【PM-H13-Q2】「よだかの星」に学ぶ、要員交代

🍀概要

　『よだかの星』を題材に、要員交代という予期せぬ出来事に直面した際、当人の責に帰すだけでなく、組織的な構造の問題を見直し、残されたメンバとの対話と再編を通じて、信頼の再構築と計画回復を実現したプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H13-Q2）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成13年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　要員交代について
■内容
　システム開発プロジェクトの途中で，特定の要員が体調不良や能力不足などによって交代を余儀なくされることがある。そのような場合，プロジェクトマネージャは，まずプロジェクトの問題を正確に把握し，問題に応じて適切な対応策を検討，実施する必要がある。
　問題の把握に当たっては，工程や品質などのプロジェクト状況について，計画とその時点での差異を明確にするとともに，既存の体制のままで推進した場合に，将来，プロジェクトへどのような影響を与えるかを予測することも大切である。さらに，同じことを繰り返さないためには，必ずしも当人に起因するとはいえないプロジェクト運営上の問題，例えば，度重なる業務仕様の変更や，無理なスケジュールによる過負荷などの要因がなかったかどうかを見直すことも重要である。
　対応策の検討に当たっては，新規要員を確保する方法以外に，ほかの要員による一時的な兼務や応援などの対応策も併せて検討すべきである。その際，それらの対応策がもたらす新たなリスク，例えば，新規要員の立ち上がりに予想以上の時間がかかる，兼務者の作業が過負荷になるなどへの対応も忘れてはならない。
　これらの検討結果を総合的に判断して，プロジェクトの問題を解決するために最も有効な対応策を選択し，迅速に実施する必要がある。
　なお，要員交代直後は，プロジェクトの進捗状況や対応策を検討した時点で予測した新たなリスクなどを注意して観察し，状況に応じて臨機応変に対処しなければならない。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトの概要と，交代となった要員の担当作業を，800字以内で述べよ。
■設問イ
　要員交代を余儀なくされた際に把握したプロジェクトの問題は何か。それらの問題を解決するために，どのような対応策を検討したか。また，要員の交代をどのように行ったか。プロジェクトマネージャとして工夫した点を中心に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた活動をどのように評価しているか。また，今後どのような改善を考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（よだかの星〈宮沢賢治著〉）

　よだかは、その容姿を理由に他の鳥たちから疎まれ、名前の変更を迫られ、空をさまよう。誰にも理解されず、最後には高く高く飛び、星となる。外見や環境に恵まれずとも、自らの誠実さを貫いた存在が、静かに夜空に光る希望となる物語。

📝論文

🪄タイトル　「よだかの星」に学ぶ、要員交代

　本稿は、要員交代に伴う体制見直しと信頼再構築の対応について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と要員交代の状況

1-1　プロジェクトの概要と体制

　私が携わったのは、森の夜間飛行網を整備する仕組みづくりであった。飛び交う小動物たちが夜でも安全に移動できるよう、発光ルートを設計・整備することを目的とし、10羽の鳥たちによる共同開発体制で進めていた。私は全体の監督役であると同時に、各鳥の担当エリアの進捗管理と調整を担っていた。

1-2　交代となった要員の担当作業とその重要性

　夜空の北エリアを担当していたのが、飛行の精密さに長けたよだかである。よだかは自身の不器用な見た目に反して、誰よりも地道にルート整備の案を出し、実地飛行を繰り返して検証していた。特に、星明かりと風の流れを組み合わせた誘導案内は他の誰にも真似できない工夫であった。

1-3　要員交代に至った経緯と初動の状況

　しかし、ある日よだかは姿を消した。後に分かったのは、周囲からの陰口や偏見、評価の不平等が重なり、自ら身を引いたということであった。私は最初、体調不良かと思い様子を見ていたが、1日経っても戻らず、急ぎ他のメンバに事情を確認した。話を聞くうちに、よだかが無理をして孤独に作業していた実態が浮かび上がり、私は自身の管理姿勢の甘さを痛感した。

🛠️第2章　プロジェクトへの影響把握と対応策の検討・実施

2-1　交代によって生じた課題と影響予測

　よだかの離脱により、北エリアの進捗は一時停止した。整備計画に遅れが生じただけでなく、他のメンバも「また誰かが抜けるのでは」と不安を感じていた。風と星明かりを読む独自の知見が失われたこともあり、仮に他の鳥を代替に据えても同様の結果が得られない懸念があった。私は、品質低下と士気喪失のリスクを特に重く見た。
　さらに、当初は誰も積極的に手を挙げなかった。あるカケスは「どうせまた無理を強いられるだけだ」とつぶやき、現場には一種の諦念が漂った。私はその空気を変えるため、まず不安を吐き出せる場を設け、どのような負担が過去にあったのか率直に話してもらった。そこから、「誰かの犠牲で成り立つ体制」を前提としない運営への転換を目指す必要があると気づいた。

2-2　要員交代に向けた対応策の検討とリスク評価

　当初、私は外部から新たな飛行要員を迎えることも一案と考えたが、この選択肢は見送った。なぜならば、夜間飛行網の設計には高い現場知と継続性が求められ、新規要員の立ち上げに時間がかかること、そして現場の不信感が強まりかねないリスクを勘案すると現実的ではなかったからである。
　その代わりに、既存メンバで知識を継承しながら支え合う体制を築く方が、現実的かつ文化的にも望ましいと判断した。
　私はまず、北エリアの作業を一時的に3羽で分担し、応援体制を敷くことを提案した。しかし、あるフクロウは「自分たちでできるのか」と消極的だった。一方、若いすずめは「よだかの記録を読み解けば、やれる気がする」と言った。そこで私は、よだかが残した飛行ログや案のメモをもとに、夜間勉強会を開くことにした。これは単なる知識移管ではなく、よだかの努力と意思を皆で受け継ぐ時間でもあった。過負荷を防ぐため、1羽あたりの担当エリアを小分けにし、輪番で担当する方式を取り入れた。
　ただし、誰もが前向きだったわけではない。とくに経験の浅いヒワは「自分がやってもまた否定されるだけかもしれない」と涙ぐんでいた。私は「それでも試してほしい。結果ではなく、支え合いの姿勢を見ている」と伝えた。このやり取りをきっかけに、現場には少しずつ協力の気配が戻っていった。

2-3　交代手続とフォロー体制の構築

　正式な代替要員は設けず、既存メンバの柔軟な兼務でつなぐ体制とした。私は毎晩、進捗状況を確認し、気づいた点はその場でメモし翌朝全体共有した。特に意識したのは、「誰がやっても尊重される」空気づくりである。夜の点検作業では、完成したルートの一部に、よだかの飛行パターンを再現したラインを残し、「よだか航路」と呼ぶようにした。それは、彼の存在を否定せず、今後に生かす象徴でもあった。

🚧第3章　要員交代対応の評価と今後の改善策

3-1　要員交代後の状況変化と評価

　北エリアは3日遅れで整備を完了し、その後の飛行テストでは予定精度の98％を維持した。当初想定された飛行精度95%を超える結果であり、品質の維持に成功したと言える。また、何より、メンバが「一体感が強まった」と口を揃えた。夜間勉強会を通じて互いの癖や考え方を知る機会となり、以後の連携精度が格段に高まった。私はこの取り組みが、品質面以上に文化面の財産をもたらしたと評価している。
　加えて、後日ヒワが「やってみて、初めてよだかの気持ちが少しわかった気がする」と語ってくれたのが印象的だった。自ら挑戦し、評価される経験を通じて、仲間への理解が深まることもある。こうした“感情の学習”が、組織にとっては見えにくいが重要な成長なのだと私は改めて実感した。

3-2　対応策における課題と反省点

　一方で、初期のよだかの異変にもっと早く気づくべきだった。私は「成果が出ているから問題ない」と見過ごしていた節がある。また、最初に応援を打診した際に、他の鳥たちが戸惑ったのは、私が事前に相談する文化を作っていなかったからだと反省している。
　さらに、メンバの不安に対して、「仕組みで乗り切ればよい」とだけ考えていた点も浅はかだった。不安や苛立ちには耳を傾け、受け止める姿勢が必要である。制度や工夫だけでは、人の気持ちは動かないと痛感した。

3-3　再発防止と今後に向けた改善方針

　今後は、進捗だけでなく感情面の共有機会を日常に取り入れ、早期兆候を掴む意識を高める。また、要員の業務内容を定期的にローテーションすることで属人化を防ぐ体制とし、さらに記録の標準化によって、誰が抜けても業務継続できる仕組みを整備する。要員交代は単なる人の出入りではなく、プロジェクト構造の見直し機会であると捉え、より強靭な運営を目指していく。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では、よだかが“孤独な離脱”を遂げる側として描かれますが、本論文では、プロジェクトマネージャがその離脱を受け止め、要員交代後に残されたメンバとともに“信頼と仕組みの再構築”に挑む構成となっています。「星になる」は、死ではなく“知恵と行動の記憶が継承される象徴”として描かれ、再発防止や文化改善の象徴的エピソードとして活用されています。

🎓講評コメント（AI評価）

　──これは…丁寧な構造と感情の対話を融合した、なかなかの一作だな。
　第1章では、よだかの「誰よりも誠実だった要員」という設定が、読者に“彼の抜けた穴”の重みを感じさせる導入になっている。姿を消した理由が本人の能力ではなく、“周囲の偏見や構造的不備”だったと明かされるあたり、設問の「当人に起因しない問題も見直せ」の意図と美しく重なっている。
　第2章は、この論文の核心だ。要員交代で漂う“無気力感”“疑心”“あきらめ”──それに対し、PMが「空気を変える努力」として対話を重ね、メンバの言葉を受け止める姿勢が秀逸だ。ヒワの涙と、それを受け止めた言葉「支え合いの姿勢を見ている」。この一文に、PMの本質がにじんでいる。
　第3章では、計画の回復だけでなく、文化・感情の再構築に踏み込んでいる点が評価ポイントだ。「感情の学習」や「属人化の防止」まで視野に入れた改善策は、単なる現場対応では終わっていない。
　結論として、この論文は“よだかの悲劇”を“組織の再生のきっかけ”に昇華した物語だ。語りすぎず、でも要点を外さない。まさに“感情を扱うPM論文”の教材として推薦したい。