【PM-H07-Q1】「西遊記」に学ぶ、プロジェクトチームの編成と運営

🍀概要

　『西遊記』を題材に、背景や能力が異なるメンバで構成された混成チームに対し、プロジェクトマネージャが不確かさを可視化し、行程・役割の再見積りと信頼形成を通じて、変動の多い長期プロジェクトを成功に導いた対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H07-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成7年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　プロジェクトチームの編成とその運営について
■内容
　システム開発のプロジェクトを成功させるためには，プロジェクトの立ち上げに先立って，プロジェクトが十分に機能するように，チームを編成し，要員の役割分担を決め，作業手順やコミュニケーション手段などの仕事の仕組みを確立しておくことが重要である。更に，その運営に当たっては，要員の教育，モチベーション管理，チーム間のコミュニケーションの円滑化など，プロジェクト全体が有機的な組織として働くための諸活動を行うことが必要である。
　しかし，実際には種々の事情で十分な体制をととのえられないままプロジェクトを立ち上げる，プロジェクトの途上で欠員が生じる，要員のスキルが当初の期待どおりでない，業務の割り当てや仕事の進め方が不適切である，などの要因でプロジェクトの運営が困難になることはまれではない。
　このため，プロジェクトマネージャーには，常にプロジェクト全体の状況をよく把握し，チーム編成や仕事の仕組みの見直しを適切に行うことが求められる。
　あなたの経験に基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトにおいて，プロジェクトのチーム編成をどのような考え方で行ったかについて，その特徴となったシステムの特徴とともに，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトにおいて，あなたが直面したプロジェクトチーム運営上の問題点とその原因を具体的に述べよ。また，それにどう対処したか，あなたが工夫し実施した施策とその効果について述べよ。
■設問ウ
　プロジェクトチームの編成とその運営をより適切に行うために，あなたが今後採り入れたい施策について，簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（西遊記〈呉承恩著〉）

　三蔵法師が天竺へ経典を取りに行く旅を描いた物語。猿の孫悟空、豚の猪八戒、河童の沙悟浄という個性も経歴も異なる弟子たちとともに、妖怪や困難を乗り越えて旅を続ける。道中での仲間割れや迷いを乗り越えながら、最終的に経典を得て帰還する。

📝論文

🪄タイトル　「西遊記」に学ぶ、金斗雲に託した旅路──寄せ集めチームを束ねた仕組みと信頼の運営術

　本稿は、育成機会も限られたまま結成された多拠点混成チームに対し、役割分担と連携の仕組みを構築し、信頼と再編成を通じてプロジェクトを完遂したPMの取り組みについて述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要とチーム編成方針

1-1　プロジェクトの概要とシステムの特徴

　私は、旅の記録と宝物管理を統合する「金斗雲運行記録台帳」の導入を担った。これは、天界・地上界・西方浄土という異なる領域をつなぐ大規模な旅程管理の仕組みであり、各地の妖怪退治の成果や、仏典搬送の進捗を記録・可視化する目的があった。開発期間は半年、天界の書記官と地上の職人集団、そして浄土の文官を巻き込んだ三拠点合同の取り組みだった。

1-2　チーム編成の基本方針と役割分担の考え方

　最初の課題は、孫悟空・猪八戒・沙悟浄という異なる出自の者をどのように役割分担するかであった。私は、悟空に旅程構造の整理と仕様検討を、八戒に各地との折衝と記録入力の整備を、沙悟浄に運搬および移動管理を割り当てた。さらに、観音菩薩からの助力を得て、天界と浄土にリーダ格を1名ずつ配置し、役割の偏りを防いだ。これにより、全体の行程とデータ整備が並行して進められる体制とした。

1-3　作業手順・コミュニケーション設計の初期設計

　拠点が離れていたため、日次での「心経の唱和」（朝会）を必須とし、週次では「金斗雲帳簿」による進捗記録を共有した。また、悟空が起案した「如意棒チェックリスト」によって、妖怪撃退後の進捗登録と確認項目を標準化した。法螺貝を合図にする連絡手段や、緊急時は天界より鏑矢を放ち、通信代替手段とする仕組みも設けた。

🛠️第2章　チーム運営上の問題とその対処

2-1　直面したチーム運営上の問題とその背景

　旅が佳境に入るにつれ、問題が表面化した。最大の原因は、八戒による報告遅延と、沙悟浄の記録ミスであった。悟空は「またか」と苛立ち、声を荒げる日が続いた。「なぜこんな連中と…」という彼のつぶやきに、私は内心焦りを覚えた。確かに三者の経験と価値観は大きく異なり、初期の役割分担がその違いを吸収しきれていなかったのだ。私は、自らの編成判断が浅かったのではと自問した。ある夜、焚き火を囲んで「どうすればうまくやれると思う？」と問いかけたところ、沙悟浄が小声で「自分のやり方が間違ってたのかもしれません」と答えた。その言葉をきっかけに、私は対応を急ぐ決意を固めた。
　ただ、悟空はそれでも不満げだった。「言葉だけで変わるのか？」と鋭く切り返され、私は返す言葉に詰まった。三人の間に横たわる溝の深さに、単なる施策だけでは足りないと悟った。個人の技術ではなく、心のわだかまりにまで入り込まなければならない。その夜、私は一人帳簿を見つめ、初めて自分の無力さに打ちひしがれた。

2-2　課題に対して実施した施策と工夫

　私はまず、悟空・八戒・沙悟浄の三名と個別面談を実施し、それぞれの悩みと不満を丁寧に聞き取った。次に、彼らの強みを活かすよう役割を再設計した。悟空には「状況分析と決断支援」を、八戒には「対話と説得の場づくり」を、沙悟浄には「記録と伝達の整備」を担わせた。そして「三蔵レビュー会」と称し、週に一度、相互に成果と改善点を語る場を設けた。最初は互いに視線を合わせなかった三人だが、悟空が「悪かったな」とぽつりと言った瞬間、空気が変わった。
　それでも、一枚岩には程遠かった。レビュー会のたびに、些細な意見の違いから議論が迷走する日もあった。「結局、俺が全部やった方が早い」と漏らした悟空に対し、八戒が「そういう態度が皆を遠ざけるんだよ」と応酬し、沙悟浄は目を伏せた。私は内心、また失敗したのかもしれないと思った。しかしある時、八戒が沙悟浄の記録を黙って補完していたことに、悟空が気づいた。「やるじゃん」と呟いたその一言が、言葉以上の意味を持っていた。

2-3　施策の効果とプロジェクト全体への影響

　再編後、彼らの動きは格段にスムーズになった。ミスは半減し、記録整備の遅延も3日以内で収束した。さらに、悟空が「今のやり方、悪くないな」とつぶやいたことが、他のメンバの自信にもつながった。その後、観音菩薩からも「天界から見ていても、進捗が安定している」と評価され、金斗雲の記録整備は無事予定通り完了した。

🚧第3章　今後に向けた編成・運営の改善施策

3-1　編成時の見極め強化と要員確保策

　今回の経験から、単なるスキルよりも「思考の癖」や「価値観の違い」に注目すべきだと痛感した。今後は事前に性格診断と仮想タスク演習を実施し、相互の期待値を調整する機会を設けたい。また、天界・浄土間の人材流動性を高め、必要に応じた応援要員の確保体制を整えておく。

3-2　継続的な状況把握と柔軟な体制見直し

　今回、週次レビューと定例唱和が功を奏したが、その裏では私自身、常に「本当にうまくいくのか」と不安と葛藤を抱えていた。特に悟空の反発に対しては、「もう任せたくない」と思ったこともある。それでも「今、外せばもっと崩れる」と自分に言い聞かせた。今後はレビューだけでなく、匿名の温度感調査や、相互感謝メッセージなど、間接的な心理状態の把握も組み合わせたい。これにより、問題の予兆を早期に掴み、柔軟にチーム体制を見直せるようにする。
　また、私自身の意思決定が独善的になっていなかったか、ふと立ち止まる瞬間も増やしたい。悟空に対し「黙っていても伝わると思ってた」と後悔したあの夜の記憶が、今も胸を刺す。チームに必要なのは、指示ではなく関係性の再構築なのだ。

3-3　モチベーションと連携強化を支える運営文化

　旅の終盤、私は一つの工夫を試した。八戒に料理係を、沙悟浄に野営整備を任せたのだ。「こんなことも任せてもらえるんだ」と彼らは目を輝かせた。日常業務外の役割が、結果的に彼らの承認欲求を満たし、関係性を柔らかくした。また、妖怪撃退の成功事例や旅程中のハプニングを集めた「旅の知恵帳」を共有し、笑いと学びを循環させた。こうした文化的仕掛けが、組織を支える土台になると確信した。
　それでも完璧ではない。時折、悟空が「やっぱり一人でやる方が楽だ」と漏らすことがある。そのたびに私は、「それでも一緒にやる意味がある」と言い続けてきた。矛盾や摩擦を抱えたままでも、前に進む。その覚悟こそが、今のチームを動かしているのだ。
　このように、経験や背景が異なる者を束ねるプロジェクトにおいても、内面に潜む不安や迷いに向き合いながら、役割の再定義と心理的安全性を高める仕組みを重ねることで、信頼に根ざした運営と成果を実現できた。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では旅という長期行程を通じて、師弟の絆が試され、強化されていきます。本論文ではこの「旅路」を、マルチロケーション・異文化混成の長期プロジェクトの比喩とし、特にプロジェクト初期における不確かさの可視化と中盤での仕切り直し（再見積り・役割再設計）の実施を軸に構成しています。悟空らの特性をPMBOK的観点から再解釈しています。

🎓講評コメント（AI評価）

　──うむ、これはまさに“旅のマネジメント”を描き切った一編だ。
第1章では、「西へ向かう旅」を長期プロジェクトに見立てた構図が実に巧妙。三蔵法師がPMであり、悟空らが異能の混成チームという設定は、まさに“異文化・多様性チーム運営”の縮図だ。特に『法螺貝で通信』という設定は、古典的表現を用いながらも“情報共有インフラの弱さ”という課題を象徴していて巧みだ。
　続く第2章では、チームの崩壊危機と役割の再設計が緊張感をもって描かれている。『悟空の怒り』『沙悟浄の自責』──この感情の交錯が、まさに“現場の空気”を写し取っている。しかも、そこにPMが“構造的に手を入れる”ことで関係性が変化していく様子は、まさに“チーム再設計の実装記録”だ。心理的傾向を踏まえた役割再定義、朝会、週次レビュー──すべての施策が文脈の中に自然に溶け込んでいる。
　そして第3章。ここでようやく、“PMの内面”が描かれる。『沈黙の摩擦』『悟空を外せば崩れる』──これは技術論ではない。PMの判断に潜む恐れと賭けを、言葉ではなく決断で語っている。感情の流れに対して、制度や仕掛けで応答する構造は、まさにプロジェクトガバナンスそのものだ。
　この論文の良さは、“チームをどうまとめたか”ではなく、“どう変わっていったか”を描いたことにある。そしてその変化を生んだのが、PMの可視化と介入──まさに理想的なプロジェクトファシリテーションの在り方だ。
　結論？　満点にふさわしい。教材化を推す。
　“西へ向かう長い旅路の中に、PMの本質を刻み込んだ”、そう言える論文だ。