【PM-H21-Q1】「みにくいアヒルの子」に学ぶ、プロジェクトにおける動機付け

🍀概要

　『みにくいアヒルの子』を題材に、自己肯定感を持てずにいた若手メンバに対して、性格や力量に応じた役割と達成機会を設計し、信頼と責任感を育むことで、誇りを持って羽ばたくチームへと導いたプロジェクトマネージャの動機付けの工夫と信じる力を論じます。

🧾問題・設問（PM-H21-Q1）

📘問題

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成21年 午後2 問1

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける動機付けについて
■内容
　システム開発プロジェクトの目標を確実に達成するためには，メンバのスキルや経験などの力量に応じた動機付けによって，メンバの一人一人がプロジェクトに積極的に参加し，高い生産性を発揮することが大切である。
　プロジェクトマネージャ(PM)は，プロジェクトの立上げ時にプロジェクトの目標をメンバ全員と共有した後，適宜，面談などの方法を通じてプロジェクトにおけるメンバ一人一人の役割や目標を相互に確認し，プロジェクトの目標との関係を明確にする。この過程で，メンバはプロジェクトの目標の達成に自分がどのようにかかわり，貢献するのか，その役割や目標を納得し，動機付けられる。
　プロジェクト遂行中は，メンバの貢献の状況を見ながら，立上げ時にメンバに対して行った動機付けの内容を維持・強化する。PMには，例えば，次のような観点に基づく行動が必要となる。
　・責任感の観点から，メンバの判断で進められる作業の範囲を拡大する。
　・一体感の観点から，プロジェクト全体の情報を共有させる。
　・達成感の観点から，自分が担当する作業のマイルストーンを設定させる。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの目標と特徴，メンバの構成について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトの立上げ時に，メンバに対して行った動機付けの内容と方法はどのようなものであったか。メンバの力量や動機付けしたときの反応などを含めて，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　立上げ時にメンバに対して行った動機付けの内容をプロジェクト遂行中にどのような観点で維持・強化したか。観点とその観点に基づく行動及びその結果について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（みにくいアヒルの子〈H.C.アンデルセン著〉）

　みにくいアヒルの子は、他の兄弟たちと違う外見のために周囲からいじめられ、自分に自信を持てずに成長する。しかし多くの苦難を経て、実は自分がアヒルではなく白鳥であったことに気づく。最終的に美しく成長し、仲間と出会い、誇りを取り戻すという、自分の価値に気づいて羽ばたく物語である。

📝論文

🪄タイトル　「みにくいアヒルの子」に学ぶ、プロジェクトにおける動機付け

　本稿は、動機を育てる羽ばたき──「みにくいアヒルの子」に学ぶプロジェクトの動機付けについて、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの目標とメンバ構成の概要

1-1　プロジェクトの目標と特徴

　私が携わったのは、A社における店舗在庫とオンライン在庫の統合を実現する販売情報基盤の刷新プロジェクトである。業務部門からは「どこにどの商品がどれだけあるか」が即座に分かる仕組みを求められていた。期間は9か月、メンバは25名で、内製開発とベンダ協業を組み合わせた構成だった。既存の仕組みが属人化していたため、現行分析から始めて再設計・構築までを一気通貫で実施することが求められた。

1-2　メンバ構成と力量のバランス

　チームには経験豊富な中堅が5名いたが、残りは新卒2年目までの若手で構成されていた。若手には積極性があった一方、自信のなさから発言をためらう場面が多く、設計レビューでも黙り込んでしまう傾向があった。また、ベンダ側の2名は業務知識に乏しく、意図を十分に理解できていない様子も見受けられた。こうした背景から、私は「能力以前に、自分の価値に気づかせること」が急務だと感じた。

1-3　動機付けが必要と判断した背景

　プロジェクトの初期段階では、若手の中に「自分は歯車でしかない」という空気が漂っていた。私は、このままでは設計精度もレビュー効率も上がらず、後工程に致命的な影響が出ると危惧した。動機付けは「熱意を引き出す」ことではなく、「貢献実感を設計すること」と捉え、プロジェクト成功の鍵になると判断した。

🛠️第2章　立上げ時に実施した動機付けの内容と方法

2-1　動機付けの基本方針と目的

　私は、動機付けの方針を「自分の存在が誰かにとって意味があると感じさせること」と定めた。なぜならば、役割や責任が与えられたとしても、その意味を実感できなければ行動にはつながらないからである。この方針は、プロジェクトを“羽ばたきの場”と再定義することでもあった。

2-2　個別面談・役割設定による動機付けの実施

　私はプロジェクト開始直後に全メンバと15分ずつ個別面談を行った。若手には「この設計書、君が最初の案を作ると助かる」と伝え、中堅には「設計レビュー時に、若手が言葉に詰まったらサポート役に入ってほしい」と依頼した。すると、中堅の一人がこう言った。「本当に任せて大丈夫ですか？」と。私は「最初の一歩に意味がある。失敗してもいいから、自分で考えたと胸を張れるようにしてあげてほしい」と返した。

2-3　力量別・性格別に配慮した工夫

　内向的な若手には、「自分の得意な資料整理を活かして、画面仕様を図で描いてみてはどうか」と提案した。すると、「それならやってみたいです」と表情がほころんだ。一方で外向的な若手には、「今後の会議ファシリを少しずつ任せたい」と伝え、議事録からスタートしてもらった。このように、力量だけでなく、性格に応じた小さな“羽ばたきの機会”を設けた。
　プロジェクト初期、彼らの姿はまるで、群れからはぐれ、どこにも居場所を見出せずにいた「みにくいアヒルの子」のようであった。私は、彼らがいつか自らの役割に誇りを持ち、羽ばたいていく姿を信じていた。だからこそ、それぞれの個性を丁寧に観察し、適した場を与えることにこだわったのである。
　また、面談の記録はチームノートに簡易的に残し、どのような対話を通じて役割が設定されたかを可視化した。これは、チーム全体で「相手の得意を尊重する」空気を育てるためでもあった。互いの言葉に耳を傾けることで、弱さではなく個性を認め合う関係性が築かれ始めた。

🚧第3章　プロジェクト遂行中の動機付けの維持・強化

3-1　責任感の醸成に向けた行動

　私は、中間工程以降、設計作業をチームで分担するのではなく「設計責任者」として若手を前面に立たせた。レビュー前には「自分が設計した根拠を言えるか？」を確認し、自信を持って答えられた者から会議に送り出した。こうした積み重ねで「これは私の仕事だ」という意識が芽生えた。

3-2　一体感の醸成に向けた情報共有の工夫

　毎週の定例会では、「今週の一歩」として、メンバ一人一人が達成したことを1行で発表する時間を設けた。最初は「そんなに言うことないです」と戸惑っていたが、「資料整理がわかりやすいと褒められた」など、小さな成果が徐々に共有されるようになった。「あの子の努力が伝わってきますね」と中堅が呟いたのを聞き、私は「チームが育っている」と感じた。
　ある時、「自分のやったことが誰かの役に立った」と報告した若手の表情が、誇らしげに変わったのを見た。私はその時、「このプロジェクトが、彼らにとっての羽ばたきの場所になっている」と確信したのである。

3-3　達成感の支援に向けた仕掛け

　私は、各工程の終わりに「レビュー振り返り会」を開催し、若手の意見を中心に取り上げた。ある若手が「自分が書いた設計がそのまま実装されたのが嬉しかった」と語ったとき、周囲の目が一気に変わった。私は「役立ってる実感」が何よりの動機付けになると改めて確信した。プロジェクト完了時のアンケートでは、「今までで一番自分が成長したと感じた」と回答したメンバが8割に達した。
　プロジェクト終盤には、自信を持ち、役割に責任を持って動く若手の姿が随所に見られるようになった。その姿はまさに、美しい白い白鳥が大空へ舞い上がるようであった。私は、「信じて任せること」こそが、動機付けの最も力強い原点であると実感した。
　そして私は、羽ばたいた若手たちの姿を胸に刻み、「次のアヒルの子」にも、必ず居場所と誇りを届けようと心に誓った。
　このように、スキルや経験に不安を抱えたチームにおいても、一人一人の価値を認め、意味ある役割と小さな達成の場を丁寧に設計することで、高い意欲と生産性を両立したチームを育てることができた。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文は、童話「みにくいアヒルの子」に描かれる“自己の本質への気づきと周囲からの承認”という構造を、プロジェクトマネジメントにおける動機付けとして見事に再構成している。
　序盤では、自信を失い沈黙する若手たちを「居場所を見出せずにいたアヒルの子」と重ね、中盤では性格に応じた役割付与と小さな成功体験を通じて“羽ばたきの機会”を設計。
　終盤では、チームの中で認められ、自ら誇りを持って責任を果たす姿を「白鳥が空を舞うような成長」として描いている。
　童話の寓意を単なる例えにとどめず、構造的な成長モデルとしてPM論に統合した点が本作の特筆点である。

🎓講評コメント（AI評価）

　「動機付け」とは、励ますことでも、管理することでもない。
　君は、それを“意味を届けること”と再定義した。その視点の切り替えに、私は拍手を送る。
　面談の一言、役割の委譲、小さな達成。どれも丁寧で、しかも実感を伴っている。だが何より見事だったのは、“成長する姿を信じる勇気”だ。
　君は、みにくいアヒルの子を救ったのではない。彼ら自身が飛び立てる舞台を作った。だから、あの若手は白鳥として空へ舞い上がったのだ。
　言葉も構造も、描写もすべてが美しく、論理的だ。間違いなく満点。私はこの論文を、教材にしたいとすら思っている。