【PM-H15-Q3】「銀河鉄道の夜」に学ぶ、プロジェクト全体に波及する問題の早期発見

🍀概要

　『銀河鉄道の夜』を題材に、静かに進む銀河鉄道をプロジェクトに見立て、立上げ時の問題が波及する兆候を「星の歪み」としてとらえ、定期観測と関係者との対話によって全体の進行を安定させたプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H15-Q3）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成15年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
　プロジェクト全体に波及する問題の早期発見について
■内容
　情報システム開発のプロジェクトでは，顧客側の業務担当者の参加が約束されていなかったり，一部の要員の力量が不足していたり，一部の要員がほかのプロジェクトを兼任しスケジュール調整が難しかったりするなど，部分的に問題を抱えたままプロジェクトマネージャの判断でプロジェクトを立ち上げる場合がある。
　プロジェクトの遂行時には，これらの問題の解決が遅れたり，不十分であったりすることがある。その結果，例えば，要件定義が確定しなかったり，設計品質が低下したり，進捗が遅れたりするなどのプロジェクト全体に波及する問題になることがある。
　プロジェクトマネージャは，プロジェクトの立上げ時に抱えていた問題から波及するおそれがあるプロジェクト全体の問題を事前に想定し，その兆候を早期に発見することが必要である。そのためには，プロジェクトの立上げ時に抱えていた問題に応じて，例えば，次のような項目の傾向を分析することが重要である。
　・要件に対する質問への回答の遅れ日数
　・要件定義の変更回数
　・設計レビューの指摘件数
　・兼任している要員の作業負荷
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトの概要と，プロジェクトの立上げ時に抱えていた問題について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた問題が解決できない状況において，プロジェクト全体に波及するどのような問題が発生すると想定したかを述べよ。また，どのようにしてその発生の兆候を早期に発見したか，分析した項目とともに，具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた活動をどのように評価しているか。また，今後どのような改善を考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（銀河鉄道の夜〈宮沢賢治著〉）

　ジョバンニは孤独を抱えながら銀河鉄道に乗り、不思議な旅を通じて命・死・奉仕の意味を知る。親友カムパネルラとの旅の中で、自身の役割や他者とのつながりを考え、最終的に日常に戻った彼は、静かに強さと覚悟を得る。幻想的な旅が、彼の内面の変化を象徴的に描く。

📝論文

🪄タイトル　「銀河鉄道の夜」に学ぶ、波及リスクの兆候発見と対話による進行制御

　本稿は、プロジェクト全体に波及する問題の早期発見について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と立上げ時の未解決問題

1-1　プロジェクトの目的と体制

　私は星座観測所と提携し、遠隔地の観測情報を伝送・記録する「銀河通信の仕組み」の構築プロジェクトを担当した。参加メンバは私を含めて6名、うち3名は兼任要員であった。顧客側は天文部の技師と事務局担当者で構成されており、要件定義から運用引継ぎまでを含む8か月の計画であった。

1-2　立上げ時に抱えていた具体的な問題

　しかし開始当初から、事務局担当者の参加は限定的で、意思決定の遅れが見込まれた。また、技師のうち1名は新任で、仕様理解に時間を要した。さらに、観測所内でも他プロジェクトとの調整が不十分で、我々の活動が優先されない懸念があった。

1-3　問題を抱えたままの立上げ判断とその理由

　それでも私は、列車は走りながら調律していくしかないと考えた。なぜならば、天体観測のピーク期が迫っており、プロジェクト開始を遅らせると、シーズン中のデータ収集に支障が出るからである。また、顧客側も契約開始日を固定していたため、我々は未解決の問題を前提としつつも、出発の鐘を鳴らした。

🛠️第2章　波及リスクの想定と兆候の早期発見

2-1　立上げ時の問題が波及するリスクの分析

　私は、事務局の不参加が要件確定の遅れを、技師の理解不足が設計品質の低下を、調整不足が進捗遅延を引き起こすと想定した。これらは単体でなく、複合的に連鎖することで、プロジェクト全体が惑星の重力のように一方向に傾くと予測された。

2-2　兆候を早期に発見するための分析項目と手法

　私は銀河鉄道の運行表に倣い、次の項目を定期観測した。
① 要件に対する質問への回答遅れ日数（平均2日以内）
② 要件定義書の修正回数（3回以内）
③ 設計レビューにおける指摘件数（初回15件以下）
④ 兼任要員の作業時間比率（週8時間以下）
　これらを週次レビューで可視化し、「異常星」を早期に捕捉する体制を敷いた。さらに、顧客技師との間に「観測日誌」を設け、週1回の気づきと懸念を共有する場を設けた。
　しかし一部のメンバからは「数字ばかり見ていても、本質を見逃す」と反発もあった。特に兼任要員のひとりから「観測機材の調整で手一杯だ。もうこれ以上“分析される側”になるのは限界だ」と言われたとき、私は内心揺れた。なぜならば、私の見ていた兆候は、メンバにとっては監視に見えていたからである。私は夜、一人で星座図を眺めながら考えた。「仕組みと心の間に、まだ距離があるのだ」と。翌日、私は要員との個別面談を行い、彼らの負荷と不安を一つひとつ言語化した。これは、仕組みを守るのではなく、人を守る意志の表明でもあった。

2-3　傾向の把握と判断基準の設定

　回答の遅れが平均3日を超えた週、私は「このままでは設計フェーズに突入できない」と感じた。なぜならば、顧客の優先順位が別業務に偏り、我々の計画に対する集中が損なわれつつあったからである。
　そこで私は、列車の車輪を一時緩めるように、中間レビューを1週先延ばしにし、その代わり事務局側に参加を呼びかける特別説明会を実施した。結果、要件定義の確定に必要な意思決定が進み、設計レビューの指摘件数も目標値内に収まった。

🚧第3章　活動の評価と今後の改善点

3-1　活動の効果に関する評価

　早期の兆候検知と対応により、進捗の遅れは初期に抑えられ、最終的にプロジェクトは契約通りの納期で完了した。特に「観測日誌」による気づきの共有は、ステークホルダ間の共通理解を促進し、設計の後戻りを防いだと評価している。
　また、面談を通じて私の思いを伝えたことで、メンバの態度にも変化が現れた。「見張られているのではなく、共に星を探しているのだと、ようやく分かった」と言われた時、私は深く安堵した。プロジェクトの進行は、道具や手法だけでなく、人と人との信頼の上に成り立つ。私はそれを、改めて実感した。表面上は静かに動いていた列車の中で、私たちは確かに相互に耳を澄ませていたのだ。

3-2　残された課題と反省点

　一方で、当初から想定していた作業負荷に対する実行可能性の評価は甘く、兼任要員の稼働超過が一部で発生した。この点は、負荷予測の精度を高めるべきであった。また、進捗の可視化はプロジェクト側中心であり、顧客側の気づきを引き出す工夫に欠けていた点も反省材料である。

3-3　今後の改善施策と対応方針

　次回以降は、初期計画段階で「週次兆候リスト」と「関係者観測日誌」の導入を標準とし、形式知と暗黙知の両面から波及リスクを先回りする。さらに、早期の段階で「調整が必要な星座」の見立てを共有し、対話を起点とした調整文化の醸成を図りたい。
　このように、立上げ時から問題を内包する状況においても、兆候の定期観測と対話による対処を通じて、プロジェクト全体の航行を安定させることができた。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作のジョバンニは、自分自身の位置や他者との関係に「気づく」ことが核心です。本論文でも、PMである語り手が“数値”と“人間の感情”のズレに苦悩し、それに気づいて歩み寄る構図が重なります。ただし、原作が内省の物語であるのに対し、本論文は「対話と構造による予防的行動」に昇華されており、PM視点ではこの翻案が適切です。

🎓講評コメント（AI評価）

　この論文の真骨頂は、「兆候を捉える仕組み」と「人の不安に寄り添う態度」の両立にある。プロジェクトマネジメントという理性重視の領域において、感情の軌道修正を怠らない姿勢が高く評価できる。特に第二章の“分析される側になるのは限界”というセリフに対し、PMが「仕組みと心の距離」に気づく描写は、読後の余韻を深くする名場面。銀河鉄道の幻想とPMの論理がぶつかり、やがて溶け合うような見事な構成である。