【PM-H18-Q3】「三年寝太郎」に学ぶ、開始日固定プロジェクトの変更対応

🍀概要

　『三年寝太郎』を題材に、無理のある変更要求に直面した際、全体導入に固執するのではなく、導入範囲を段階化し、限られた期間と体制の中で確実に成果を出すための判断と調整を行ったプロジェクトマネージャの対応を論じます。

🧾問題・設問（PM-H18-Q3）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成18年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
　業務の開始日を変更できないプロジェクトでの変更要求への対応について
■内容
　情報システム開発プロジェクトにおいて，新製品や新サービスにかかわる業務の開始日が決まっており，それに応じて稼働開始時期が決められているシステムを開発することがある。このようなシステム開発において，ビジネス上の方針変更などによって要求機能やシステムの対象範囲に関して影響の大きい変更要求が発生したとき，業務の開始日までにシステムの開発が完了できない場合がある。
　このような場合，プロジェクトマネージャは，まず，業務の開始日に稼働させるシステムとそれ以降に段階的に稼働させるシステムの範囲を決定する。
　次に，プロジェクトマネージャは，新たに必要となるタスクの追加や実行中のタスクの中断又は継続を検討したり，業務の開始日以降に段階的に稼働させるための移行手順を検討したりしなければならない。また，プロジェクト体制の見直しなどの検討も必要である。これらの検討においては，次のような観点を考慮して，タスクの優先度を決めたり，関係者と調整したりすることが重要である。
　・利用部門が円滑に業務を遂行できること
　・運用部門に大きな負担がかからないこと
　・現行システムと並行運用させる場合，システム間の整合性が取られていること
　・チーム編成を変更する場合，リーダや要員の理解が得られること
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった情報システム開発プロジェクトの概要と，業務の開始日を変更できなかった背景及び変更要求の内容を，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた変更要求に対して，あなたが検討した内容と，その結果を，あなたが特に重要と考えた観点とともに，具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた検討した内容とその結果について，あなたはどのように評価しているか。また，今後どのように改善したいと考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（三年寝太郎〈日本昔話〉）

　三年もの間眠り続けた寝太郎は、周囲から怠け者と見なされていたが、ある日突然起き上がり、「大鍋を貸してくれ」とだけ言って村を出る。寝太郎は町に赴き、知恵と力で大金を得て、その金で大鍋を買い、山に登る。そして鍋を使って川をせき止め、干ばつに苦しむ村へ水を引いた。実は寝太郎の長い眠りは、村を救うための構想と機を見極める時間だった。彼の行動は、村の未来を変える熟慮の英断だったのである。

📝論文

🪄タイトル　「三年寝太郎」に学ぶ、変更要求を乗り越える段階的対応

　本稿は、変更要求を受けた際の段階的対応と関係者調整について、述べる。

🔍第1章　業務開始日を変更できないプロジェクトと変更要求の背景

1-1　プロジェクトの概要とシステムの開発目的

　私は、村の共同作業を効率よく進めるための新たな仕組みを設計する役を任されていた。山あいのこの村では、年に一度の大市に合わせて、特産品の出荷や物資の調達が行われる。従来は各家が個別に準備をしていたが、手間も無駄も多かったため、私は村人が協力して準備を進められる仕組みを整えることを目的に、村の代表から相談を受けた。
　新たな仕組みは、大市に向けて動き出す春の初めに稼働する必要があった。なぜならば、大市の期日は春分の日と決まっており、それに間に合わなければ機会損失が生じるからである。

1-2　業務開始日を変更できなかった制約条件

　村の習わしとして、大市の期日は祖先の教えにより絶対であり、変更は許されなかった。また、周辺の村々との取引もこの日に集中するため、我が村だけ準備が遅れてしまうと商機を逸し、信用も損なわれるおそれがあった。したがって、仕組みの稼働開始日は春分の日と厳格に定められており、動かす余地はなかった。

1-3　発生した変更要求の内容と影響の大きさ

　準備も順調に進んでいた冬の終わり、村長から突然、「今年は新たに山の上の集落も参加させたい」との要望が寄せられた。山の集落はこれまで参加していなかったため、運搬経路や準備内容が大きく異なり、対応には多くの変更が必要だった。私はこの要望が仕組みの範囲拡大を意味するものであり、春分までの稼働は極めて困難になると判断した。変更は、物資の集荷ポイントの追加、運搬日程の再設計、参加者への教育内容の変更など、多岐にわたった。

🛠️第2章　変更要求への対応方針と検討内容

2-1　対応方針と段階稼働の検討

　私はまず、春分までに絶対に必要な範囲と、あとから対応可能な範囲を明確に分けることにした。具体的には、従来の村域における出荷準備機能を第1段階として稼働させ、山の集落の対応は第2段階として、春分以降に導入する方針とした。
　この方針を持って村長に説明に伺った。最初は「全体が揃っていなければ意味がないのではないか」と難色を示されたが、私は「段階的に広げていくことで、全体としての混乱を抑えつつ、確実に導入できます」と伝えた。すると村長はうなずき、「確かに、まずは今年の大市を成功させることが先決かもしれん」と納得してくれた。
　しかし他の長老たちからは強い反発もあった。「山の者を後回しにすれば、また仲間外れにしていると取られかねんぞ」「結局手抜きだろう」との厳しい声もあがった。私は黙って聞いた後、「今回の目的は、大市を確実に成功させ、来年以降も継続できる仕組みを築くことです。急ぎすぎて全体が壊れては意味がありません」と冷静に答えた。しばし沈黙の後、一人が「……その通りかもしれん。今年を乗り切ってからこそ、真の参加と言える」とつぶやき、会議の空気が和らいだ。

2-2　タスク・体制の見直しと優先順位の設定

　次に、タスクの見直しと体制の調整を進めた。新たに必要となる道具の製作や、運搬路の調査といったタスクを追加し、それ以外の部分では重複作業を削減するよう工夫した。
　特に重要だったのは、仕組みを使いこなすための村人への説明会だった。山の集落への導入は後回しとしたが、その分、既存の村人にしっかりと習熟してもらうことで、次の段階に進む基盤を築こうと考えた。
　体制面では、急遽人手が足りなくなったため、寝太郎に助力を依頼した。最初は「やっと起きたのに、また働けと言うのか」と渋っていたが、「今の判断が、後々みんなを助けることになる」と伝えると、寝太郎は「ならば、起きたかいがあるというものだ」と笑って引き受けてくれた。
　寝太郎は当初、「どうせ最後は全部自分のところに回ってくる」と不満げだった。私は彼に、「今回は、あえて役割を絞り、確実なところに集中してほしい。手を広げて失敗するより、力の出しどころを見極めたいんだ」と説明した。「……なるほど、そう言われると悪くない」と彼は少し照れながらも納得してくれた。

2-3　移行手順・補完策の設計

　段階稼働のために、春分の稼働後すぐに山の集落を対象にした準備を始められるよう、必要な資材や教育手順を先に整えておいた。また、並行期間には旧来の方法と新しい仕組みの両方が使われることになるため、整合性が取れるよう、情報伝達役として「調整人」を任命し、混乱を抑えるよう配慮した。
　さらに、混乱を避けるために、村の広場に掲示板を設け、進捗と手順を誰でも確認できるようにした。このような可視化は、村人たちの不安を減らし、協力を得やすくする効果があった。

🚧第3章　対応策の評価と今後の改善方針

3-1　対応策の成果とプロジェクトへの影響

　今回の段階的対応により、村の大市には予定通り仕組みが導入され、出荷や準備の手間は昨年比で30%削減された。参加者からは「効率が良くなった」「分担が明確で助かる」といった声が多く寄せられた。
　山の集落についても、大市の終了後速やかに仕組みを導入することができ、2週間後には全体が統一された運用に切り替わった。導入の混乱も少なく、調整人の働きが非常に効果的だった。
　導入後の村の様子を見ていた長老が、「最初は反対したが、結果を見れば納得せざるを得ん」と語った。私は「次は、最初から皆の納得を得られるよう、もっと丁寧に話すようにします」と答えた。

3-2　実施時に認識した課題と限界

　一方で、段階稼働という形式に不安を感じた村人もおり、初動での説明不足が影響した面もあった。また、寝太郎のように「手伝っても後から追加されるんじゃないか」と不信感を抱く者もいた。これらは、変化に対する心理的抵抗を丁寧にほぐす対話が不足していたことに起因する。
　山の集落では、「うちは後回しにされた」という声が一部で聞かれた。これに対しては、調整人が直接足を運び、「後回しではなく、必要な準備を進めた結果です。今、導入するからこそ万全です」と繰り返し説明した。徐々に「丁寧にやってくれたのだな」と理解が広がり、摩擦は沈静化した。

3-3　今後の改善に向けた取り組み

　今後は、変更要求が生じた場合に備えて、稼働範囲を柔軟に分割できるよう初期設計の段階から意識しておくべきである。さらに、段階的導入モデルの成功事例を資料として残し、次の準備時に活用することで、よりスムーズな導入が可能になる。
　また、村人の納得感を得るためには、変化の理由と全体像を可視化する手段を充実させ、調整人のような役割を早期に明確化することも重要である。
　今後は特に、変更を受け入れることへの不安に寄り添い、「急がず壊さず、確実に前へ進む」姿勢を全体で共有していくことで、より強固な協力体制が築けると考える。
　以上

💡ワンポイント補足

　段階的対応を選ぶ場面では、全体最適と関係者感情の板挟みになることが多い。その際、単なる技術論やスケジュール調整に終始せず、「なぜこの順序が最善か」を対話によって共に理解し合う姿勢がPMには求められる。納得形成は「構造」と「感情」の両方から攻めよう。

🎓講評コメント（AI評価）

　三年寝太郎の“寝ていた時間”を、想定外の変更に備えるリスク感度や、状況を俯瞰する冷静さに読み替えた点が秀逸です。特に、強い反発に対し「焦れば全体が壊れる」という一貫した軸で諭し、段階導入へと転換する説得の流れには、プロジェクトの本質的な価値判断が表れており、論文として極めて高評価です。会話や比喩を交えつつも、論理の筋道が明確で、試験官が安心して読める作品です。