【PM-H17-Q1】「北風と太陽」に学ぶ、重要な関係者とのコミュニケーション

🍀概要

　『北風と太陽』を題材に、関係者の不安や反発を正面から受け止めた上で、押しつけではなく理解と納得を促す対話を重ねることで、支援や協力を自発的に引き出すプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H17-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成17年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　プロジェクトにおける重要な関係者とのコミュニケーションについて
■内容
　情報システムの開発を円滑に進めるため，プロジェクトマネージャには直接の管理下にあるメンバ以外に，プロジェクトの進行に応じてかかわりをもつプロジェクト関係者との十分なコミュニケーションが求められる。
　プロジェクト関係者は，情報システムの利用部門，購買部門，ベンダなどの組織に所属している。これらのうち，例えば，プロジェクトに要員を参加させている部門の責任者，プロジェクト予算の承認者，問題解決を支援する技術部門の責任者などは重要な関係者として認識することが大切である。
　重要な関係者とのコミュニケーションが不足していると，意思決定や支援が実際に必要になったとき，重要な関係者が状況を認識するのに時間がかかり，対応が遅れ，プロジェクトの進捗に影響することがある。このような事態を招かないように，日ごろからプロジェクトの進捗状況や問題点を積極的に説明するなどのコミュニケーションを行い，相互の理解を深めておくことが重要である。その際，プロジェクトへの関心やかかわりは重要な関係者ごとに異なるので，コミュニケーションの内容や方法について，個別の工夫が必要となる。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったプロジェクトの概要と，プロジェクト関係者を，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクト関係者の中で，重要と考えた関係者とその理由について述べよ。また，重要な関係者とのコミュニケーションの内容や方法について，あなたが個別に工夫した点を含めて具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べたコミュニケーションの内容や方法について，あなたはどのように評価しているか。また，今後どのように改善したいと考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（北風と太陽〈イソップ寓話〉）

　旅人の上着を脱がせようとした北風と太陽が、どちらが優れているかを競う話。北風は強風で無理やり上着を吹き飛ばそうとするが、旅人はかえって上着をしっかり押さえてしまう。一方、太陽は静かに暖かく照らし、旅人が自ら進んで上着を脱ぐ。結果、太陽のやり方が効果的であったと証明される。力による押し付けよりも、相手の気持ちを汲んだ働きかけの方が成果を上げるという教訓を示す寓話。

📝論文

🪄タイトル　「北風と太陽」に学ぶ、関係者に応じた伝え方の工夫

　本稿は、プロジェクトにおける重要な関係者とのコミュニケーションの工夫と関係性の維持について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と関係者の構成

1-1　プロジェクトの目的と業務的背景

　私は、村の集落を結ぶ「物資流通の仕組み」の見直しを任された。これまでは各村がばらばらに山越えをしていたため、冬の物資不足や配達遅延が頻発していた。私は、各村が連携して共有の中継所を使い、効率よく物資を届け合う仕組みを構築することを目的に、冬を迎える前の三か月間で準備を進めることとなった。

1-2　プロジェクト関係者の全体像

　本仕組みは、複数の集落にまたがるため、それぞれの村の長老（利用部門に相当）、共同中継所を管理する番人（運用部門）、荷車を提供する車師の工房（ベンダ）、そして全体予算を配分する里の評議会（意思決定者）など、多くの関係者が関与していた。
　また、雪深い村では、技術的に荷車が通れるか否かという問題もあり、車師と技術補佐も加わる体制であった。

1-3　関係者との関係構築における前提条件

　評議会は、資金の配分には非常に慎重で、無駄があれば即座に支援を打ち切る姿勢であった。長老たちは各村の事情に敏感で、「自分たちの利益が脅かされるのでは」と懐疑的な者もいた。番人は仕組みの変更による管理作業の増加を心配し、車師は納期短縮と品質要求に対して過去に不満を抱えていた。私はこれらの多様な関心と背景を理解したうえで、個別に最適な接し方を考える必要があると感じていた。

🛠️第2章　重要な関係者とのコミュニケーション設計と実践

2-1　重要な関係者の特定と重要性の理由

　特に重要と考えたのは、予算を配分する評議会の代表と、番人である管理者である。前者はプロジェクト全体の進行に直結する財源確保に関与しており、後者は日々の運用がその人の手にかかっていたからである。もし彼らの理解と協力が得られなければ、他の関係者も追随しづらく、全体の信頼性が損なわれると考えた。

2-2　個別に工夫したコミュニケーションの内容と方法

　評議会の代表には、定期的な進捗報告だけでなく、使い道ごとの成果見込みを図や物量で表現した書簡を届けた。会議ではなく、事前に書面で納得してもらうことで、無用な対立を避けた。彼は「この図があるとわかりやすいな」と言い、その後も進んで話を聞いてくれるようになった。
　一方、番人は「急な変更は困る」「どうせ手間が増える」と不安を口にした。私は一度だけでなく、数日にわたり時間をとって番所を訪れ、変化点を一緒に棚卸しし、「これは太陽のように、ゆっくりと温めながら進める方法です」と説明した。彼は「お前、例えがうまいな。確かにそうかもしれん」と笑い、協力的な態度に変わっていった。
　他にも、車師の工房では「こちらの負担ばかり増えるのではないか」と詰問される場面があった。私は「今すぐ全てを変えるわけではありません。あなたの知恵を活かしたいから、工程を共に組み立てたい」と伝えた。力で押せば反発を生む。私は北風のような強硬な手段ではなく、太陽のように照らし、相手が自ら納得し、協力したくなるような伝え方が必要だと痛感した。

2-3　継続的な関係性維持に向けた仕組み

　私は関係者ごとに連絡帳を設け、それぞれの疑問や反応を日誌のように記録し、次の訪問時の話題とした。また、三日に一度の市で顔を合わせるタイミングに合わせて小さな報告を口頭で交わすようにした。公式な場以外での小さな対話が信頼につながった。
　問題が起きた際は、誰に何をどう伝えるかを即座に共有できるよう、村間での連絡図を作成し、責任範囲ごとの報告ルートも明文化した。加えて、関係者の不安を汲み取る場として、月に一度の「なんでも相談日」を設けた。話題は技術でも感情でもよく、結果として心理的な溝を減らす効果があった。

🚧第3章　コミュニケーション施策の評価と改善点

3-1　コミュニケーションの成果と効果

　評議会は、予定より一月早く追加予算を承認し、冬前に仕組みを完成させる後押しとなった。また、番人も新しい棚の設置を自発的に提案するなど、変化に前向きな姿勢を見せた。私はこのような変化の背景には、相手の立場や性格に応じた伝え方の工夫があったと考えている。
　車師からも「最近は前もって相談してくれるから安心できる」と言われた。これは、かつての一方的な仕様変更に対する不信感を克服した証と受け止めた。

3-2　運用時に直面した課題

　一方で、技術補佐の若者とは当初、情報の粒度に差があり、「何を知っていて何を知らないのか」が見えづらかった。私はその後、説明時に「理解している前提」ではなく、「一緒に組み立てる前提」で話すようにし、誤解を防ぐよう努めた。また、一部の長老は「聞いていない」と感情的になることがあり、伝えた事実と伝わった実感の違いに課題を感じた。
　特に印象的だったのは、会議での長老の一言「結局、どうせ決まったことを後で知らせてるだけだろ」。その瞬間、私は自分の伝え方が「北風」だったのではと気づいた。以後は一方的な決定ではなく、「一緒に考える」スタンスを強めた。

3-3　今後の改善方針

　今後は、関係者の関心を引き出すため、説明の初めに「なぜあなたに話すのか」「あなたに期待していることは何か」を明示するようにする。また、情報を伝えるだけでなく、相手の反応や意図を受け取る“逆方向のやり取り”を促す姿勢も強めたい。私は、風のように押しつけず、太陽のように相手の心を温めていけるような関係性づくりを目指していく。
　さらに、コミュニケーションの質を高めるために、第三者の視点による“伝わり方チェック”を導入し、感情のズレを早期に察知できる仕組みを作りたいと考えている。
　以上

💡ワンポイント補足

　ステークホルダの「反発」や「無関心」に直面したとき、すぐに説得や圧力で動かそうとしていませんか？
相手の言葉にならない不安や立場を読み取り、「あなたの力を借りたい」「一緒に進めたい」という真摯な姿勢が、協力の芽を育てます。太陽的なアプローチは時間がかかりますが、信頼という最大の資産を残します。

🎓講評コメント（AI評価）

　本論文は、「強く伝えれば通る」という安直な発想を見事に否定し、太陽のように相手の心に寄り添うコミュニケーションの本質を貫いた傑作です。番人や車師との会話、そして「北風だったのでは」との自己内省は、PMに求められる感受性と転換力の象徴といえます。関係者ごとの対応策も粒度が高く、しかも人間的。押さえるべき行動、成果、対話、すべてが満点構成。まさに「伝える」の先にある「伝わる」構造を持った論文です。