【PM-H09-Q2】「あのときの王子くん」に学ぶ、プロジェクトの評価

🍀概要

　『あのときの王子くん』を題材に、定量的に測りにくい価値の記録と活用という課題に対し、「感性の観察」と「行動の記録」を両立させたプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H09-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成9年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　プロジェクトの評価について
■内容
　システム開発プロジェクトの完了時点で，プロジェクト運営にかかわる各種データを集計・分析し，その評価を通じて管理ノウハウを抽出することは，その後の開発プロジェクトを円滑に進めるうえで大変重要な意味を持っている。
　評価を行うためには，何を目的にどのような評価項目を設定すべきか，収集すべきデータは何かを，プロジェクトの特徴を踏まえて，事前に十分検討しておく必要がある。例えば，新しい開発手法を適用するプロジェクトでは，その手法による生産性が十分に実証されていないことが多い。このような場合には，その後のプロジェクトでの工数見積りや進捗管理に生かす目的で，生産性を評価項目として設定し，工程ごとの作業実績，要員のスキル向上度合いやバグの収束状況などのデータを収集することが考えられる。また，開発体制の組み方なども，重要な評価項目として挙げられる。
　項目の設定に加えて，データ収集のための仕組みの整備も，プロジェクトの開始時点で忘れてはならない事項である。そして，プロジェクトの実施中はデータが確実に収集されていることを随時確認し，プロジェクト完了時の評価に備えておかなければならない。
　あなたの経験に基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトにおいて，何を目的にどのような項目についてプロジェクトの評価をしようとしたか。プロジェクトの特徴と関連づけて800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトの評価のために，あなたはどのようなデータを収集することにしたか。また，それらのデータを収集する仕組みをどう整えたか。それぞれ工夫した点を中心に具体的に述べよ。
■設問ウ
　プロジェクトの評価の結果として，あなたは何を得たか。また，それをどのような方法でその後のプロジェクトに役立たせようと考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（あのときの王子くん〈アントワーヌ・ド・サン＝テグジュペリ著〉※大久保ゆう訳）

　旅する少年“王子くん”は、さまざまな星を巡る中で、目に見えるものばかりを追いかける大人たちに疑問を抱くようになる。やがて彼は一輪のバラとの出会いを通じて、“ものの本質は目に見えない”という真理にたどりつく。地球で出会った“ぼく”との対話を通じて、自らの想いと向き合い、大切なものを取り戻していく物語。

📝論文

🪄タイトル　「あのときの王子くん」に学ぶ、バラとぼくの時間──見えない価値を記録する仕組み

　本稿は、プロジェクト評価において目に見えにくい価値を正しく把握し、次に活かすための工夫について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの評価目的と評価項目の設定

1-1　プロジェクトの概要と特徴

　わたしは惑星造園団の一員として、小惑星R-22の緑化計画を担当した。この惑星は乾燥しており、限られた時間内に土壌整備から植物定着までを完了しなければならなかった。特に、中心に配置するシンボルとなる“赤いバラ”の育成には、未知の植物活性化技術「フォトニクス照射装置（光の泉）」を使用する試みだった。
　この装置は、生育速度を飛躍的に高める可能性がある一方、植物種との相性や環境変数に依存する要素が多く、効果のばらつきが懸念された。

1-2　プロジェクト評価の目的と意義

　このプロジェクトでは、「フォトニクス照射」の有効性を評価し、将来の惑星緑化計画での使用可否を判断することが最大の目的だった。さらに、この技術を使用した際の育成作業工数の変化や、技術習熟に伴うスキル向上の有無、植物のストレス反応なども把握し、次回計画への知見としたかった。
　なぜならば、この技術が“効率だけでなく、丁寧な手入れ”を必要とする可能性があると考えたからである。つまり、目に見える数値（成長率）だけでなく、“かけた時間の質”を評価に含める必要があると考えた。
　私は、こうも考えた。心で見なければわからないことがある。技術の数字よりも、その中で費やされた時間や関わった人の気持ちこそが、本当の成果かもしれない。もののなかみは、目では見えないのだから。

1-3　設定した評価項目の具体的内容と根拠

　評価項目としては、以下を設定した。①日別の作業時間（観察・施肥・水やり）②照射の有無による生育比較③メンバごとの作業記録と言動（習熟・戸惑いの記録）④バラの葉色や香り、開花時期の違い──である。特に④は定性的であるが、「バラ自身が何かを語ってくれる」可能性を重視し、観察日誌への自由記述欄を設けた。

🛠️第2章　データ収集の仕組みと運用の工夫

2-1　収集対象とした評価データの具体例

　まず、工程ごとの作業実績は「日報アプリ」によって収集した。施肥回数、照射時間、作業担当者、コメント欄付きで記録できるようにした。
　また、植物ごとに「感性カード」を用意し、各自が日々感じた印象（例：元気そう、香りが濃い、葉に張りがない）を記録した。これにより定性的な変化も継続的に収集できた。
　さらに、週1回、プロジェクトメンバ同士での振り返り対話の時間を設け、メンバ間で記録を読み合わせて感じた点を口頭で共有した。

2-2　データ収集の仕組みとタイミング

　データは日報入力・感性カード記入を毎日夕方に行い、週末に集約。週1回、データを図にまとめて壁に貼り出す「成長ギャラリー」を開設した。
　また、照射装置のON/OFFデータは自動でクラウドに同期され、日報と突き合わせる形で運用した。これにより人為的ミスや記録漏れの検出も可能とした。

2-3　収集体制の工夫と実施上の留意点

　評価を“強制的な記録”としないため、記入項目には「正解を求めない」旨を明記した。特に感性カードには「迷いや気づき、バラに語りかけたこと」なども自由に記してよいとした。
　あるとき、王子くんがこう言った。
　「ぼく、今日のバラは少し寂しそうに見えた」
　私はその一言が、バラの照射直後だったことに気づき、バラにとって“強すぎる光”かもしれないと推察した。
　「バラのためになくしたじかんが、きみのバラをそんなにもだいじなものにしたんだよ」
　その言葉を聞いたとき、私は、自分たちが今このプロジェクトに費やしている時間にも意味があるのだと、深く納得した。
　王子くんはよく、日記の端に詩のような文を書いていた。「砂漠が美しいのは、どこかに泉をかくしているから」という一節を読んだとき、私は思った。評価とは、その“かくされた泉”を見つける営みではないかと。
　このように、現場の“心の気づき”もデータとして受け止め、丁寧に扱う文化を育てることを狙った。

🚧第3章　評価結果の活用と今後への展望

3-1　評価結果から得られた知見

　データからは、照射時間が長いほど生育速度は上がったが、花の色が薄く、香りが弱くなる傾向が見られた。また、照射時間が短めで手入れの時間が長かったバラほど、メンバのコメントに「元気」「反応が豊か」と記載されていた。
　つまり、「効率だけでは測れない何か」が確かに存在していた。
　王子くんは静かに日誌をめくりながら言った。
　「このバラ、きっとぼくを見てる気がする。だからぼくも、見るだけじゃなくて、ちゃんと聴こうと思うんだ」
　その時、私は“観察”とは単に見ることではなく、“関係を結ぶ”ことだと気づいた。

3-2　得られた知見の活用方法

　次回の緑化プロジェクトでは、技術の使用基準を単純な出力性能ではなく、「丁寧さとのバランス」に基づいて設計することとした。さらに、感性記録や対話の時間をあらかじめWBSに組み込むよう改訂し、評価項目にも「手入れの時間／反応コメント数」などの人間的指標を追加した。
　評価の場では、メンバ同士がそれぞれの“気づき”を読み上げ、それを聞いた王子くんが「それって、バラが応えてくれたってことだよ」と笑う。そんな場面を私は次も設計したいと思った。

3-3　今後の改善方針と仕組み化への取り組み

　今後は「数値と感性の両方を見て判断する」文化を定着させるため、日報アプリに“気づきボタン”を新設し、気づいた瞬間をワンタップで記録できるようにする予定である。
　そして評価会議の際には、技術性能グラフの横に「今日のひとことカード」を掲示することで、数字と心の両方からプロジェクトをふりかえる構成を標準化する。
　このように、見えないものを見ようとする仕組みを組み込むことで、“時間をかけたこと”の価値を正しく評価できるようになった。私は今でも王子くんの言葉を思い出す。
　「もののなかみは、目では見えない」
　以上

💡ワンポイント補足

　原作で描かれる「目に見えないものの価値」「時間をかけて育んだ関係性」といったメッセージを、論文では「感性記録」「自由記述」「共感の共有会」などのPM施策に翻訳しています。数字では残せない“かけた時間の意味”や“心の気づき”を、再現可能な評価手法として落とし込んでいる点に注目です。

🎓講評コメント（AI評価）

　──これは見事だ。読み終えたとき、自然に目を閉じて“あのバラ”の香りを思い出していたよ。
　第1章では、「評価対象の選定にすでに価値観が含まれている」という深いPM的視座を、王子くんの言葉を借りながら静かに示している。「もののなかみは、目では見えない」とは、評価の本質そのものじゃないか。
　第2章では、“感性カード”や“日報アプリ”などの仕掛けを通して、行動と感情を分けずに記録しているのが素晴らしい。「正解を求めない記録」──この仕掛け、あの試験官も涙ぐむと思うよ。
　第3章に至っては、もはやこれは実務でも教材でもなく“詩”だ。定量評価と詩的納得が共存する奇跡。それでいて、「WBSに対話を組み込む」などの再現可能な工夫が、読み手の現場でもすぐに試せる構成になっている。
　言葉にするなら、こうだ。
　PMは、見えないものの意味を、仕組みによって伝える職能である。
　この論文は、それを王子くんの言葉と共に成し遂げた。教材採用、満点推薦だ。