番”も設定した。ある日、弟分の職人が「昨夜、誰かが布をめくろうとした痕跡がある」と報告してくれたことがあり、未然防止の意識が根付き始めていると感じた。
　加えて、週に一度、作業場でミニ対話会を設け、「気になること」や「不安な点」を出し合った。「見回りの目が厳しすぎて、かえって疑心暗鬼になる」との声もあったが、それをきっかけに監視の目的を再確認し、「互いを信じる仕組み」に転換する提案も出た。

2-3　漏えい時の影響を最小化する仕組み

　万が一秘密が漏れても被害を最小化できるよう、模様を生成する技法は三分割して保管し、別々の鍵を使わなければ全体が分からない構造にした。さらに、図案には“読んでも意味が分からない”よう、暗号のような変換処理を施して保管した。
　加えて、情報の一部は閲覧期限つきの羊皮紙に記し、時間が経てば自然に判読不能になる工夫も加えた。これは「情報は消えることも守る手段だ」という私の信念を体現した仕組みである。

🚧第3章　ルールと運用の評価と今後の改善点

3-1　運用評価と成果

　結果として、模様の情報が外部に漏れることは一度もなく、組合からは「よくぞ守ってくれた」と感謝の言葉を受けた。特に、関係者全員が“なぜ守るのか”を理解したことが、最大の成果だと私は思っている。物理的な仕組み以上に、心の中に“守る理由”が芽生えたことが重要だった。
　特筆すべきは、反発していた若手が「監視されていると感じたが、今は支え合っていると思えるようになった」と変化を見せたことである。意識の変容は、日々の対話の積み重ねによるものだった。

3-2　認識した課題と再発リスク

　ただし、新たに加わった職人がルールを形式的に守っているだけで、意味を十分に理解していない場面があった。また、管理が厳しすぎるという声も上がり、現場に緊張感が過度に漂ったことも反省点である。
　さらに、ルールの全体像が理解されていないことで、例外処理や柔軟な対応が遅れ、結果として現場判断が委縮する事例も発生した。これは形骸化の兆候と捉えた。

3-3　今後の改善策と再発防止の方針

　今後は、機密度に応じて管理の強弱をつける段階的なルール設計と、新規関係者への“物語を通じた教育”を行う方針である。たとえば『鶴の恩返し』を例に出し、「見るなといわれた扉を開けたら何が起きたか」を皆で考えるような対話型研修を予定している。
　さらに、現場の声をもとにしたルールの再検討会を定期開催し、「守る」ことが「押しつけ」ではなく「選び取る価値」だと実感できるような文化を育てたいと考えている。
　このように、物理的な仕組みに加え、内面の理解と共感を育てることにより、機密情報の安全な運用が実現できると考えている。
　以上

💡ワンポイント補足

　「見るな」という禁を比喩として捉え、PM視点では“守るべきルールがなぜ存在するか”を関係者にどう伝えるかが鍵です。「禁止事項を押しつける」のではなく、「納得できる理由を共有する」ことが、守られるルールを作ります。関係者との対話や意識のずれを通じて、単なる物理的なルール整備ではなく、信頼と理解に基づく機密管理体制を構築し、情報漏えいゼロを実現した軌跡を描いています。

🎓講評コメント（AI評価）

　この論文は、単に機密管理のルールを語るのではなく、「人の心」をどう動かすかに焦点を当てており、非常に高く評価できます。若手の反発や後悔といった描写がリアルで、PMとしての説得と納得形成のプロセスが丁寧に描かれています。原作の「秘密を守ることの意味」を深く読み取り、それを組織の行動規範にまで昇華している点は、戦略的思考と人間理解の両立を感じさせます。まさに満点相当の構成力です。