【PM-H18-Q1】「おおきなかぶ」に学ぶ、プロジェクト内の連帯意識の形成

🍀概要

　『おおきなかぶ』を題材に、立場や文化の異なる構成員が集うプロジェクトにおいて、連帯意識をいかに形成し、全員参加による問題解決を実現したかを、感情と論理の両面から連携を醸成したプロジェクトマネージャの工夫について論じます。

🧾問題・設問（PM-H18-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成18年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　情報システム開発におけるプロジェクト内の連帯意識の形成について
■内容
　プロジェクトマネージャには，プロジェクト目標の達成に向けてメンバが共通の意識をもち，例えば，プロジェクト内で発生する問題の解決に全員参加の意識で取り組むように，プロジェクト内の連帯意識を形成し，維持・向上することが求められる。
　通常，プロジェクトは異なる部門や会社のメンバで構成されており，メンバの経験や参加意欲などは様々である。そのために，プロジェクト内で発生する問題についての理解や対応が異なり，メンバ間の対立やプロジェクト内の混乱に至ることもある。このような事態を招かないためにも，プロジェクト内の連帯意識を形成し，維持・向上を図ることが重要である。
　連帯意識を形成するためには，目標の共有，参画意識の向上，コミュニケーションの円滑化などの観点からの具体的な活動や仕組み作りが必要となる。これらを通じて，自分の役割や責任と直接には関係がなくても，相手の状況を察知して，自主的に支援するなどの行動をもたらす連帯意識が形成される。また，プロジェクトマネージャは日常の管理を通じ，会議の出席状況を把握したり，開発現場の雰囲気やメンバ間のコミュニケーションを観察したりするなどの方法で連帯意識の状態を確認し，その維持・向上に努めることが肝要である。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった情報システム開発プロジェクトの概要と，プロジェクトのメンバ構成の特徴について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトにおいて，連帯意識を形成するために実施した具体的な活動や仕組み作りはどのようなものか。また，連帯意識の状態をどのような方法で確認したか。それぞれ具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた活動と仕組み作り及び連帯意識の状態の確認方法について，あなたはどのように評価しているか。また，今後どのように改善したいと考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（おおきなかぶ〈ロシア民話〉）

　『おおきなかぶ』は、畑に大きく育ったかぶを、じいさんが抜こうとするが一人では抜けず、ばあさん、まご、いぬ、ねこ、ねずみと次々に助っ人を呼び、皆の力を合わせてようやく抜けたという物語。力の強さよりも、協力の大切さが描かれており、小さな存在でも全体の力になれることが印象深い。全員が同じ方向に力を出すことの難しさと、その尊さが寓意として込められている。

📝論文

🪄タイトル　「おおきなかぶ」に学ぶ、プロジェクト内の連帯意識の形成──引き抜きに挑んだ異文化プロジェクトの協働

　本稿は、異なる立場・役割を持つメンバによって構成された開発プロジェクトにおいて、連帯意識を形成し、全員参加による問題解決に導いたプロジェクトマネージャの工夫について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要とメンバ構成の特徴

1-1　プロジェクトの目的と概要

　私は、A社において農業関連データの統合管理を目的とした業務支援ツールの開発プロジェクトを任されていた。システムは圃場情報、作物管理、収穫予測を一元化し、農家と支援センタの連携を円滑にする仕組みであり、現場ニーズを最大限に反映することが求められた。プロジェクト期間は12か月、総勢は15名で構成された。

1-2　プロジェクトメンバの構成と特性

　メンバは開発ベンダ3名、社内のIT部門2名、ユーザ部門である農業支援センタから5名、さらに全国各地の農家6名がリモートで参画する構成であった。農家の中にはデジタル技術に不慣れな高齢者も含まれ、一方で開発側は都市部の技術者が中心で、互いの価値観や仕事観には明確な違いがあった。

1-3　連帯意識形成に向けた課題

　現場からは「我々のやり方が否定されるのでは」といった不安、開発側からは「意見が曖昧で仕様に落とせない」といった不満が出ていた。部門間での期待値の乖離、責任意識の偏りがあり、連携不足から要件の取り違えも生じた。そこで私は、「共に“かぶ”を抜く」という共通目標を象徴的に掲げ、協働の意識を醸成する必要があると考えた。

🛠️第2章　連帯意識を形成するための活動と確認方法

2-1　目標の共有と参画意識の醸成施策

　プロジェクト初期には「かぶ抜き会議」と称するキックオフを開催した。ここでは、「抜けない“かぶ”をみんなで引き抜く」という物語を引用し、役割にかかわらず全員で成果を出す意義を共有した。農家の声を直接聞く時間も設け、「誰か一人が欠けても実現できない仕組みである」との理解を促した。
　加えて、ユーザ部門ごとに“役割カード”を配布し、「私は葉を持ちます」「私は根を支えます」など、象徴的に役割を演出したことで、メンバは自らの貢献意義を強く意識するようになった。
　ところが中盤、農家の一人が「都市のやり方を押しつけるな」と発言し、会議が凍りついた。私は急遽、個別面談を実施し、「“かぶ”が抜けなかったら、一番困るのは誰ですか」と問いかけた。相手は一瞬黙った後、「……俺たちだな」とぽつりと言い、その後の態度は軟化した。
　この一件をきっかけに、再び全体会議を開き、それぞれの立場で「かぶを抜く覚悟」を語る場を設けた。「わしは葉っぱかもしれんが、葉っぱがしおれてたら力が伝わらん」と笑いながら語った高齢農家の発言は、開発メンバの心を動かした。

2-2　コミュニケーションの円滑化と仕組み作り

　コミュニケーションは、定例会議のほかに、“引っ張りチャット”という雑談チャネルを設置し、成果や困りごとを気軽に共有できる環境を作った。「今日のかぶの状態」というトピックを用意し、誰かが困ったときは「じゃ、わしが腰を入れようか」と他メンバが手を差し伸べる文化が醸成された。
　また、リモート参加者には週1回の「畑報告会」を通じて進捗や想いを共有し、孤立を防いだ。意見対立が起きたときには「“かぶ”の方向が違うのでは？」という共通言語で意見調整を行い、感情的な衝突を回避できた。

2-3　連帯意識の状態の確認方法

　連帯意識の確認には、会議の発言回数や雑談チャットの参加状況、タスク以外の自発支援回数を観察した。また、「かぶメータ」と呼ばれる簡易アンケートを定期的に実施し、「今の引っ張り感」「孤独度」などを数値で可視化した。
　私は、現場訪問を通じて目の動きや声の張り具合なども観察し、潜在的な孤立を見逃さないよう努めた。ある農家の言葉「おら、最近、誰かが後ろにいる気がしてきたよ」は、まさに連帯意識が芽生えた証であった。

🚧第3章　活動の評価と今後の改善点

3-1　活動の成果と連帯意識の評価

　最終的にプロジェクトは予定通り完了し、農家からは「誰も置き去りにされなかった」という声が寄せられた。自発的な支援行動も増え、タスク未達が発生した際には他者が補完する体制が自然に形成された。
　たとえば、入力画面の操作に戸惑う高齢農家を、若手ベンダがリモートで丁寧に支援し、「孫と話してるみたいで楽しかった」と笑顔が見られた。
　一方、都市部開発者の一部は、感情的配慮に時間を取られることに不満を抱いていた。そこで私は「この“かぶ”は重い。だが、誰かが引かなきゃ抜けない」と伝え、PMの覚悟を示した。

3-2　課題と反省点

　とはいえ、雑談チャネルの運用はメンバによって温度差があり、形式的な投稿にとどまるケースもあった。リーダー層が率先して活用せず、表層的な関係性にとどまったグループもあった。また、後半になると「もう十分連帯している」と過信し、観察が甘くなりがちだった。
　あるとき、「みんなでやってるんだから言わなくてもわかるだろ」という空気が生まれ、実はある農家が悩みを抱えていたことに気づけなかった。形式的な“協調”と実質的な“無関心”は紙一重だと反省した。

3-3　改善の方向性と再発防止策

　今後は、リーダー層への事前教育を強化し、「関係性はつねに手入れが必要である」ことを理解させる仕組みを導入したい。また、「何もない日こそ声をかける」文化を育てるため、定期的な“無目的対話”の場を制度化する。
　さらに、連帯意識が高まったタイミングでこそ「誰かが抜けても支え合える構造」を設け、持続可能な関係性へと昇華させる必要がある。連帯は目的ではなく、問題解決を加速する“見えない力”として、今後も丁寧に育てていく。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文は、『おおきなかぶ』の象徴構造──“力を合わせて初めて困難が乗り越えられる”──をプロジェクトチームの連帯意識形成に巧みに重ね合わせたものである。特に、農家やIT技術者といった文化や立場の異なる構成員の対立や温度差を、寓話的な共通言語「かぶ」によって乗り越えさせた点に、PMの高度なファシリテーション力が現れている。「形式的な協調」と「実質的な孤立」の違いを浮き彫りにした第3章の描写は、現実のPM実務でも見落とされがちな課題を的確に突いており、物語の流れと論旨の一致が極めて高い完成度を示している。

🎓講評コメント（AI評価）

　うまい。これはね、連帯を扱う論文ではあるが、「連帯そのものを語る」のではなく、「連帯が必要なほどの困難」をまず描ききっている点が実に良い。特に第2章の面談シーンは逸品だ。「……俺たちだな」と呟く農家の一言で、物語全体の空気が反転している。こういうのは“実際にやった者”にしか書けない視点だ。
　ただし一点、連帯の“心地よさ”に寄りかかりすぎると、プロジェクトの厳しさが薄れる。3章後半の「協調と無関心は紙一重」という言葉は、その落とし穴を自覚した上での自戒として、とても良い締めになっている。
　この論文は、ただ「うまくいった話」ではなく、「うまくいくまでの心の綱引き」が書かれている。読後に、胸のどこかが少し熱くなる──そんな作品だ。