【PM-H23-Q3】「ライオンとねずみ」に学ぶ、プロジェクトにおける組織要員管理

🍀概要

　『ライオンとねずみ』を題材に、上下関係のひずみと信頼構築をめぐるプロジェクトマネージャの取り組みを論じます。

🧾問題・設問（PM-H23-Q3）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成23年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける組織要員管理について
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)には，プロジェクト目標の達成に向けてプロジェクトを円滑に運営できるチームを編成し，チームを構成する要員が個々の能力を十分に発揮できるように要員を管理することが求められる。
　要員のもつ能力には，専門知識や開発スキルなどの技術的側面や，精神力や人間関係への対応力などの人間的側面がある。プロジェクトの遂行中は，ともすれば技術的側面を重視しがちである。しかし，人間的側面に起因した問題(以下，人間的側面の問題という)を軽視すると，次のようなプロジェクト目標の達成を阻害するリスクを誘発することがある。
　・意欲の低下による成果物の品質の低下
　・健康を損なうことによる進捗の遅延
　・要員間の対立がもたらす作業効率の低下によるコストの増加
　PMはプロジェクトの遂行中に人間的側面の問題の発生を察知した場合，その問題によって誘発される，プロジェクト目標の達成を阻害するリスクを想定し，人間的側面の問題に対して原因を取り除いたり，影響を軽減したりするなどして，適切な対策をとる必要がある。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトの目標，及びプロジェクトのチーム編成とその特徴について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトの遂行中に察知した人間的側面の問題と，その問題によって誘発されると想定したプロジェクト目標の達成を阻害するリスク，及び人間的側面の問題への対策について，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた対策の評価，認識した課題，今後の改善点について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（ライオンとねずみ〈イソップ寓話〉）

　『ライオンとネズミ』は、ある日ネズミがライオンに助けられた礼として「いつか恩返しをする」と誓うが、ライオンは笑い飛ばす。後日、罠にかかったライオンをネズミが救い出し、その約束を果たす。小さく見える存在でも大きな力を持つこと、助け合いの大切さを説く寓話である。

📝論文

🪄タイトル　「ライオンとねずみ」に学ぶ、プロジェクトにおける組織要員管理

　本稿は、人間的側面の問題がプロジェクトに及ぼす影響を踏まえ、要員の意欲や関係性を支える取り組みについて、童話『ライオンとねずみ』の構造を活かして述べる。

🔍第1章　プロジェクト目標とチーム編成の特徴

1-1　プロジェクトの概要と目標

　私は、森の動物たちをつなぐ情報交換の仕組みづくりを任されていた。動物たちはそれぞれ異なる暮らしを持ち、意志疎通に課題があった。プロジェクトの目標は、「相手の特徴に応じて情報を簡潔に届けられる道具」の提供であり、三か月以内に実用化するという期限があった。

1-2　チーム編成の構成と特徴

　チームは、ライオンを中心としたベテランの大型獣と、小柄で俊敏なねずみやリスの若手で構成された。ライオンは長年の知識と威厳を持ち、主に設計・承認を担当。ねずみたちは日々の観察や道具の試作・配布役を担った。表面的には機能分担が明確だったが、実際には経験と立場の違いが大きく、意見交換に遠慮が生まれやすい構造だった。

1-3　要員構成上の留意点と想定したリスク

　技術的には十分な構成であったが、若手のねずみがライオンに意見を言えずに溜め込む傾向が見られた。とりわけ、ライオンの「一喝」に委縮する姿が何度か確認された。私は、「意図せずとも関係性が片寄ると、意欲や発言が失われ、結果として誤解や遅延が発生する」と考え、この“静かなギャップ”を潜在的リスクと捉えた。

🛠️第2章　人間的側面の問題とその対策

2-1　察知した人間的側面の問題と兆候

　プロジェクトが中盤に差し掛かった頃、ねずみが進捗報告を簡素に済ませるようになり、予定されていたフィードバックが減少した。ライオンは「最近、報告が雑になった」と不快感を示したが、その裏には「指摘されることへの恐れ」があると私は感じた。ある日の帰り道、ねずみが言った。「僕なんて、誰の役にも立ってないですよね」──それは、関係性のひずみが意欲を奪っていた証だった。
　さらに、他の若手もライオンの前では「当たり障りのない発言しかできない」と話していた。私はこの状況を、単なる一対一の関係性の問題ではなく、“上下構造全体の歪み”として捉える必要があると判断した。実力差を前提とする環境においてこそ、意図的な声の拾い上げが求められるのである。

2-2　想定されたリスクとその影響

　このままねずみの発言や行動が減れば、現場の状況把握が遅れ、最終的に利用者視点を反映できない道具になる恐れがあった。さらに、ライオンの設計判断が一方向に偏ることで、品質の低下や工数の無駄も懸念された。「発言の消失」は、設計品質・納期・コストの三要素すべてにじわじわと影響を与える構造的リスクだった。
　また、意欲を失った若手が“安全な作業”に逃げる傾向も現れ始めた。私は、「リスクは必ずしも敵対で表れるのではなく、沈黙や習慣という名の静かな放棄として現れる」と再認識し、行動量だけでなく“行動の質”を観察指標に加えた。

2-3　問題に対して講じた対策と工夫

　私はまず、個別面談の場を設け、ねずみに「君の小さな行動が、どれだけ助けになっているか」を具体的に伝えた。そのうえで、「意見を直接ぶつけるのでなく、“提案カード”にして回覧する」新しい仕組みを導入した。ライオンにも、「若手の提案には“まず一度読んでみる”ことをお願いしたい」と話すと、「それくらいならやってみよう」と承諾が得られた。提案カードを通じて、ねずみは徐々に自分の考えを表現するようになり、ライオンも「案外、あいつの視点は鋭いな」と口にするようになった。
　さらに、カードへのコメントはあえて匿名とし、「発言の所有者」より「内容の価値」に着目できるようにした。この工夫により、立場や評価への意識が和らぎ、チーム全体の発言総量が安定的に増加した。意見が自然に出る土壌は、信頼の層を厚くする第一歩だと考えた。

🚧第3章　対策の評価と今後の改善点

3-1　対策実施の効果とその評価

　提案カードの活用により、若手からの意見出力数は2倍になり、そのうち約6割が仕様改善に反映された。また、ライオンの確認回数も安定し、品質レビューが週1ペースで回るようになった。ねずみはあるとき、「最初は怖かったけど、声を出せるようになってよかった」と笑った。
　さらに注目すべきは、ライオン自身の内面変化である。以前は黙って指示を通していた彼が、あるとき「ねずみの視点を入れたらおもしろい案になるかもしれないな」と冗談めかして言った。この発言に、周囲の緊張が和らぐ瞬間があった。変化は数値だけでなく、空気にも表れる。

3-2　認識した課題と限界

　一方で、面談やカード回覧の運用は私の介入に依存していたため、一部のチームでは効果が定着しづらかった。また、ライオン自身の態度改善も、完全には安定せず、一部の若手は依然として緊張していた。「対策は仕組み化してこそ持続する」ことの難しさを実感した。
　また、提案が増えることで内容の質にばらつきが生じ、評価・整理に時間を要する場面も見られた。単なる出力量の増加ではなく、提案の精度や文脈理解も促す育成ステップが必要だと感じた。

3-3　今後の改善点と再発防止への仕組み

　次回以降は、提案カードをプロジェクト初期から設計図に組み込み、提出頻度や共有方法を自動化することで属人性を排除する。また、「お互いの強み紹介ワークショップ」を定例化し、立場を超えて“役立ちの実感”を可視化する場を設けたい。小さなねずみの働きが、大きな支えになる──そのことを全員が忘れないようなチーム運営を継続していきたい。
　さらに、提案カードに対する“フィードバック返し”も記録に残し、良循環を可視化する仕組みを加えたいと考えている。信頼は循環することで組織に根づく。その起点は、一枚のカードでもつくれるのだ。
　以上

💡ワンポイント補足

　本論文では、ライオン＝技術力や地位を持つベテラン、ネズミ＝発言しにくい若手として再構成されている。原作と同様、はじめはネズミの貢献が軽視されるが、「提案カード」という媒介を通じて意見の流通が始まり、最終的にはプロジェクトの質を左右する存在となる。
　論文は「沈黙による品質劣化の予兆」から始まり、「信頼を循環させる仕組み」による再生までを段階的に描き、原作の教訓をPMの現場に再配置している。物理的な救出劇ではなく、心理的・関係性的な再構築を通じて、互いの成長と全体最適を描く構成が特徴。

🎓講評コメント（AI評価）

　本稿は「意見の消失＝リスク」とする本質的視座を軸に、対話と仕組みによる関係性の再設計を緻密に描いている。ネズミの葛藤、ライオンの変化、PMの意図と工夫が段階的に展開され、読む者に“人が動くときの空気”を実感させる。単なる善意ではなく、仕組み・行動・文化が信頼を育てるのだというPMの成熟が感じられる傑作である。