【PM-H26-Q1】「アラジンと魔法のランプ」に学ぶ、工数の見積りとコントロール

🍀概要

　『アラジンと魔法のランプ』を題材に、過去の成功体験に依存せず、未知技術への実測・対話を重ねて見積り精度を高め、工数を柔軟にコントロールしたプロジェクトマネージャの姿を論じます。

🧾問題・設問（PM-H26-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成26年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおける工数の見積りとコントロールについて
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)には，プロジェクトに必要な資源をできるだけ正確に見積もり，適切にコントロールすることによって，プロジェクトの目標を達成することが求められる。中でも工数の見積りを誤ったり，見積りどおりに工数をコントロールできなかったりすると，プロジェクトのコストや進捗に大きな問題が発生することがある。
　工数の見積りは，見積りを行う時点までに入手した情報とその精度などの特徴を踏まえて，開発規模と生産性からトップダウンで行ったり，WBSの各アクティビティをベースにボトムアップで行ったり，それらを組み合わせて行ったりする。PMは，所属する組織で使われている機能別やアクティビティ別の生産性の基準値，類似プロジェクトの経験値，調査機関が公表している調査結果などを用い，使用する開発技術，品質目標，スケジュール，組織要員体制などのプロジェクトの特徴を考慮して工数を見積もる。未経験の開発技術を使うなど，経験値の入手が困難な場合は，システムの一部分を先行開発して関係する計数を実測するなど，見積りをできるだけ正確に行うための工夫を行う。
　見積りどおりに工数をコントロールするためには，プロジェクト運営面で様々な施策が必要となる。PMは，システム開発標準の整備と周知徹底，要員への適正な作業割当てなどによって，当初の見積りどおりの生産性を維持することに努めなければならない。また，プロジェクトの進捗に応じた工数の実績と見積りの差異や，開発規模や生産性に関わる見積りの前提条件の変更内容などを常に把握し，プロジェクトのコストや進捗に影響を与える問題を早期に発見して，必要な対策を行うことが重要である。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴と，見積りのために入手した情報について，あなたがどの時点で工数を見積もったかを含めて，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた見積り時点において，プロジェクトの特徴，入手した情報の精度などの特徴を踏まえてどのように工数を見積もったか。見積りをできるだけ正確に行うために工夫したことを含めて，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問アで述べたプロジェクトにおいて，見積りどおりに工数をコントロールするためのプロジェクト運営面での施策，その実施状況及び評価について，あなたが重要と考えた施策を中心に，発見した問題とその対策を含めて，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（アラジンと魔法のランプ〈アラビアンナイト〉）

　貧しい青年アラジンは、謎の魔法使いに連れられ洞窟で不思議なランプを見つける。偶然こすったことで精霊ジーニーが現れ、アラジンは願いを叶えてもらい王女と結婚し裕福になる。だがランプを奪われ一度はすべてを失うが、機転と勇気でランプを奪還し、最終的には幸せを手にする成長譚。

📝論文

🪄タイトル　「アラジンと魔法のランプ」に学ぶ、魔法のランプと予測不能な計画

　本稿は、魔法の道具の力に頼らざるを得なかった状況下での仕組みの見積りとその制御について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と工数見積り時点の情報

1-1　プロジェクトの特徴

　私が担当したのは、アグラバの市場改革のための「空飛ぶ屋台群」の導入計画であった。背景には、王国の市民が砂嵐を避けつつ、安全に物資を取引できる環境の整備があった。この仕組みは、魔法のじゅうたんに類似する飛行道具を多数製造し、屋台と接合することで成立するものであった。
　使用する魔力制御装置は、かつてランプの精霊・ジーニーによって一度だけ試作されたものであり、実績や製造法も不明瞭だった。開発メンバーは町の鍛冶屋と魔法使い、元盗賊の空中操作員から成る異色の構成で、調整と安全性確保が最優先事項だった。

1-2　見積りのために入手した情報

　情報収集は極めて困難だった。過去の実績はなく、唯一の参考は、ランプを用いた一度きりの空中移動の記録だった。魔法使いからの口述証言や、ランプ使用時の空力特性、魔力消費量の推定値をもとに、類似事例との比較は困難だった。
　また、鍛冶屋から提供された素材強度の記録や、市場での重量物輸送の平均時間など、周辺情報を補完的に使用した。

1-3　工数を見積もった時点とその背景

　工数見積りは、市場改革案が王に承認された直後、すなわち設計方針が定まる前段階で求められた。王からは「一か月後の大市までに空飛ぶ屋台を十台完成せよ」と命じられ、早急な見積りと実行計画が必要だった。
　私は、過去に飛行物を取り扱った鍛冶屋の工数記録と、魔法使いが保持する結界設計の時間配分を照合し、初期の見積りを立てた。しかし不安要素が多く、想定リスクの範囲は広かった。

🛠️第2章　見積り方法と精度向上のための工夫

2-1　プロジェクトの特徴・情報精度に応じた見積り手法

　今回の見積りには、トップダウンと実測法を組み合わせた手法を採用した。魔法装置という未知技術に関しては、前例がなかったため、魔法使いとともに一部の構成を再現し、仮試作を通じて作業時間と素材消費量を実測した。
　一方、屋台の構造に関しては既存の商業屋台を参考にし、ボトムアップ的に部位ごとの工数を積算した。特に、飛行安定板の調整や浮遊装置の設置などは、操縦士との意見交換も重ねた。
　加えて、飛行中の安定性が工数に与える影響を見積もるため、浮遊時間帯における風向・風速の変動を地元の気象記録から抽出し、仮想シナリオでの稼働試算も行った。これは運用中のメンテナンス頻度を想定するうえで有効であり、見積り精度向上に寄与した。

2-2　正確な見積りのための工夫

　私は、実測値を得るために、「ジーニー試作回想実験」と呼ばれる催眠回帰を魔法使いに依頼し、過去の使用感覚を数値化しようと試みた。また、鍛冶屋には1号機を試作させ、1台あたりの製作日数と素材量を測定した。これにより、予備工数を含めた実行計画の精度が格段に上がった。
　さらに、私は市場の仕入れ動線を実地調査し、稼働時の効率を事前に推定した。これは、製作後の調整工数の見積りにも有効であった。
　見積り算出後、私は魔法使いや操縦士と協議を重ね、最悪ケースに備えた工数バッファ設定の合意形成を図った。操縦士の「空を飛ぶ怖さは、数字じゃ測れねぇよ」という一言に、私は見積りの限界と責任を痛感し、心理的負荷も含めた作業調整時間を上積みする判断を下した。
　ただし、当初はジーニーによる試作記録を「絶対の前提」として扱おうとしていた。私はそれが、過去の成功体験に過度に依存する危うさだと後から気づいた。魔法使いとの対話の中で、「一度うまくいったからといって、再現性があるとは限らない」という助言を受け、私は前提条件を見直した。そこで、ジーニーの記憶を“参考情報”と位置づけ直し、実測と現場の声を主軸とした実行計画へと転換した。この転換は、未知に挑むプロジェクトにおいて、過去ではなく“いま現場にある知”を重視すべきという教訓を与えてくれた。

2-3　見積りの妥当性確認と関係者との調整

　「空飛ぶ屋台は本当に飛べるのか？」という声は多く、私は関係者との対話の中で、段階的な説明を心がけた。鍛冶屋には「屋台としての完成形」を先に示し、魔法使いには「制御範囲と限界」を数式化してもらい、操作員には「試運転評価」を依頼した。
　また、王の側近には、「10台完成できない可能性」を含む2案のスケジュールを提示し、予備日程の確保と、予備資材の支給を了承してもらった。これは、私にとって最も緊張を強いられた場面だった。
　私は関係者からの不安を受け止めたうえで、「確実に空を飛ぶ」という一点に焦点を絞り、共通目標の再確認を行った。この調整プロセスが、関係者の納得とチームの一体感を生んだことは、のちの進行にも大きな力となった。

🚧第3章　工数コントロール施策と評価

3-1　工数コントロールのための運営施策

　実施にあたっては、屋台ごとに担当鍛冶屋と魔法使いを割り当て、進捗管理を週次で行った。特に、魔力調整部品の不具合が多発したため、1号機での教訓を元に、標準化文書を整備し、全員に周知した。
　進捗報告では、「飛行試験実施済／未実施」「制御安定／不安定」の4象限マトリクスを用い、視覚的にリスクを抽出しやすくした。これは操縦士からも好評で、現場との信頼構築にも寄与した。
　さらに、私は夜間の工程遅れを把握するため、照明の魔力消費量を集計し、作業量の過不足を定量的に分析する仕組みを導入した。これにより「見えない残業」が明るみに出て、適切な休息時間の設定が可能となった。

3-2　施策の実施状況と発見された問題

　結果的に、初期3台の完成までは順調であったが、4台目以降は部品供給遅延や砂嵐の影響により、作業が滞った。特に、浮遊結界の安定性が低く、魔法使いが徹夜で補強する場面もあった。
　私の見積りでは、一部の試験項目が過少評価されていたことが原因で、これにより予備工数の残量が急減した。私は、進行中に再見積りを行い、5～10号機を簡易版に切り替える決断を下した。
　また、情報共有の遅れにより、部品の重複発注が発生した。この反省から、翌週以降は部品調達担当を設け、毎日の資材状況を共有する体制に改めた。これは作業の無駄を減らし、全体最適の意識を現場に浸透させる効果があった。

3-3　対策と施策の評価・今後の改善点

　私は王に対し、「簡易型屋台の展開は、大市後も恒常的な運用につながる」と説明し、変更の許可を得た。結果、10台すべてを納期内に納入することに成功し、大市では浮遊屋台による商売が話題を呼んだ。市民からは「荷物が砂に埋もれない」と高評価を得た。
　定量的には、初期試作と比較して簡易版の生産工数は約40％削減され、標準化により再作業率も半減した。
　今後は、「魔法利用プロジェクトにおける見積り指標の標準化」と「現場と対話する試作モデルの導入」を継続することで、予測不能な計画にも柔軟に対応できる体制を目指す。
　また、今回の経験を活かし、魔力のばらつきを吸収する共通制御基盤の設計にも着手した。これにより、次回以降のプロジェクトでは個別調整の手間が減り、計画精度の更なる向上が期待される。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作「アラジンと魔法のランプ」では、青年アラジンが偶然手に入れた魔法のランプに頼って成功を収めますが、やがてその力に翻弄され、奪われたランプを知恵と努力で取り戻す展開が描かれます。本論文では、この“万能に見える魔法道具への依存”を、PMにとっての「過去の成功体験」や「再現性の低い見積り」に見立てています。特に第2章では、ジーニーの試作記録という“過去の成果”をいったん信じながらも、現場の知見を主軸に方針転換する姿勢を通じて、幻想への依存から、現実を直視するPMの成熟を表現しています。魔法と現実のはざまで、PMとしての判断と責任がどう進化していくかを描いた点で、原作の主題を実務論理に昇華させた構成となっています。

🎓講評コメント（AI評価）

　「お前、本当に童話でここまでやるか？」と、苦笑まじりに唸ったよ。
　単に“魔法”という言葉に頼らず、それを不確実性の象徴として正面から扱ったところに、この論文の胆力がある。とくに第2章2-2の「ジーニーの記憶を再検討したくだり」、これはまさにPMとしての脱幻想＝現実直視の瞬間だ。過去の成功体験にすがろうとした自分を認め、あえてそれを見直す。ここに、プロジェクトの本質と人間の成長の両面が描かれている。
　ステークホルダとのやり取りも良い。操縦士の一言をきっかけに判断を修正し、最終的には納期と品質の両立を達成する——この“柔らかい頭”と“ぶれない軸”の共存が、まさに理想のPM像そのものだ。
　加えて、魔力照明で“見えない残業”を可視化したり、魔法使いと共通制御基盤に踏み込んだりと、現場の工夫と戦略思考がバランス良く入っている。読後に残るのは、派手な技術ではなく、静かな責任感と対話の痕跡だ。
　欲を言えば、1章の段階で“ジーニー信仰”がどれだけチームに影響していたか、もう少し布石があると良かった。だがそれを差し引いても、構成・描写・成果・説得力——すべてにおいて、極めて完成度の高い論文である。