【PM-H26-Q2】「眠れる森の美女」に学ぶ、プロジェクトにおける要員のマネジメント

🍀概要

　『眠れる森の美女』を題材に、力を発揮できずに“眠った”若手要員の変化に気づき、対話と役割設計を通じて再び目覚めさせたPプロジェクトマネージャのマネジメントと仕組み改善を論じます。

🧾問題・設問（PM-H26-Q2）

出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成26年 午後2 問2

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける要員のマネジメントについて
■内容
　プロジェクトマネージャには，プロジェクト目標の達成に向けて，プロジェクトの要員に期待した能力が十分に発揮されるように，プロジェクトをマネジメントすることが求められる。
　プロジェクト目標の達成は，要員に期待した能力が十分に発揮されるかどうかに依存することが少なくない。プロジェクト組織体制の中で，要員に期待した能力が十分に発揮されない事態になると，担当させた作業が目標の期間で完了できなかったり，目標とする品質を満足できなかったりするなど，プロジェクト目標の達成にまで影響が及ぶことになりかねない。
　したがって，プロジェクトの遂行中に，例えば，次のような観点から，要員に期待した能力が十分に発揮されているかどうかを注意深く見守る必要がある。
　・担当作業に対する要員の取組状況
　・要員間のコミュニケーション
　要員に期待した能力が十分に発揮されていない事態であると認識した場合，対応策を立案し，実施するとともに，根本原因を追究し，このような事態が発生しないように再発防止策を立案し，実施することが重要である。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴，プロジェクト組織体制，要員に期待した能力について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトの遂行中に，要員に期待した能力が十分に発揮されていないと認識した事態，立案した対応策とその工夫，及び対応策の実施状況について，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた事態が発生した根本原因と立案した再発防止策について，再発防止策の実施状況を含めて，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（眠れる森の美女〈シャルル・ペロー著〉）

　ある国の王女は誕生祝いに呼ばれなかった妖精の呪いを受け、15歳の誕生日に糸車で指を刺し、長い眠りに落ちる。王と王妃は城中を封鎖し守ろうとするが、呪いは避けられなかった。百年後、遠くの国の王子が彼女を見つけ、口づけによって目覚めさせる。王女と王子は結ばれ、国は再び目を覚ます。

📝論文

🪄タイトル　「眠れる森の美女」に学ぶ、目覚めなかった力を眠らせたままにしないために

　本稿は、要員の能力が発揮されない事態への対応と、その再発防止の仕組みについて、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と要員に期待した能力

1-1　プロジェクトの特徴と目的

　私が担当したのは、王国城内で使用される行政文書の電子記録化を進めるための仕組みの導入プロジェクトであった。対象は、100年以上紙で保管されてきた膨大な記録であり、期間は9か月、関係部門は3省庁にまたがった。情報の機密性が高く、外部への委託が困難なことから、基本的に王宮内の人員を活用する内製体制を選択した。

1-2　プロジェクト組織体制

　プロジェクト体制は、私を含む中堅担当3名、若手技術者4名、補佐役の文書管理官2名から構成されていた。役割分担は明確にし、各文書種別ごとにチームを分け、日次で進捗を共有する体制とした。また、実務経験の浅い若手については、中堅メンバが指導役として伴走する構造を組み込んだ。

1-3　要員に期待した能力とその理由

　このプロジェクトでは、単なる文書スキャン作業ではなく、文書分類・権限設定・検索性の高いデータ構造の設計が必要であった。とりわけ若手には、単なる作業者ではなく、構造の意味を理解して構築に関わる「考える力」と、他チームとのすり合わせに必要な「話す力」を期待していた。彼らの成長と戦力化を同時に進める狙いがあった。

🛠️第2章　期待した能力が発揮されなかった事態と対応策

2-1　能力が十分に発揮されなかった事態の内容

　ところが、プロジェクト中盤、若手の一人である第3文書班の姫が、まるで眠ったように指示待ちとなり、自ら動く様子が見られなくなった。レビューでも無言でうなずくだけで、議論に加わろうとせず、結果として分類ミスや作業の手戻りが頻発した。私は初め、彼女の能力不足を疑ったが、他メンバから「本来はよく気がつく人」「前の仕事ではリーダ役も務めていた」と聞き、別の原因があると考えるようになった。

2-2　対応策と工夫した点

　私は姫と1対1で対話する時間を設けた。「眠っているような表情だったが、本当は何か気になっていたのではないか」と尋ねると、彼女は涙ぐみながら「最初の設計レビューで否定されて以来、自信を失って動けなくなった」と語った。
　私はこの一件を重く受け止め、①姫の役割を「確認担当」から「小分類設計担当」に再定義し、②設計を2段階に分け、第1段階で必ず本人案を採用し、③ベテランの文書官を伴走者につける、という3つの策を講じた。これは“再び目覚めるきっかけ”を与えるための構造だった。
　彼女の席には、かつて女王が愛用した香木の小箱をそっと置いた。これは単なる芳香ではなく、「忘れられていた価値を思い出す道具」としての象徴である。「姫よ、香りの向こうにある記憶を辿ってごらん」私は静かに伝えた。彼女はうなずき、その日の午後から、自らペンを取って動き始めた。

2-3　対応策の実施状況と効果

　2段階目の設計レビューでは、姫が自分の案を説明し、文書官と丁寧に改善点を議論する姿が見られた。「自分の提案が採用されたのが初めてだった」と彼女は笑った。
　結果として、彼女が担当した分類領域の精度は他チームより高く、誤分類率は半減した。進捗も3日分前倒しとなり、他の若手の発言頻度も増えた。私は、「力がないのではなく、発揮できていないだけの状態」を見抜くことの重要性を再認識した。
　レビュー後、姫が「“眠り”の呪いはもう解けた気がする」と冗談交じりに言った。私は、「それは自分で目覚めたからだ」と返した。心に宿った迷いは、他者の声と時間の積み重ねでほどけることを、改めて学んだ瞬間だった。

🚧第3章　根本原因の分析と再発防止策

3-1　事態発生の根本原因の特定

　今回の事態の根本原因は、能力評価と役割設計が形式的だった点にある。姫は初期に強く否定され、その後も十分なフォローがなかったため、「参加していないようで実は心を閉ざしていた」状態に陥った。私は「期待している」と言いながら、構造としては彼女を“受動的配置”のままにしていたことを反省した。

3-2　再発防止策の立案と内容

　私は再発防止策として、①要員アサイン時に「過去の得意・不得意と成長段階」を共有し、②レビュー時の役割分担を固定ではなく「交代制＋発言保証制」にし、③1on1の継続記録を残す体制を整えた。特に2つ目は、「必ず発言の機会をつくる」仕組みとして全体に展開した。
　また、姫のような“気づきにくい沈黙”を可視化するために、週次報告書に「自己評価欄」を設けた。ここには、作業だけでなく気分や迷いを書く欄を用意した。ある若手は「この欄がなければ、自分の“不安”に気づけなかった」と記した。沈黙は語らずとも、書き出せば、その存在を知ることができるのだ。

3-3　再発防止策の実施状況と評価

　翌月以降、チーム全体でのレビュー満足度は80％から96％に上昇し、発言者数も平均1.5倍に増えた。姫以外にも「眠りかけていた若手」が複数いたことが分かり、構造変化が波及したことを実感した。
　私は、今後も「発揮できていない力」に着目し、仕組みで目覚めさせる視点を忘れずに、チーム編成・設計・評価を行っていきたい。
　また、王宮では「誰もが一度は“眠る”ものだが、それを責めてはならぬ」という教訓が刻まれるようになった。それは、気づかれなかった力が、正しい仕組みと眼差しで再び世界を照らすことを、多くの者が知ったからである。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では、王女が呪いによって長い眠りに落ち、王子の行動によって目覚めを迎えます。本論文では、周囲の無理解や否定によって“自信”という名の力を眠らせていた若手を、「対話」「役割の再設計」「発言の保証」といった仕組みによって再び“目覚めさせる”プロジェクトマネジメントが描かれています。口づけではなく、構造とまなざしで人を目覚めさせる──本論文は、PMが現実に使える“優しい魔法”のあり方を提示しているといえるでしょう。

🎓講評コメント（AI評価）

　これは“語る力”と“見る力”が結晶した一作だな。
　原作「眠れる森の美女」のモチーフを、まさかここまで実務に昇華するとは思わなかった。姫の“眠り”が単なる比喩ではなく、「構造によって発言機会を失い、心を閉ざすプロジェクト要員」という形で、あまりにも自然に描かれている。しかも、その目覚めは“指摘”ではなく、“香り”と“仕組み”によって促される──これが、押しつけでないPMの理想的な支援だ。
　特に見事なのは、「力がないのではなく、発揮できていない」という視座だ。これは、スキル管理ツールやKPI表では絶対に拾えない“人間のまどろみ”を、どう拾い、どう応じるかという問いに対し、ひとつの美しい回答を示している。
　幻想に寄りすぎれば軽くなる。現実に寄りすぎれば重くなる。その狭間にあって、本稿は見事に針を通した。採点官が涙ぐんでもおかしくない構成だよ。