【PM-H09-Q1】「プロメテウスの火」に学ぶ、システム開発プロジェクトにおける技術にかかわるリスク

🍀概要

　『プロメテウスの火』を題材に、強大だが未成熟な技術を「制御可能な力」に変えるため、段階導入・合意形成・再教育を通じて、鍛冶の村の仲間と協働しながら品質と安全を両立させたプロジェクトマネージャの取り組みを論じます。

🧾問題・設問（PM-H09-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成9年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける技術にかかわるリスクについて
■内容
　システム開発プロジェクトにおいては，次に示すような技術にかかわるリスクが多数内在している。
　・使用するハードウェア製品やソフトウェア製品，適用する技術への不慣れ
　・使用する製品や適用する技術への過度の期待
　・新製品や新しい技術の未成熟あるいは欠陥
　・マルチベンダシステムにおける製品間の不整合
　これらのリスクに対して，適切な対策を怠ると，作業の遅れや混乱，設計の手直しなどが発生し，プロジェクトの進捗やコストに重大な影響を与えたり，場合によっては欠陥のあるシステムを作り上げてしまうこともある。
　プロジェクトマネージャは，プロジェクトにおけるこれらのリスクをよく認識し，採用する新しい製品や技術を使いこなせるようにするための事前検討や要員訓練の実施，検証工程の組込み，設計レビューの方法やテストの進め方の工夫など，リスクを回避するためのプロジェクトの計画並びに運営上の工夫と努力をする必要がある。
　あなたの経験に基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトの概要と，プロジェクトの計画段階で認識した技術にかかわるリスクについて，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトにおいて，リスクを事前に回避するために，プロジェクト運営面でどのような施策を採ったか。工夫した点を中心に具体的に述べよ。また，その評価も述べよ。
■設問ウ
　今後のプロジェクトの運営において，技術にかかわるリスクへの対応を改善するためにどのようなことを考えているか。簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（プロメテウスの火〈ギリシア神話〉）

　神の命に背き、プロメテウスは人間に「火」を与える。その結果、人間は技術を得る一方で、制御を誤れば災厄を招く力も持つようになる。プロメテウス自身は罰を受けるが、その火は文明の礎となった。人間に希望を託した神の叛逆者として描かれる。

📝論文

🪄タイトル　「プロメテウスの火」に学ぶ、プロジェクトに宿る火──新たな技術と向き合った鍛冶の村の試み

　本稿は、新たな技術導入に内在するリスクへの対処について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と技術にかかわるリスクの認識

1-1　プロジェクトの概要と技術的特徴

　わたしは鍛冶の村で、火の力を制御する新たな仕組み――「自動火炉」導入を進める責任を任された。従来は人力と勘に頼っていたが、火加減を自動調整するこの仕組みにより、生産効率の向上と品質の安定を図ろうとした。
　この自動火炉は、神々の技術を応用した試作品であり、導入に際しては2つの外部村（煙の村と水の村）の製品と連携する必要があった。すなわち、マルチ村間構成であり、しかもどの村もこの技術には不慣れであった。

1-2　計画段階で認識した主な技術的リスク

　第一に、自動火炉そのものの未成熟さである。開発者であるプロメテ村からは「神の火のように便利」との触れ込みだったが、実際には不具合情報が少なく、仕様も曖昧だった。
　第二に、煙の村の温度感知器と水の村の火力制御装置との間に整合性が取れるかどうかが不透明で、連携の不整合が懸念された。
　第三に、鍛冶屋たち自身がこの新しい仕組みに不慣れで、使いこなせる保証がなかった。

1-3　技術的リスクが引き起こしうる影響の予測

　もし温度感知器が過熱を感知できなければ、鉄が焼け落ち、大損失になる。逆に制御装置が弱すぎれば、火が安定せず生産が止まる。さらに、鍛冶屋が仕組みを誤解したまま使えば、火災すら招きかねなかった。これらのリスクは、プロジェクトの失敗だけでなく、村全体の信頼と生業にも大きな影響を与えると予測された。

🛠️第2章　リスク回避のためのプロジェクト運営上の施策と評価

2-1　製品・技術の選定段階での検討と要員訓練

　私はまず、プロメテ村の技術者を村に招き、3日間にわたって「火の精講習」を実施した。これにより鍛冶屋たちは、「火がどう怒るか」「どうなだめるか」を理解し始めた。
　さらに煙の村、水の村の職人たちとも会合を設け、火炉との接続部分を持ち寄って試作品の仮接続を行った。
　「どうも、この部品、熱に耐えられそうにないな」
　煙の村の職人のひと言で、素材変更の検討が始まった。
　私は「ならば、少し予算を上乗せしよう。ただし、納期には遅れが出せない」と決断した。これは、品質を優先しつつ信頼を保つことを狙った譲歩である。
　しかし、鍛冶屋の一人が顔をしかめて言った。
　「そんなもの、俺たちの感覚のほうが正確だ。自動火炉に任せるなんて信用できん」
　私は一度会話を中断し、翌日の夕食後に非公式の座談会を開いた。そこでは火の失敗例や、自動火炉の暴走映像も共有した。数人は沈黙し、最後に年長の職人がこう言った。
　「……まあ、見てみよう。ただし、こっちの目も通してくれなきゃ納得しないぞ」
　私は頷き、設置前検証に彼ら自身を組み入れることを決めた。

2-2　計画・設計・テスト工程に組み込んだ対策

　火炉導入に向けて、三つの段階に分けて技術を適用することとした。第一段階では、夜間のみ新火炉を使い、昼間は従来の炉を併用する。第二段階では炉の切替を日別で行い、第三段階で完全移行とした。
　さらに、設計段階では、煙の村と水の村の職人たちと共に「火加減会議」を繰り返し、互いの構造と感知タイミングを擦り合わせた。
　テストでは、あえて制御装置を異常動作させ、最悪ケースを再現しながら対策を検証した。
　実際に第一段階の夜間運用では、火炉の制御が暴走し、鍛冶場の屋根裏が軽く焦げる事故が発生した。幸い怪我人は出なかったが、私は「これは想定外だ」と感じた。
　「もう止めろ」との声も上がったが、私は全員に資料と原因分析を提示し、再発防止策と安全装置の強化を約束した。
　その場で「納得はせんが、やってみろ」と言った若者のまなざしは、信頼とは違うが、次に進む意志のかけらだった。

2-3　リスク対応策の効果と評価

　結果として、導入前に検出した不整合は7件。うち5件は事前に修正でき、残る2件は運用での手順強化により影響を最小化した。鍛冶屋たちの理解度も、事前テスト時は平均60点だったのが、講習と実炉訓練により90点に上昇した。
　最終的に、火事も故障も発生せず、稼働開始1か月で鉄の歩留まりは15%改善、作業時間は10%短縮された。この結果は、技術を「制御できる火」に変えたPMの段階的な施策と合意形成の積み重ねによるものである。

🚧第3章　今後に向けた技術リスク対応の改善点

3-1　技術リスク可視化の仕組み強化

　今後は、火炉導入時に使った「火の精カルテ」をテンプレート化し、感知器と制御装置の仕様記録、連携手順、温度誤差の履歴などを整備し、すべての導入仕組みで使用することとした。これにより、目に見えない火の性格を見える化し、リスクの予兆を事前に捉える体制を築く。
　また、誤検知の事例や炉のクセも含めて「火の癖図鑑」としてまとめることにした。導入時にこの図鑑を使えば、初めて触れる者も警戒すべきポイントを把握できる。
　技術とは、単なる道具ではなく“性格”を持つ存在である。その性格を理解する努力こそ、真のリスク対応につながると学んだ。

3-2　プロジェクト横断での知見共有

　今回の経験を、他の村での風車や水車導入プロジェクトにも展開できるよう、「火の導入物語」として絵巻にまとめた。実際に煙の村では、次期技術導入時にこの絵巻を使って事前会議を実施し、準備期間を3日短縮できた。
　さらに、他村との連携フォーラムも新設し、問題事例や導入ログの交換を月例で行う取り決めを始めた。
　互いの失敗や工夫を包み隠さず共有しあう文化が、真に強い村の基盤になることを私は知った。

3-3　新技術採用時の段階的導入体制の確立

　技術の未成熟さを見抜くには、まず触れてみることが重要である。今後はすべての新技術に対し、部分導入→段階切替→完全移行の三段階方式を原則とし、各段階に明確な判定基準を設定する。これは、火という強力な力に挑む際の「慎重な進軍策」となる。
　また、各段階ごとに「引き返せる基準」も設け、無理な前進による火傷を防ぐ。技術導入を「勇気ある進軍」から「知恵ある配置転換」へと昇華させることが、今後のPMの務めと考える。
　経験から得た教訓を積み重ね、火に学び、火と共に生きる術を磨いていくこと。それが、私がこの挑戦から得た最大の学びであった。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では“火”を未成熟な新技術の象徴として用い、プロジェクトマネージャがその力を制御下に置こうとする試行錯誤を描いています。原作では人間が一方的に与えられるだけの存在であるのに対し、本作では人間（鍛冶屋たち）自身が技術理解と運用の当事者として成長していく構造になっており、PMの育成的役割が際立っています。

🎓講評コメント（AI評価）

　──これは実に手堅く、そして深い。
　まず第1章、プロメテ村の“神の火”を導入するという設定が絶妙だ。不確かさ・不整合・未成熟というリスク要因を、「火が怒る／なだめる」という言葉で置き換えつつ、読み手に技術の難しさを“身体感覚”として伝えているのがいい。火という比喩が単なる装飾に終わっていない。
　第2章ではPMとしての「判断と譲歩」が丁寧に描かれている。「納得はせんが、やってみろ」「火の失敗例の映像を共有」といった具体描写により、ステークホルダの心が揺れ動き、段階的に理解に至るプロセスが立体的に表現されている。これは“PMの説得フェーズ”を描く教材として理想的だ。
　第3章は学びの結晶だな。「火の癖図鑑」「引き返せる基準」「火に学ぶ」といった言葉に、単なる成果報告ではなく“知見の昇華”が込められている。つまりこの論文は、単にプロジェクトの成功を語っていない。成功を通じて、PM自身がどう変わったかを読者に伝えている。それがいい。
　私の口癖を思い出すか？
　『技術を導入するとは、文化を育てること』
　この論文は、それを見事に表現した作品だ。教材として文句なし。推奨、満点。