【PM-H08-Q1】「三枚のお札」に学ぶ、費用管理

🍀概要

　『三枚のお札』を題材に、突発的なリスクに備え、段階的な予防策とモニタリング体制を組み立て、限られた予算内での安定運用を実現したプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H08-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成8年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　費用管理について
■内容
　プロジェクトマネージャは，プロジェクトの実施に先立って予算を立案し，その予算の範囲内でプロジェクトを完了させることが求められる。
　システム開発プロジェクトでは，開発要員の人件費が費用の大半を占める場合が多い。しかし，それ以外にも開発に使用されるコンピュータ関連費用，開発作業場所にかかわる費用，交通費，通信費など多岐にわたる費用があり，プロジェクトによってはこれらが人件費と並んで重要となることがある。プロジェクトマージャは，これらの費用を把握し，リスクに留意して予算を作成する必要がある。
　しかし，予定外の費用が必要となり，当初の予算を守れなくなることが往々にして起こる。このような予算超過を極力防ぐためには，予算と実績の差異を常に把握しながら，超過の兆候を早期に発見し，原因を分析し，超過を未然に予防する徹底した対策をとることが重要である。
　あなたの経験に基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった開発プロジェクトにおいて，予算を作成するうえで留意した事項について，プロジェクトの特徴とともに800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトにおいて，予算を守るうえであなたが工夫した施策とその評価について，人件費だけでなくその他の費用も含めて具体的に述べよ。
■設問ウ
　プロジェクトの費用管理をより適切に行うために，あなたが今後採り入れたい施策について，簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（三枚のお札〈日本昔話〉）

　寺の小僧が山姥に捕まりそうになるが、師匠から渡された「三枚のお札」を使って逃げのびる。お札は追跡を阻む術として順に使われ、最後には山姥の手を振り切って寺に逃げ帰る。限られた資源と知恵で危機を乗り越える物語。

📝論文

🪄タイトル　「三枚のお札」に学ぶ、費用配分と段階的な予防策

　本稿は、費用構造の特性を踏まえた予算作成と、段階的な超過予防策の工夫について、述べる。

🔍第1章　プロジェクト概要と予算作成時の留意点

1-1　プロジェクトの概要と費用構造の特性

　私は、村の集会所に新しい情報交換の仕組みを導入する役目を任された。山と谷に囲まれたこの地域では、旅の行商人や役人の来訪が不定期であり、情報が一カ所に集まらないことが長年の課題であった。
　この仕組みでは、各地の祠に配置された声の記録板を集会所で読み取る装置と、それを維持・運用する構造を整える必要があった。費用は人手（記録の掘り起こし手伝い）に加え、道具の制作費、運搬費、山道の整備費などが発生し、人件費と同等に副次的費用の比重も高かった。

1-2　予算作成時のリスクと不確実性への配慮

　最大の不確実性は、道具の配送時に山姥が出没する山道を通らねばならない点だった。過去に費用が倍増したこともあり、今回は装置の破損・紛失リスクに備えて、予備の道具を1割上乗せして契約した。さらに、道具師との交渉で素材高騰時の追徴を回避する価格固定契約を結び、一部は段階納品とした。
　また、旅の者の協力を得ることで、人手の確保と同時に交通費の抑制も図った。これは不測の人件費増を避けることを狙ったものである。

1-3　費目別の管理方針と調達・契約面の対応

　特に注意を要したのは、道具費と交通費である。道具は一括調達せず、まず必要最低限のみを発注し、運用初期の状況を見て追加分を契約する二段階方式を採用した。
　一方、交通費は山道整備に関する突発出費が想定されたため、里の整備組合と上限付きの定額契約を結び、予備費の枠内で吸収できるよう調整した。

🛠️第2章　予算を守るための施策と評価

2-1　進捗・実績連動のモニタリング体制

　私は、毎月の満月の日を「進捗の報告日」と定め、各地の記録板から得られた作業進捗と費用実績を見える化した帳面に記録した。これは、記録板を扱う弟子たちに費用感覚を持たせる狙いもあった。
　特に、道具費と交通費については、予定との差異を集会所での定例報告で共有し、兆候を早期に掴むように努めた。

2-2　費用超過の兆候と予防的対策

　ある日、弟子の一人が「山姥の気配が濃い」と不安を訴えた。私は迷ったが、道具の輸送経路を変更し、荷を小分けにして複数日に分けて運ぶことを決めた。
　「このままでは、おふだが足りぬかもしれぬ」
　私はそう呟き、師から授かった三枚のお札のうち一枚を使う覚悟で、祠の道に設置する護符の追加設置費を承認した。
　この対応により、道具紛失のリスクは回避され、追加費用も予備枠内に収まった。
　しかし、一部の弟子からは「慎重すぎて無駄な支出になる」との反発もあった。「一度だけでも山姥に出会ってから対応してもよいのでは」との意見もあり、私は数日間判断を保留した。だが、迷い続けた末に、万一の損失が取り返しのつかないものになることを想像し、実行を決断した。
　この判断は、結果として弟子たちの理解を得るには時間がかかったが、後に「あの判断があったからこそ安全だった」と言われ、私は少しだけ安堵した。
　さらに、この経験を踏まえ、後続の施策では「護符の利用タイミングに関する判断基準表」を新たに設けた。今後の判断が属人的にならぬよう、リスクの兆候と対応のひも付けを体系化する意図があった。

2-3　施策の評価と定量的成果

　この施策により、交通費は当初見込みより12%抑制され、道具の破損・紛失はゼロ件だった。また、費用帳面による可視化が弟子たちの注意喚起にもつながり、「必要な支出か否か」を問う声が自然に上がるようになった。
　関係者の間に「費用を共に守る」という意識が醸成されたことが、何よりの成果だったと考えている。
　また、この対応方針を文書化し、弟子全員に配布したことで、プロジェクト全体における費用感度の底上げが実感できた。単なる対応の成功ではなく、「仕組み」として残った点において、持続的な改善効果が生まれた。

🚧第3章　今後の費用管理に向けた改善施策

3-1　予実差異の原因把握精度の向上

　今後は、道具配送に関する細かい費用（例：祠ごとの運搬回数、護符の貼り替え頻度）について、より精緻に把握する仕組みを整えたい。
　そのために、弟子の一人に「記録札」を携帯させ、日々の移動と支出を逐一記録する習慣を導入したい。これは、実績データに基づく予測精度向上を狙ったものである。
　また、記録札の導入についても反対意見が出た。「余計な手間だ」「記録ばかりに気を取られ、本来の作業が疎かになる」との声に、私は真摯に耳を傾けた。
　記録と作業が両立する工夫として、記録を簡素化した様式に改め、夜の納屋で一括記入する時間を確保する形で折り合いをつけた。
　さらに、記録札の情報をもとに、次回予算編成時には「実支出ベースでの費目ごとの予測表」を作成する計画を立てている。属人的な感覚に頼らず、全体の支出傾向を構造的に把握する狙いである。

3-2　予算編成段階でのステークホルダ調整の強化

　また、道具師、弟子、集会所の代表者といった関係者と、初期段階で費用構造と制約条件を共有する場を設けたい。今回のような突発対応を減らすには、「何にどれだけかかるか」の認識を揃えることが重要だと痛感した。
　以前は「自分には関係ない」と考えていた弟子も、予算配分の会議に同席させたことで「この選択は妥当か？」と自ら発言するようになり、思わぬ副産物となった。
　今後はこれを制度化し、毎回の費用編成時には代表者が輪番制で参加し、属人的な偏りを防ぐとともに、費用の説明責任を分担できる体制にしたい。

3-3　組織的な費用管理手法の標準化

　今回得られた帳面記録と段階契約の知見は、「費用を3枚以内に収める工夫」として文書化し、他の集落の仕組み整備にも展開したい。
　また、「費用と命は比例する」という師の言葉を胸に、今後も見通しを持った準備と慎重な判断を積み重ねていきたい。
　そのためには、費用管理の勘所を若い弟子にも伝えていく必要があると感じている。護符の使い方だけでなく、「使わずに済ませる工夫」も含め、次世代へ知恵を残すことが私の務めである。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では、お札が「限られた回数しか使えない逃走手段」として描かれますが、本論文ではこれを「プロジェクト予算におけるリスク対策枠」に見立てています。特に、突発費用が発生する可能性に備え、どのタイミングで何に予防的コストを割くかという「戦略的な配分判断」として再構成しています。また、小僧と師匠の関係は、現場とPMの協働構造に通じる要素として活かしています。

🎓講評コメント（AI評価）

　──なるほど、これは一本やられたな。
　この論文は、“リスクの段階的顕在化”と“予備枠の戦略的消費”という、費用管理における本質を、たった三枚のお札に見事に封じ込めた。第1章で「最初から全部使えないと分かっていた」という描写があるが、これはまさに“無尽蔵な予備費など存在しない”という現実へのPMの覚悟の現れだ。
　第2章では、費用対効果をめぐる弟子との対話に迷いと逡巡がありながらも、「あえて早めに使うことを選んだ」場面が光る。単なる節約ではない、“どのリスクを選び、どの恐怖を回避するか”という構造的判断がある。
　そして第3章。弟子の反発を受けながら記録札を導入し、作業効率と記録精度の両立を探る描写には、“費用管理を仕組みに落とし込む苦悩と実行力”が詰まっている。
　ラストの『費用と命は比例する』──重いが、誠実な言葉だな。語り過ぎず、行動で語る。童話としても、PM論としても、秀逸な教材になるだろう。教材指定、推奨だ。