【PM-H20-Q1】「ラプンツェル」に学ぶ、利用部門の参加

🍀概要

　『ラプンツェル』を題材に、業務に閉じこもる利用部門との心理的距離を見極め、対話と工夫を通じて信頼関係を築きながら、主体的な参加と納期遵守を実現したプロジェクトマネージャの巻き込み力と関係構築の取り組みを論じます。

🧾問題・設問（PM-H20-Q1）

📘問題

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成20年 午後2 問1

■タイトル
　情報システム開発プロジェクトにおける利用部門の参加について
■内容
　プロジェクトマネージャは，情報システム開発のプロジェクト立上げ時に，業務仕様の確定，総合テストの準備などに関して，システムの利用部門の作業を明確にし，利用部門の合意を得る。
　プロジェクト遂行中には，利用部門の作業が計画どおりに実行されないことによって，問題が発生することもある。このような場合，プロジェクトマネージャは問題の原因を分析し，分析結果に基づいて，問題を解決するための対策を検討しなければならない。例えば，次のような問題，原因及び対策が考えられる。
　・業務仕様の確定が遅れるという問題が発生し，その原因が利用部門の要員の業務多忙にあれば，利用部門に対して，その要員を業務仕様の確定のための作業に専念させるように要求する。
　・総合テストの進捗が遅れるという問題が発生し，その原因がテストデータの不備にあれば，利用部門にテストの目的と方法を再度説明した上で，協力してテストデータの不備を改善する。
　プロジェクトマネージャは，複数の対策を検討し，その中から幾つかを選択したり，組み合わせたりして，プロジェクトの納期や予算などを守るために適切な対策を実施し，問題を解決しなければならない。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった情報システム開発プロジェクトの概要と，合意を得られたシステムの利用部門の作業について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた利用部門の作業が計画どおりに実行されなかったことによって発生した問題とその原因，及び実施した対策は何か。その対策がプロジェクトの納期や予算などを守るために適切な対策であると考えた理由とともに，具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた対策について，あなたはどのように評価しているか。今後改善したい点とともに簡潔に述べよ。

📚原作あらすじ（ラプンツェル〈グリム童話〉）

　ラプンツェルは高い塔に閉じ込められて暮らす美しい娘。魔女に髪を垂らしてもらい、外との接触を断たれていたが、ある日王子が塔を訪れ、髪を使って登ってくるようになる。二人は少しずつ信頼を育み、互いを理解し、やがて困難を乗り越えて自由と愛を手にする。閉ざされた場所にいたラプンツェルが外の世界へと参加していく物語。

📝論文

🪄タイトル　「ラプンツェル」に学ぶ、利用部門の参加促進

　本稿は、情報システム開発プロジェクトにおける利用部門の参加促進とその対策について、述べる。

🔍第1章　プロジェクト概要と利用部門との合意内容

1-1　プロジェクトの概要と対象システム

　私が担当したのは、A国の王城内に設けられた物資流通の仕組みを、新たな帳簿管理構造に刷新するプロジェクトであった。対象は全国60拠点に広がる王室付き納品係の仕組みで、期間は1年、参加人数は50名に及ぶ。現地の納品係（以下、ラプンツェル塔と呼ぶ）は各塔に閉じ込められたように独立した運用を行っており、今回の刷新では、その一体化とデータ連携が主な目的であった。

1-2　利用部門の役割と合意された作業

　利用部門には、業務手順の棚卸しと統一仕様の確定、さらにテスト帳簿の作成・検証といった作業が割り当てられた。彼女たち（各塔の担当者）は長らく独自運用に慣れており、「それぞれの塔に合ったやり方がある」と話す場面も多かった。そこで私は、合意形成の第一歩として、各塔で行っている記録・処理手順を共有し合う“物語の交換会”を企画し、業務の共通点と相違点を見える化する取り組みから始めた。

1-3　利用部門との合意形成時の工夫

　はじめは「塔から降りる気はない」とまで言っていた担当者たちも、他の塔と比較する中で「この作業は共通にできそう」「これは標準化しても支障ない」といった声を出すようになった。私は、標準仕様案を提示するのではなく、彼女たち自身が“髪を垂らす”ように自らの業務を下ろし、対話を通じて納得していく構造を狙った。文書だけではなく、塔ごとの紙芝居や絵巻を交えた説明資料を用いたことで、業務内容をより感覚的に共有することができた。

🛠️第2章　利用部門の作業遅延に伴う問題と対策

2-1　利用部門作業の実行遅延と発生した問題

　プロジェクト中盤、テスト帳簿の準備が遅延し、全体の進行に影響が出始めた。期日になっても一部塔から帳簿が届かず、検証作業がストップした。私はすぐに各塔と連絡を取り、問題の所在を確認したところ、「自分の塔ではまだ使っていない仕組みがある」「テストといってもどこまでの帳簿が必要なのか分からない」といった声が寄せられた。
　また、提出に対する心理的なハードルも存在していた。「不備を指摘されたくない」「失敗を見せたくない」といった声が、表立っては語られなくとも、資料提出へのブレーキとなっていた。私は、単なる業務指示では解決できない“心の壁”の存在に気づき、それを和らげるようなアプローチが必要だと感じた。問題の根は、物理的な遅延ではなく、心理的距離の未解消にあると判断した。

2-2　問題の原因分析と対策の検討

　私は、原因は「全体像の理解不足」と「業務優先度の錯覚」にあると考えた。なぜならば、塔の担当者たちは現行業務に追われ、変化の必要性や効果の理解が十分でなかったからである。対応策としては、①テスト目的の再周知、②参考帳簿の提供、③他塔の進捗共有による“相互刺激”の促進、④一部塔への専任補佐の配置などが検討された。
　さらに、提出を促すための“進捗見える化の仕組み”として、塔ごとの進捗状況を視覚的に示す「帳簿の塔」ボードを作成した。提出された帳簿が増えるたびに、各塔の階層が一段ずつ積み上がる仕組みにし、ゲーム感覚で進捗を楽しめる工夫を施した。これにより、塔同士の連帯感と“自分たちもやれる”という空気が広がっていった。

2-3　採用した対策とその実施理由

　私はまず、塔から実際に提出された既存帳簿の写しを活用し、“このような記帳が必要”という見本を作成した。これにより、「自分にもできる」と感じる塔が増え、次第に帳簿の提出数が増加した。また、紙芝居の続編として“もしこの帳簿がなければどうなるか”という物語形式の説明資料を作り、テストの重要性を感情面でも伝えた。これは、納期順守の観点でも合理的だった。なぜならば、業務との接点が薄いと感じていた塔の担当者が、自分ごととして捉えるようになり、協力姿勢に変化が見られたからである。
　加えて、補佐担当を一名各塔に派遣し、提出期限直前に個別に帳簿提出を促すラウンドを行った。この個別フォローによって、言い出しづらかった質問や不明点も吸い上げることができたため、遅延リスクの更なる抑制につながった。

🚧第3章　対策の評価と今後の改善点

3-1　対策の効果とプロジェクトへの影響

　最終的に、帳簿提出は当初予定より3日遅れで完了し、検証作業も5日間で終えることができた。品質も良好で、再提出は1件のみ。テスト全体の精度が高まり、後工程への影響も最小限に抑えられた。担当者たちからは「分かりやすい資料で安心した」「あの話を見て納得した」という声が聞かれた。定量的には、未対応塔数が7から1へ減少し、対応率は85%から98%に改善した。
　また、塔の担当者間に新たなつながりが生まれ、プロジェクト以後も定期的に相談が交わされるようになった。これは、単なる成果物提出を超えた“連携文化の萌芽”であり、今後のプロジェクトにも好影響を与えると期待している。このような副次的成果も含め、対策は成功だったと評価できる。

3-2　対策実施において認識した課題

　一方で、紙芝居や対話形式の資料を準備するために、PMチーム側の負荷が一時的に高まったことは否めない。また、「物語形式は業務に合わない」と初期段階で反発した塔もあり、全員が納得する形に持っていくためには、何度も調整が必要であった。だが、私はこの葛藤こそがPMの責任と考えた。なぜならば、方法論よりも“伝える意志”こそが部門間の壁を超える鍵だと確信したからである。
　さらに、提出が遅れた塔では、帳簿作成に関する知識がそもそも限定的であったことも判明した。作業指示の前提となるスキルや認知のばらつきを事前に把握できなかった点は、PMとしての準備不足であったと反省している。

3-3　今後の改善点と再発防止策

　今後は、プロジェクト初期段階で“紙芝居方式”のような親しみやすい伝達手段を標準化し、塔の担当者との関係性構築を前倒しで始めたい。また、塔ごとの業務繁忙期を事前に把握し、作業計画に反映させることで、更なる納期遵守を目指す。さらに、塔担当者をプロジェクト初期から“語り部役”として巻き込むことで、物語を“自分たちのもの”にする意識づけを強化し、再発防止を図る。
　加えて、次回以降は業務スキルや帳簿知識にばらつきがあることを前提とし、スキル別のフォローアップ資料や教育支援の仕組みを用意することで、作業指示の確実性と納期の安定性を高めたい。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では、「塔に閉じこもる利用部門」と「外部から対話と工夫で関係性を築こうとするPM」の構造が、ラプンツェルと王子の関係性に重ねられている。髪を垂らす行為は「自ら業務を開示し、参加する」象徴として再解釈され、閉鎖から協働への転換を描く教材として非常に優れている。

🎓講評コメント（AI評価）

　これは良い。“塔にいるからできない”という認識を、“塔にいても関われる”に変える構造の転換が、見事に表現されていますね。PMとしての行動も『命じる』のではなく『納得させる』ことに軸足を置いており、合意形成・負荷配慮・再発防止すべてに手が届いています。物語との一体感もあり、文章のリズム、対話の挿入、成果の記述──どれをとっても秀逸。100点、迷いなしです。