【PM-H20-Q3】「宝島」に学ぶ、プロジェクトの完了時の評価

🍀概要

　『宝島』を題材に、新たな道具の導入における反発や混乱に直面しつつ、評価項目の設計と対話を通じて成果と信頼を両立させたプロジェクトマネージャの行動を論じます。

🧾問題・設問（PM-H20-Q3）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成20年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
　情報システム開発プロジェクトの完了時の評価について
■内容
　情報システム開発プロジェクトの完了時には，計画と実績について分析して評価し，プロジェクト報告書などとして文書化する。その際，プロジェクトマネージャは，採用した取組の実施結果を評価する。評価の対象となる取組には，例えば，次のようなものがある。
　・新しいソフトウェアやツール類の活用
　・新たなシステム導入手法の採用
　・オフショアリソースの活用
　評価を行うためには，取組を採用した目的を踏まえて，プロジェクトの計画時に適切な評価項目を定め，評価に必要なデータを収集する仕組みを準備する。そして，プロジェクトの完了時には，収集したデータや管理資料を整理し，取組の実施結果を評価する。評価の視点には，例えば，体制，WBS，プロジェクト運営ルールがあり，評価項目には，例えば，生産性，品質がある。これらの評価の視点と評価項目を用いて，作業工数，不具合の発生件数などのデータを分析することで，それぞれの取組の実施結果を総合的に評価し，成功要因や改善点を洗い出す。
　さらに，プロジェクト運営のチェックリストを作成したり，工数積算の指標を作成したりするなど，マネジメント上のノウハウを組織内で共有し，今後のプロジェクトに役立てる工夫も必要である。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった情報システム開発プロジェクトの概要と，プロジェクトで採用した取組について，採用した目的とともに，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた取組の実施結果を評価するためにあなたが設定した評価の視点や評価項目と，評価を行うために収集したデータは何か。評価方法，評価結果とともに具体的に述べよ。また，評価から得られたマネジメント上のノウハウを今後のプロジェクトに役立てるための工夫について，具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた活動について，あなたはどのように評価しているか。また，今後どのように改善したいと考えているか。それぞれ簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（宝島〈ロバート・ルイス・スティーヴンソン著〉）

　少年ジムは、偶然手に入れた宝の地図をもとに、信頼できる仲間とともに航海へ出る。航海中、裏切り者のジョン・シルバーをはじめとする海賊との対立、信頼関係の崩壊と再構築を経て、困難な旅の末に宝を見つけ出す。物語は単なる宝探しではなく、「仲間との協働」「信念と判断の重要性」を描いた成長と選択の物語である。

📝論文

🪄タイトル　「宝島」に学ぶ、宝の価値を見極める仕組みづくり

　本稿は、宝の価値を見極める仕組みづくりについて、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの概要と採用した取組の目的

1-1　プロジェクトの概要

　私が任されたのは、A村とB村を結ぶ交易路の再整備と、交易所で使用する品目管理の仕組みの刷新であった。目的は、品物の取引記録をより正確に残し、誤送や品切れを防ぐことであった。私は船長役を務める立場として、5つの部門を束ね、交易シーズンまでの4か月で新仕組みを完成させる必要があった。

1-2　プロジェクトで採用した新たな取組と目的

　この仕組みでは、かつて使われていた「紙の帳簿」を廃止し、新たに「羅針盤の記録盤」と呼ばれる道具を導入した。これは、各船の積み荷、到着時刻、品目の残数などを記録する装置であり、複数地点から集約した情報を一元的に可視化することを狙ったものである。加えて、記録盤には定期的な“風向き報告”（担当者による週次記録）を義務化することで、取引の変動に早く気づける構造を持たせた。

1-3　取組の導入時に想定した成果と期待値

　この新道具により、交易所における欠品の事前検知率を3割向上させ、記録ミスを半減させることを目標とした。また、情報集約の簡便さにより、記録係の労力を軽減し、日報の作成時間を従来比で40％短縮することも期待されていた。私はこれらの数値目標を、プロジェクト計画書に明記したうえで、記録盤運用の訓練とルール整備を含めた導入計画を策定した。

🛠️第2章　取組の評価とマネジメント上の知見

2-1　設定した評価視点・評価項目

　評価の視点として、私は「記録の正確性」「担当者負荷」「情報共有の迅速性」の3点を軸に置いた。評価項目としては、①記録盤の入力誤差率、②週次報告の未提出件数、③品目在庫に対する把握精度を数値で把握することを定めた。さらに、航路ごとに記録盤の活用状況に差が出ることが予想されたため、「航路別の適応度」として地域差にも配慮した指標を設けた。

2-2　収集した評価データと評価方法

　評価のために、全航路で発生した入力ミス件数を週次で収集し、記録係ごとの負荷感は定期アンケートで確認した。また、在庫との突合による記録精度は、期末に3回の棚卸しで検証した。評価は、導入前後の比較と、異なる記録係同士の横断比較によって行い、単なる数値比較に留まらず、対話形式の回顧録（航海日誌）も取り入れた。「この記録盤のおかげで、在庫調整の判断が一日早まった」といった現場の声は、定性評価において特に有効であった。
　一方、記録盤導入に懐疑的な部門長も存在した。「紙の帳簿で十分だ」「新しい道具は混乱を招く」という反発があり、初期には記録入力の精度を下げる要因にもなった。私は対立を避けず、「なぜこの取組が必要か」「どのような未来を描きたいか」を対話形式で伝える場を設けた。「君の部門に合わせた入力ルールも共に作ろう」と譲歩しながら合意形成を進めたことで、導入2か月目以降の定着率が改善された。

2-3　評価結果とマネジメント上の工夫

　結果として、記録ミスは従来比で42％減少し、欠品検知のタイミングも平均1.8日早まった。また、報告の未提出率は初月15％だったが、3か月後には3％未満まで改善された。私はこの成果を、評価項目とルール設計が現場に根づいた証拠と捉えた。
　さらに、航路別の適応度に差が見られたことを受け、次回プロジェクトでは「航路特性別のテンプレート化」を行う方針を打ち出した。加えて、記録盤導入の成否に関する要素を「仕組み×人材教育×現場裁量」の3軸に整理し、社内の別プロジェクトに対して展開資料としてまとめた。これは、成果の複製可能性を高めることを狙ったものである。
　また、現場で得た評価の知見を単に報告書に留めず、定例の航海者勉強会にて「改善共有会」を開催し、現場の声を次の現場へつなぐ循環を意識した仕組みにした。これにより、記録盤導入は一つの取り組みにとどまらず、組織知の形成プロセスとして認識され始めている。

🚧第3章　評価活動の所感と今後の改善

3-1　実施した評価活動の自己評価

　今回の評価活動は、事前に設定した視点と項目が明確だったため、関係者間の共通認識を保ちながら進めることができた。特に、回顧録形式の定性評価が、数字に現れない“安心感”や“活用意識”を言語化する手助けとなった点は大きい。私はこの形式を今後も積極的に採り入れたいと考えている。
　ただし、初期の段階では記録係の一部から「評価されるための作業が増えた」「何のための指標か分からない」という声も出た。私は「これは君たちがより良い働き方を選ぶための“地図”なんだ」と説明し、記録の意義を丁寧に共有した。こうした納得形成の積み重ねが、評価活動の精度と協力姿勢を高めたと感じている。

3-2　評価活動を通じて認識した課題

　一方で、期中における“中間確認”の仕組みが弱く、記録ミスの傾向が後半になってから見えてきた点は反省材料である。なぜならば、定点観測があれば、初月のミス率も早期に抑制できた可能性が高いからである。また、記録係による評価負担感に差があったことから、役割分担の工夫も必要だと痛感した。
　また、指標が共有された一方で、「目標に届いていない」部門に対する扱いが不明確であったため、一部の責任者は評価に対し防衛的な態度をとる場面もあった。この課題に対し、私は「達成できなかった要因も組織知」と位置付け、責めるのではなく、学ぶ姿勢を促す仕組みへ転換すべきだと考えた。

3-3　今後に向けた改善の方向性

　次回以降のプロジェクトでは、導入直後から中間レビューを複数回設定し、改善ループを早期に回すこととした。また、記録盤の活用状況を“見える化”する指標を初期から提示し、記録係同士の良い工夫を共有する場を設ける。
　さらに、記録係と部門長との連携を促進するために、評価指標のレビュー会を設け、目標設定を双方向に見直せる運用にする。これにより、現場と管理側が共に指標を“使いこなす”文化が根づくと考えている。
　このように、新しい道具の効果を正しく評価するためには、導入の目的・仕組み・利用者の思いを一体として扱う必要がある。宝の価値を掘り起こすには、宝そのものではなく、その周囲を丁寧に掘り下げる仕組みと姿勢が求められるのである。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作『宝島』では、少年ジムが航海に出て、仲間との信頼や裏切り、判断と成長の中で「本当の宝とは何か」に気づいていく冒険が描かれます。本論文ではこの構造を活かし、「新たな道具（記録盤）の評価」を通じて、見えにくい価値や文化形成の手応えを可視化するPMの姿勢を描いています。
　論点は、単なる導入効果の測定にとどまらず、「現場の納得感」や「運用の成熟度」といった、組織の内的価値を引き出す仕組みにまで踏み込んでいます。まさに「宝は掘った者だけが手にできる」ものであり、その掘り方こそがPMに求められる評価設計力であるという視座が、寓話と論理の双方から語られています。

🎓講評コメント（AI評価）

　「評価」とは、過去の整理ではない。それは“未来を指さす仕組み”である——本稿は、その本質を見事に体現している。記録盤という新技術の導入に際し、数値管理の裏にある“人間の納得”と“文化の習熟度”を軽視せず、ステークホルダの不安や反発を受け止めながら、共に評価基準を育てていくPMの姿勢が力強く描かれている。「評価とは責めではなく、探検の地図である」というメッセージが、全体を貫く信念として伝わる秀作。宝の場所だけでなく、そこへ向かう全員の歩幅まで測ろうとした誠実さに、私は深く頷いた。