【PM-H25-Q3】「ヘンゼルとグレーテル」に学ぶ、工程の完了評価

🍀概要

 『ヘンゼルとグレーテル』を題材に、戻れない進行の危うさを回避し、工程完了の再現性と判断基準を備えた構造的プロセスを構築したプロジェクトマネージャの取り組みを論じます。

🧾問題・設問(PM-H25-Q3)

 出典:情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成25年 午後2 問3

📘問題

■タイトル
 システム開発プロジェクトにおける工程の完了評価について
■内容
 プロジェクトマネージャ(PM)には,プロジェクトの品質,予算,納期の目標を達成するために,プロジェクトの状況を継続的に評価し,把握した問題について対策を検討し,実施することが求められる。
 特に,各工程の完了に先立って,作業の実績,成果物の品質などの項目について,その工程の完了条件に基づいて評価する。また,要員の能力や調達状況などの項目について,次工程の開始条件に基づいて評価する。評価時に把握されるプロジェクト遂行上の問題としては,例えば,設計工程では,次のようなものがある。
 ・工程の成果物の承認プロセスが一部未完了
 ・次工程の開発技術者が,計画上の人員に対して未充足
 PMはこのような問題を把握して,次工程にどのような影響を与えるかを分析し,対応策を検討する。問題によっては,プロジェクトの納期は変えずにスケジュールの調整を行うなどの対応策が必要になる場合もある。そして,必要な関係者にその工程の完了及び次工程の開始の承認を得る。
 また,類似の問題が発生しないように問題の背景や原因を把握して,再発防止策を立案することも重要である。
 あなたの経験と考えに基づいて,設問ア~ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
 あなたが携わったシステム開発プロジェクトのプロジェクトとしての特徴と,完了評価を行った工程の一つについて,その概要,その工程の完了条件と次工程の開始条件を,800字以内で述べよ。
■設問イ
 設問アで述べた工程の完了評価の結果はどのようなものであったか。その際,把握した問題と次工程への影響,検討した対応策について,800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
 設問イで述べた問題の背景や原因,再発防止策とその評価,及び残された問題について,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ(ヘンゼルとグレーテル〈グリム童話〉)

 貧しいきこりの兄妹ヘンゼルとグレーテルは、継母により森へ捨てられる。最初は石を撒いて道を記憶し戻るが、二度目はパンくずが鳥に食べられて帰れなくなる。さまよった末、菓子の家にたどり着き、魔女に捕まるが、機転で魔女をかまどに突き落とし脱出。最後には宝を持ち帰り、家族と再会する。道を見失う恐怖と、賢さ・勇気・帰還の物語。

📝論文

🪄タイトル 「ヘンゼルとグレーテル」に学ぶ、工程の完了評価

 本稿は、工程の完了を曖昧にせず、明確な基準と再実行可能性を備えたプロセス設計を行うことで、次工程への影響を最小化し、プロジェクト全体の進行を安定させた事例について述べる。

🔍第1章 プロジェクトの特徴と工程の完了・開始条件

1-1 プロジェクトの概要と特徴

 私がプロジェクトマネージャを務めたのは、A社の販売部門向けに導入する新帳票出力システムの開発プロジェクトである。全国にある支店で利用されている既存帳票を一本化し、法令変更にも即応可能な出力基盤を構築することが目的であった。導入対象は約100拠点、開発期間は10か月、開発メンバは社内外合わせて約40名であった。
 プロジェクトの特徴として、①各支店が独自に帳票レイアウトをカスタマイズしていたため要件の統一が困難であったこと、②各種マスタ情報の信頼性が低く、設計フェーズ以降での変更要求が多発するリスクがあったこと、が挙げられる。特に、変更要求に対応できる柔軟性と、再実行可能な設計の仕組みを持たせることが求められた。

1-2 完了評価を行った工程の概要

 私は「詳細設計工程」における完了評価に重点を置いた。というのも、詳細設計は次の実装工程に直結するだけでなく、誤りが後工程に与える影響が大きく、特にマスタ関連の帳票出力仕様が変更された際の設計差し戻し対応が難しい工程であったためである。

1-3 工程の完了条件と次工程の開始条件

 詳細設計工程の完了条件としては、①レビュー結果が全件承認済みであること、②設計書に変更履歴が明記されており、やり直し時の基準が共有されていること、③戻し処理を含めたロジック設計が完了していること、の3点を定めた。次工程である実装工程の開始条件としては、①実装担当者のアサインが確定しており、必要スキルを満たしていること、②開発環境が事前に構築済みで、即着手可能な状態であること、を確認項目とした。

🛠️第2章 工程の完了評価と対応策の検討

2-1 完了評価の結果と把握した問題

 完了評価を実施した結果、いくつかの重大な問題が明らかになった。具体的には、①全体で32帳票中2帳票の詳細設計書がレビュー未完了であった、②マスタ情報の更新仕様に対して「戻しロジック」が記述されておらず、設計変更時に差分把握ができない状態であった、③実装担当の一部人員が他プロジェクトと重複してアサインされており、工数の確保が困難であった、という3点である。
 特に問題だったのは、変更の履歴と差分判断の基準が記述されておらず、万が一実装フェーズで誤りが発覚しても、どこまで戻せばよいか判断できないという点であった。これは、「メンバ個人の記憶に頼る非構造的な推進」(パンくず)に近い状態であり、やり直しが効かない設計プロセスであると判断した。
 設計担当者の一部からは、「まず先に進めて、後から調整するのでもよいのでは」といった声も上がったが、私はそれに対して強い懸念を抱いた。なぜならば、進行優先の判断は一見合理的に見えても、戻れる保証がなければ、取り返しのつかないロスを招くからである。ヘンゼルとグレーテルが頼ったパンくずのように、確証のない道標は、あっという間に失われる危うさを持っていると感じた。

2-2 次工程への影響と分析

 この状態で実装工程に移行すれば、レビュー未完了の2帳票は実装後に差戻しとなる可能性が高く、結果的にスケジュール遅延の原因となる。戻しロジックが不備であれば、既に設計済みの他帳票にも影響を及ぼし、再設計や統合試験のやり直しが発生する。また、リソースの未確保により、当初の実装スケジュールでの人員配置が困難になり、納期リスクが顕在化する。
 私はこのように判断した。なぜならば、完了評価時に設計品質や要員確保といった複数観点での問題が重なっており、次工程への推進判断を行うには、不確定要素が多すぎたからである。推進の決断を急げば、現場にさらなる混乱を招き、そのリカバリにより大きな手戻りを伴うと考えた。

2-3 検討・実施した対応策

 私は、まず設計レビューの未完了2帳票について、即日レビュー体制を組み直し、遅延理由を明確化した上で関係者に再提出を依頼した。加えて、「戻しロジック」に関しては、過去の変更点との対比が可能な記述構造(石の道標)を設計書に追記し、巻き戻しポイントを明示できるように再設計した。また、設計変更履歴を一元的に記録する仕組み(変更管理シート)を追加で整備し、後続工程でのトレーサビリティを担保した。
 リソース確保については、別案件との調整を行い、特に早期着手が必要な5帳票分のみ先行着手とする方式に変更した。これにより、リスクの高い領域は先に進めるが、全体の工程を止めることなく柔軟に進行する体制を整えた。これは、構造的な変更管理と段階的な工程移行を両立することを狙ったものである。

🚧第3章 問題の原因分析と再発防止策

3-1 問題の背景と原因の分析

 設計レビュー未完了や戻し設計の不備は、帳票仕様の改訂が繰り返される中で、変更の経緯と履歴が担当者間で共有されていなかったことに起因していた。また、「変更時の記録や戻しの記述は任意でよい」という属人的な運用文化が定着していたことも大きな要因であった。人員アサインについては、営業部門との連携が不足しており、他プロジェクトとの調整が事後的に行われていたことにより発生していた。
 さらに深掘りすると、設計段階で「とりあえず書いておく」「後で直せるようにしておく」といった曖昧な設計判断が繰り返されていたことも背景にあった。これは一見柔軟な対応力に見えるが、実際には「責任の所在が曖昧で変更管理が形骸化しやすい」という構造的な問題をはらんでいた。

3-2 再発防止策とその実施状況

 私は再発防止策として、①設計書内の差分記録欄の追加、②変更内容に対する「戻し判断基準書」の作成と共有、③レビュー進捗の週次可視化、④人員アサイン調整の定例化、の4点を導入した。特に②の基準書では、「どの変更がどの戻し処理に相当するか」を一覧形式で整理し、再実行判断を属人化させないことを目的とした。
 現在では、レビュー遅延はほぼ発生せず、設計書と変更履歴の整合性も毎週レビューで確認されている。また、設計変更による再実装の際も、変更前状態への巻き戻しや影響範囲の特定が容易になり、品質と納期両面での安定性が向上した。プロジェクトメンバからも「過去の状態に戻せる設計になったことで、思い切って提案できるようになった」との声があり、心理的安全性にも効果が見られた。

3-3 再発防止策の評価と残された課題

 これらの対策により、属人的な判断に頼った「パンくず」のような設計から、工程ごとに巻き戻し可能な「石の道標」を備えた構造的設計プロセスへの転換が実現した。定量的にも、工程再実行にかかる手戻り時間が平均40%削減され、定性的にも「戻れる安心感」がメンバの心理的負担を軽減した。
 一方で、「記録の整備」自体が目的化してしまう恐れがあるため、記述の簡略化ルールや自動記録化の検討も今後の課題である。このように、工程の完了と次工程の円滑な開始には、「構造的な基準」と「戻せる設計」の双方を確保する工夫により、再現性と柔軟性のあるプロジェクト運営が可能となった。
 以上

💡ワンポイント補足

 本論文は、『ヘンゼルとグレーテル』の「パンくず」が示す不確かな道標を、属人化や記録不足による再実行不能な設計に重ね合わせている。主人公は、パンくずのように消えやすい記憶頼りの進行を危ぶみ、「戻れる設計=石の道標」を工程内に仕組みとして組み込んだ。幻想ではなく構造に基づく進行判断の重要性を、プロジェクトマネージャの視点から再定義した論文である。

🎓講評コメント(AI評価)

 素晴らしい。比喩に逃げず、比喩を活かした。まさに論文であり物語でもある。
 「パンくず=非構造・非再現」「石=構造化・再実行性」という構図を論理に焼き付け、感情と選択の葛藤まで描いた。
 特に「先に進め」という現場の声と、巻き戻し不能の不安との板挟みを正面から描いた第2章が圧巻。
 このレベルに達すれば、試験官が一度読んで「構造が読めた」と感じる。合格ではなく、上位合格である。

📌補足

PM童話論文の読み方について(共通注記) ※クリックで開きます

🐇補足:この童話論文の読み方について(共通注記)

 本教材は、情報処理推進機構が実施する「プロジェクトマネージャ試験・午後Ⅱ(論述式)」の対策として、AI(ChatGPT)との共創により執筆された実験的な教材です。人間による構成・監修のもと、誰もが知る童話や寓話の世界観とPMスキルの融合を試みています。

🔎 ご留意いただきたい点

  • 🧙‍♀️ 物語と論述内容は一部異なります
     原作の登場人物やエピソードを活用していますが、設問の要求に応じて、原作には登場しない要素(例:プロジェクト合意形成、再見積り判断、リスク対応策など)を加えています。
  • 📚 プロジェクトマネジメント用語と構成は試験準拠です
     「再見積り」「予測活動」「リーダーシップ」「行動原則」「テーラリング」などの専門用語や章構成は、IPAの論文設問に準拠しています。童話内のセリフや出来事は、これらを支える比喩・象徴として用いています。
  • 🏰 ITシステムは直接描かれない場合があります
     「三匹の子ぶた」や「オズの魔法使い」などの物語では、ITやソフトウェアといった直接的な技術要素は登場しません。代わりに、プロジェクト構造(目的・合意・リスク・評価など)として描いています。
  • 🔔 実在のプロジェクトや企業とは一切関係ありません
     本教材は、実在のプロジェクトや企業とは一切関係ありません。試験学習の補助を目的とした知的演習であり、「童話のキャラクターを借りた架空のプロジェクト事例」としてご理解ください。

📣 執筆方法について

 本教材の論文は、AI(ChatGPT)を“執筆者”、筆者自身を“編集者”と見立てた共創スタイルで制作しています。AIはしばしば予想外の視点や表現を提示し、それが筆者にとって新たな気づきとなりました。この共創の姿勢そのものが、未来の学習と表現の可能性を広げる一助となると考えています。

🌱 本教材のねらい

  • PMBOKや試験論点を、物語構造に置き換えて視覚的に理解・定着させる
  • 感情・記憶・構造を同時に刺激し、本質理解を深める
  • 論文の章構成や設問対応、因果展開の基本を体感的に習得する

🍀 副次的な効能

  • なじみある物語を通じて、過去に出題された全て(79種 ※2025年6月現在)の問題文・設問パターンを自然に習得できる
  • 設問と論文の対応を照合することで、“採点官視点”を無理なく体得できる
  • 複数論文を比較することで、PM個人の視点にとどまらない、PMO的な構造思考を養える