【PM-H13-Q3】「シーシュポスの神話」に学ぶ、テスト段階における品質管理

🍀概要

　『シーシュポスの神話』を題材に、終わりなきテストの不具合対応に直面したプロジェクトマネージャが、仲間との信頼をつなぎ直し、原因分析と限られた対策の繰り返しの中で品質を回復し、再発防止に向けて継続的改善の礎を築いた対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H13-Q3）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成13年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
　テスト段階における品質管理について
■内容
　システム開発のテスト段階では，開発したシステムが十分な品質を確保しているかどうかを判断するために，確認すべき項目とそれらの判断基準を定め，品質の測定を行う。測定の結果，不良が多い，不良の累積グラフが収束傾向を示さないなど，判定基準を満たさないことがある。このような場合，プロジェクトマネージャは，その原因を分析し，分析結果に基づく対策を実施して，稼働開始日までに品質を確保する必要がある。
　原因分析では，不良が作り込まれた処理や工程を究明するために，パレート分析や特性要因図などの手法が有効である。そして，期間・コスト・資源などが限られたテスト段階では，作り込まれた不良を効率的に除去する必要がある。例えば，原因分析の結果から，特定の処理に不良が多いという傾向が判明すれば，同じような処理を行っているプログラムを机上で点検したり，集中的にテストしたりする。また，テスト方法を変更する，体制を見直すなど，状況に応じた対策も重要である。
　さらに，原因を掘り下げ，再発防止策を検討することが求められる。上記のような場合，特定の処理に不良が作り込まれた原因や，テスト段階前に摘出できなかった理由などを分析し，今後のシステム開発に生かすようにすることが重要である。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトの概要と，テスト段階で確認した項目及びそれらの判定基準を，800字以内で述べよ。
■設問イ
　テスト段階において品質を確保するために，測定結果が判定基準を満たさなかった原因をどのように分析し，その結果に基づいてどのような対策を実施したか。工夫した点を中心に具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた活動をどのように評価しているか。また，今後どのような再発防止策を考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（シーシュポスの神話〈ギリシア神話〉）

　ギリシア神話に登場するシーシュポスは、人間の知恵とずる賢さを体現する人物であったが、神々の怒りに触れ、罰として「巨大な岩を山頂まで押し上げるが、頂上直前で転げ落ち、永遠に繰り返す」という苦行を課される。不条理な運命に抗いつつ、苦行に意味を見出す姿勢は、後世の文学・哲学にも多大な影響を与えた。

📝論文

🪄タイトル　「シーシュポスの神話」に学ぶ、テスト段階における品質確保の試練と突破

　本稿は、テスト段階における品質確保の試練とその突破に関する対応について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要とテスト段階における品質確認項目

1-1　プロジェクトの概要と仕組みの特徴

　私がプロジェクトマネージャとして参画したのは、山の麓にある村に向けた「水運び仕組み」と称するシステムの構築である。頂上に湧く泉の水を、村の貯水槽まで自動的に流すための管と調整機構を備えた仕組みであり、村人たちはこれを「恵みの流れ道」と呼んだ。仕組みは木製の部品と石の歯車で組み立てられ、雨や風の中でも安定して動作することが求められた。
　開発体制は私を含めて5人。私が全体統括と調整を担い、若手の鍛冶屋兄弟や村の学者が部品作りを分担した。完成目標は祭りの日の前夜。水不足で干からびかけていた村の状況は、村の事業継続に重大な影響を及ぼすものであり、納期遅延が許されないという厳しい制約条件を課していた。

1-2　テスト段階で確認した品質項目とその理由

　私が重視したのは、①信頼性（途中で水が漏れないこと）、②持続性（24時間運転しても摩耗・停止しないこと）、③整合性（異なる部品間での力伝達が乱れないこと）である。
　この仕組みは一度稼働すると容易に再調整が困難であり、また祭りの準備期間中は運用・保守リソースの確保が困難であるため、稼働後の不具合発生は村に深刻な影響を及ぼすリスクがあったためである。

1-3　品質測定の方法と判定基準

　テストでは、山頂から一定量の水を流し、村の貯水槽に届くまでの時間・漏水量・稼働の連続性を測定した。判定基準は以下とした。
　・信頼性：10回中9回以上、漏水量が規定値（5%）以下であること
　・持続性：連続24時間運転での部品摩耗率が10%未満
　・整合性：歯車の同期ズレが1回以下
　測定は朝・昼・夜の気温条件下で実施し、毎回の数値を累積してグラフ化し、収束傾向を確認するようにした。

🛠️第2章　品質基準未達の原因分析と実施した対策

2-1　測定結果と問題の顕在化

　初期のテストで、不良傾向が明らかとなった。特に漏水が止まらず、累積グラフは収束どころか傾斜を強めていた。これはまるで、山頂への到達を阻もうとする大いなる存在が、こちらの努力を嘲笑うかのように思えた。歯車の同期も外れ、村の学者は「これでは祭りに間に合わん」と眉をひそめた。
　私は胸の内で強い焦りと苛立ちを感じていた。仕組みを誇りに思っていた自分の自信が、まるで砂のように崩れていく感覚に襲われた。仲間たちの前では冷静を装ったが、内心では「なぜここまで崩れているのか、私の判断が間違っていたのか」と自問を繰り返していた。

2-2　原因分析の方法と得られた知見

　私は原因を特定するため、漏水箇所と歯車の不具合を地図に記し、頻度の多い場所を赤で囲んだパレート分析風の記録図を作成した。
　鍛冶屋の兄に「ここが3回連続で壊れてる。似た部品が他にもあったはずだろ？」と問うと、彼は苦い顔で答えた。「材料が足りず、兄貴の失敗作を使ったんだ。すまない…」
　私は一瞬、叱責しかけたが、「彼らも限られた時間と資源の中で必死だったのである」と思い直し、次善策を探ることにした。
　その晩、一人山道に腰を下ろし、月を見上げながら、自分の中の怒りと不安を静かに見つめた。「怒鳴って何になる？原因は私の管理にもあったのではないか…」そう気づいた時、私はようやく前を向く覚悟を持てた。

2-3　限られたリソース下での対策実施と工夫

　私は以下の対策を講じた。
　①不良頻度の高い部品と同型部品を優先的に机上点検し、摩耗痕や不均衡を即座に洗い出した。
　②水漏れの多い部分には、鍛冶屋弟が独自に提案した「布と蜜蝋の合わせ巻き」処理を導入した。これは時間がかからず、即効性も高かった。
　③歯車のずれについては、学者が提案した「夜間温度帯での試験」を重点実施し、昼夜の気温差による木の伸縮が要因と分かり、軸受け部分に緩衝材を追加した。
　④体制面では、私自身が夜間も含めた試験班に入り、データの逐次確認と現場判断を迅速化させた。これは私の判断責任を明確にするためでもあった。
　⑤さらに、鍛冶屋たちと一晩かけてテストの手順と結果を対話形式で振り返り、納得と信頼の再構築を図った。彼らが真摯に謝罪したとき、私はこう返した。「私も見逃していた。共に修正しよう」

🚧第3章　活動の評価と再発防止に向けた取り組み

3-1　対策の効果とプロジェクト全体への影響

　この一連の対策により、漏水量は平均4.2%に収まり、同期ズレは3日間ゼロを記録した。
　村の長が「これなら祭りに水が流れる」と微笑んだとき、私は胸を撫で下ろした。
　祭り当日には、仕組みは昼夜を通して稼働し、村人たちは水を浴びて喜んだ。
　だが私はその光景を見ながら、達成感だけでなく、言い知れぬ緊張の糸が切れたような虚無感にも襲われた。

3-2　活動上の課題と反省点

　今回の最大の反省は、開発段階での品質レビューの甘さである。失敗部品の存在を見逃し、鍛冶屋たちに判断を任せすぎた。私は「初期工程に目を向ける時間を惜しんでしまった」と後悔した。
　また、気温条件を想定せずに構造を決めたことも、昼夜でのズレを助長した一因だった。
　テスト中に体調を崩した鍛冶屋弟を見たとき、「品質確保は命の代償で成り立ってはならぬ」と痛感した。

3-3　再発防止策と今後の品質管理の工夫

　その晩、私は焚き火を囲んでいた鍛冶屋兄弟に、静かに語りかけた。「これが終わった後、どうするつもりだ？」兄は「また作るさ」と答え、弟は「もっと良いものを」と続けた。私は胸の内で小さく頷いた。彼らのその言葉こそ、私が守るべき信頼であり、次へつなぐ責任だった。
　あの祭りの晩、子どもたちが水辺ではしゃぎながら「また来年もこれで遊べるの？」と問いかけてきた。その瞬間、私は気づいた。この仕組みは一度きりの作品ではなく、次代へ引き継ぐ信頼の象徴なのだと。だからこそ、一過性の対応で満足してはならないという思いが強くなった。
　たとえ終わりなき繰り返しが続こうとも、それに意味を見いだし、また新たな一歩を踏み出す覚悟が求められる。私はその覚悟を胸に刻んだ。
　次回以降、私は以下の再発防止策を講じる。
　①部品レビューの仕組みを工程内に挿入し、失敗部品の再利用を防ぐ。
　②使用環境（温度・湿度）のシナリオを早期から共有し、耐候性を設計段階で見直す。
　③得られた知見を「村の仕組みづくり手引書」にまとめ、横展開を図る。
　このように、限られた時間・資源の中でも、工夫と分析により品質を取り戻すことができた。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では、原作の「終わりの見えない反復」や「岩を押し上げる知恵と覚悟」の象徴性を、品質基準未達の中で繰り返されるテストと対策、PMの孤独な内省と突破の構図に置き換えています。神に与えられた不条理の罰ではなく、「自らが責任を取る覚悟と選択」によって岩を押し続ける構造に昇華させた点が、本作のオリジナリティです。

🎓講評コメント（AI評価）

──いい意味で、地味にグッとくる一作だ。
　この論文の本質は、「派手な成功体験ではなく、抜け出せない工程の中で、いかに意味をつけていくか」にある。
　第1章では「漏水」「歯車のずれ」といった細部に宿る品質の危機を、村の祭りという期限と結びつけ、リアルな制約を丁寧に描いている。
　第2章になると、PMの苛立ちと沈黙の対話が重なり、内面の揺らぎがじわじわと伝わってくる。叱責を抑え、夜道で月を見上げる場面などは、ただの反省ではなく「PMとしての自我と責任の再定義」になっている点が秀逸だ。
　そして第3章、「虚無感」「焚き火の対話」「未来の問いかけ」。PMの孤独と仲間への信頼が結び直され、品質を超えて“文化”へと昇華していく。この論文のすごみは、「岩を押し上げる」ことに意味があると、読者に納得させる構造にある。
　まさに“論理で設計し、感情で納得させる”理想のPM論文。満点。教材推奨だ。