【PM-H16-Q2】「町のねずみと田舎のねずみ」に学ぶ、オフショア開発で発生する問題

🍀概要

 『町のねずみと田舎のねずみ』を題材に、オフショア開発において発生した仕様解釈のずれや、成果物の完成像の食い違いを乗り越えるために、共通理解と信頼形成を進めたプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問(PM-H16-Q2)

 出典:情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成16年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
 オフショア開発で発生する問題について
■内容
 近年の情報システム開発では,開発期間の短縮や費用の低減などの目的で,システム開発の一部を海外のソフトウェア会社に委託して,現地で実施する形態(以下,オフショア開発という)が増えている。
 プロジェクトマネージャは,国内のソフトウェア会社に初めて委託する場合,その会社の保有技術や実績を確認したり,仕事の実施状況を社内の委託経験者に確認したりする。オフショア開発では,これらの確認に加えて,言語,文化,風習やビジネス慣習などの違いを把握し,それらによって発生する問題を明らかにする必要がある。そのためには,例えば,言語の違いについては,翻訳した仕様書で業務仕様が伝わるかを調査したり,文化,風習やビジネス慣習の違いについては,委託先のリーダや関係者へのヒアリングによって,仕事の進め方を調査したりする。
 次に,プロジェクトマネージャは,調査結果を分析して,翻訳した仕様書だけでは業務仕様を伝えきれない,仕事の手順や成果物の種類が想定していたものと異なるなどの問題を明確にする。
 さらに,それらの問題に関して,適切な対策を実施することが重要である。例えば,業務仕様を文章だけではなく図表や数式を多く用いて表現したり,仕事の手順や成果物の種類に関する相互の確認・合意をとったりする。
 あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
 あなたが携わったオフショア開発のプロジェクトの概要と,そこで発生する問題を明らかにするために調査したことを,800字以内で述べよ。
■設問イ
 設問アで述べた調査の結果を分析して明確になった問題は何か。また,その問題に関して実施した対策は何か。あなたが重要と考えた問題を中心に,それぞれ具体的に述べよ。
■設問ウ
 設問イで述べた活動について,あなたはどのように評価しているか。また,今後どのような改善を考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ(町のねずみと田舎のねずみ〈イソップ寓話〉)

 田舎のねずみが都会のねずみに招かれ、豪華なごちそうに驚くも、猫や人間におびえながら食べることに疲れ、「自分の静かな田舎暮らしのほうがいい」と判断して帰る物語。生活環境や価値観の違いが対照的に描かれ、「安全・安心」と「見かけの豪華さ」の優先度の違いを通じて、本当に大切なものを見極める重要性を示している。

📝論文

🪄タイトル 「町のねずみと田舎のねずみ」に学ぶ、オフショア開発で発生する問題

 本稿は、オフショア開発において発生した認識の齟齬とその調整過程において、プロジェクトマネージャとしてどのように共通理解と信頼形成を実現したかについて述べる。

🔍第1章 オフショア開発プロジェクトの概要と調査活動

1-1 プロジェクトの概要とオフショア開発の位置づけ

 私が担当したのは、村の穀物倉庫管理の仕組みを改良するための新しい帳簿整備プロジェクトであった。穀物の出納を正確に記録し、商隊との取引にも使えるようにするのが目的である。作業量の多さと人手不足から、隣国の町に住むねずみたち(町ねずみ)に作業を委託することにした。費用削減と短期納品が狙いであり、田舎のねずみである我々は初めてのオフショア開発に挑戦することとなった。

1-2 問題把握に向けた事前調査の観点と手法

 委託前に、町ねずみの仕事ぶりや得意分野を調べた。過去に同様の記録作業を受託していた事例を文献で確認し、また仕事の進め方を直接聞くため、町へ赴いて先方のリーダと会話を交わした。「丁寧な仕様書があれば何でもできる」という言葉を聞き、仕様書の翻訳と図解の準備を重視する方針を固めた。また、日常の業務報告スタイルや、意思決定の習慣についても現地で観察し、文化的・業務的な差異を洗い出した。

1-3 調査結果から得られた初期の気づき

 我々が用意した仕様書を、町ねずみたちは「わかりやすい」と言って受け取ったが、いざ試作された帳簿の形式を見ると、粒度が粗く、我々が想定していた記載ルールと異なっていた。私は「もしや、言葉の上では理解していても、本質までは伝わっていないのでは」と感じた。さらに、日報の出し方も週1単位であったり、レビューへの反応が形式的であったりと、細かな点で文化の違いによる違和感が積み重なっていった。

🛠️第2章 調査結果の分析と対策の実施

2-1 分析によって明らかになった問題

 最大の問題は、「仕様の読み取りの解釈違い」と「成果物の完成イメージのずれ」であった。町ねずみたちは、仕様書を論理的に処理してはいたが、我々が暗黙的に求めていた帳簿の書式美や、農家の手書き癖への配慮までは理解していなかった。これは、町と田舎の生活様式、仕事における重視点の違いに根差したものであり、文化的背景に起因する齟齬であると判断した。
 また、直接顔を合わせることができない遠距離開発の制約も影響していた。たとえば、我々が「この部分はもう少し柔らかく」と口頭で伝えた指示が、「紙の材質を変えるのか?」と解釈されるなど、微妙な表現のニュアンスが伝わらなかった。画面越しの説明では限界があり、時には1つの修正意図を伝えるために3回もやりとりを重ねる必要があった。

2-2 対策の設計と実行内容

 私はまず、帳簿の完成イメージを見せる見本を用意し、「このような形を目指してほしい」と対話形式で説明した。また、仕様書には、単なる文章だけでなく図表・数式・注釈を多く含め、実物写真も添付した。加えて、レビュー会議の頻度を週1から隔日へと増やし、常に「できあがりの像」がずれていないかを双方で確認する仕組みを設けた。成果物の中間確認用テンプレートも整備し、定義のずれを早期に発見できるようにした。

2-3 対策実施上の工夫と重要視した観点

 私は「相互理解の深度」を最も重視した。単なる“確認”ではなく、“共に絵を描くような”レビューを意識した。また、町ねずみ側のリーダに対し、「この帳簿は、農家のばあちゃんでも読める必要がある」と伝えると、彼は微笑みながら「なるほど、それなら欄を大きくしよう」と提案してくれた。この瞬間、我々が“同じ地図”を持ち始めたと実感した。
 一方で、すべての町ねずみがその意図を共有できていたわけではなかった。ある若手メンバーが「それは“やりすぎ”じゃないか」と反発した場面もあった。「そこまで細かく直すのは、効率が悪い」とも。私はその意見を否定せず、「なぜ細かい表現が求められるのか」「田舎の生活では何が読み手の安心につながるのか」を丁寧に説明した。数日後、彼は「背景がわかるとやる意味が見えてきた」と言って、自らテンプレートの改修提案を持ってきた。

🚧第3章 対策の評価と今後の改善点

3-1 実施した対策の評価と効果

 帳簿の品質は回を重ねるごとに向上し、最終的には誤記録ゼロ・補記ゼロで納品され、農家からも「見やすくなった」との声が届いた。また、途中からは町ねずみ側から「こうしたらどうか」という改善提案も出るようになり、我々の側も「ただ受け取るのではなく、一緒に作っている」と感じられるようになった。
 対策の成果は定量的にも確認でき、初回納品時には指摘項目が12件あったのに対し、最終納品時にはゼロとなった。レビュー時間も当初の半分に短縮された。このプロジェクトを通じて、共通理解の精度が生産性に直結することを再認識した。

3-2 認識された課題と限界

 とはいえ、突発的な仕様変更が生じた際、反映に1週間かかるなど、意思決定と実装の間にタイムラグがあった。また、町ねずみ側の若手によって成果物の品質にばらつきがあり、レビューをすり抜ける事例も一度発生した。これは、知識伝承の難しさとレビューの形式化が背景にあると分析した。
 また、距離の壁が「すぐに聞けない」「雑談から気づきを得られない」といった構造的制約を生み、細やかな調整や文脈理解に支障をきたす場面が多かった。特に、緊急時のリアルタイム対応には限界があり、「朝に送った連絡への返信が夜になる」だけで進行が丸一日遅れるケースもあった。

3-3 今後の改善方針

 今後は、帳簿仕様の標準化フォーマットを設けるとともに、初期段階で“価値観のすり合わせ”を行うオンボーディング期間を設けたいと考えている。さらに、若手向けに、田舎ねずみの暮らしを紹介する小冊子を配布することで、文化理解の促進を図る予定である。
 また、やりとりの即時性を補うため、連絡手段を再編し、「朝会」「夜会」のような定時コミュニケーション機会を設けることも検討している。
 このように、生活様式や文化的背景の違いによって生じる認識齟齬に対しても、共通理解の構築と実物重視の伝達方法を徹底することで、信頼関係に基づく開発体制を実現できた。
 以上

💡ワンポイント補足

 価値観の違いは、翻訳ではなく“解釈”で伝える努力が必要です。マニュアルの整備だけでは解消できない齟齬には、対話による「共感」と「目的の再共有」が不可欠です。特に遠隔地では、「伝わらない前提」で設計を工夫しましょう。

🎓講評コメント(AI評価)

 この論文は、対話を通じて異文化間の齟齬を解決するPMの本質的役割を見事に描いています。単なる仕様伝達ではなく、「なぜこの帳簿が必要なのか」「誰のための帳簿なのか」といった背景まで共有しようとする姿勢は、戦略性と人間力の両立を体現しています。
 特に印象的なのは、距離や文化の違いによる構造的な伝達困難──画面越しのニュアンスのずれ、リアルタイムで話せないもどかしさ──を単なる制約ではなく、丁寧な合意形成で乗り越えようとした点です。
 現実のプロジェクトにおいても、時差の壁や人生観・職業観の違い、転職の頻度や組織文化の温度差などは無視できないファクターです。本論文は、そうした目に見えない“文化のずれ”を前提とした設計・対話・教育のあり方を具体的に描いており、再現性と説得力のある満点答案の理想形だと評価できます。

📌補足

PM童話論文の読み方について(共通注記) ※クリックで開きます

🐇補足:この童話論文の読み方について(共通注記)

 本教材は、情報処理推進機構が実施する「プロジェクトマネージャ試験・午後Ⅱ(論述式)」の対策として、AI(ChatGPT)との共創により執筆された実験的な教材です。人間による構成・監修のもと、誰もが知る童話や寓話の世界観とPMスキルの融合を試みています。

🔎 ご留意いただきたい点

  • 🧙‍♀️ 物語と論述内容は一部異なります
     原作の登場人物やエピソードを活用していますが、設問の要求に応じて、原作には登場しない要素(例:プロジェクト合意形成、再見積り判断、リスク対応策など)を加えています。
  • 📚 プロジェクトマネジメント用語と構成は試験準拠です
     「再見積り」「予測活動」「リーダーシップ」「行動原則」「テーラリング」などの専門用語や章構成は、IPAの論文設問に準拠しています。童話内のセリフや出来事は、これらを支える比喩・象徴として用いています。
  • 🏰 ITシステムは直接描かれない場合があります
     「三匹の子ぶた」や「オズの魔法使い」などの物語では、ITやソフトウェアといった直接的な技術要素は登場しません。代わりに、プロジェクト構造(目的・合意・リスク・評価など)として描いています。
  • 🔔 実在のプロジェクトや企業とは一切関係ありません
     本教材は、実在のプロジェクトや企業とは一切関係ありません。試験学習の補助を目的とした知的演習であり、「童話のキャラクターを借りた架空のプロジェクト事例」としてご理解ください。

📣 執筆方法について

 本教材の論文は、AI(ChatGPT)を“執筆者”、筆者自身を“編集者”と見立てた共創スタイルで制作しています。AIはしばしば予想外の視点や表現を提示し、それが筆者にとって新たな気づきとなりました。この共創の姿勢そのものが、未来の学習と表現の可能性を広げる一助となると考えています。

🌱 本教材のねらい

  • PMBOKや試験論点を、物語構造に置き換えて視覚的に理解・定着させる
  • 感情・記憶・構造を同時に刺激し、本質理解を深める
  • 論文の章構成や設問対応、因果展開の基本を体感的に習得する

🍀 副次的な効能

  • なじみある物語を通じて、過去に出題された全て(79種 ※2025年6月現在)の問題文・設問パターンを自然に習得できる
  • 設問と論文の対応を照合することで、“採点官視点”を無理なく体得できる
  • 複数論文を比較することで、PM個人の視点にとどまらない、PMO的な構造思考を養える