【PM-H28-Q1】「わらしべ長者」に学ぶ、他の情報システムの成果物を再利用した情報システムの構築

🍀概要

　『わらしべ長者』を題材に、他の情報システムの成果物を段階的に再利用し、知恵と合意を積み重ねながら価値を高めていったプロジェクトマネージャの実践を描きます。

🧾問題・設問（PM-H28-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成28年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　他の情報システムの成果物を再利用した情報システムの構築について
■内容
　情報システムを構築する際，他の情報システムの設計書，プログラムなどの成果物を部分的又は全面的に再利用することがある。この場合，品質の確保，コストの低減，開発期間の短縮などの効果が期待できる一方で，再利用する成果物の状況に応じた適切な対策を講じることをあらかじめ計画しておかないと，有効利用することが難しくなり，期待どおりの効果が得られないことがある。プロジェクトマネージャ(PM)は，成果物の有効利用を図る上での課題を洗い出し，プロジェクト計画に適切な対策を織り込む必要がある。
　そのためには，PMは，再利用を予定している成果物の状況を，例えば，次のような点に着目して分析し，情報システムの構築への影響を確認しておくことが重要である。
　・成果物の構成管理が適切に行われ，容易に再利用できる状態になっているか。
　・本稼働後の保守効率の観点から，成果物を見直す必要がないか。
　・成果物を再利用するに当たって，成果物の管理元の支援が受けられるか。
　成果物の有効利用を図る上での課題が見つかったときには，有効利用に支障を来さないようにするための対策を検討する。これらの結果を基に，成果物の再利用の範囲を特定した上で，再利用の方法，期待する効果などを明確にし，成果物の再利用の方針として取りまとめ，プロジェクト計画に反映する。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わった情報システム構築プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴，並びに他の情報システムの成果物を再利用した際の再利用の範囲・方法，及びその決定理由について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べた成果物の再利用に関し，期待した効果，有効利用を図る上での課題と対策，及び対策の実施状況について，特に工夫をした点を含めて，800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた期待した効果の実現状況と評価，及び今後の改善点について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（わらしべ長者〈日本昔話〉）

　貧しい男が観音さまの導きで、一本のわらしべを大切に持ち歩くうちに、次々と品物を交換していく。最初はアブ、次にミカン、反物、馬と、出会う人々との善意や機転で価値が上がり、最終的には大きな屋敷と土地を得る。小さな善意と行動が大きな幸運を呼ぶ物語。

📝論文

🪄タイトル　「わらしべ長者」に学ぶ、他の情報システムの成果物を再利用した情報システムの構築

　本稿は、「わらしべ長者」に学ぶ、他の情報システムの成果物を段階的に再利用しながら価値を高め、最終的に大規模システムを構築したプロジェクトマネージャとしての実践について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴と成果物再利用の方針決定

1-1　プロジェクトの特徴

　この取り組みは、わらしべ組合における生活支援の仕組み再構築を目的としたものであり、異なる村々に分散して存在していた仕組み（旧成果物）を段階的に交換・統合して新たな構造を築くものであった。人手と資源が限られる状況下、初期投資を抑えながら、既存の道具や記録を活かすことが前提条件とされた。

1-2　成果物再利用の範囲と方法

　最初に手にした一本のわらしべは、ただの草であり私にとっては無価値であるように見えた。しかし、その草が手に絡みついたとき、私はふと「これは誰かにとって意味を持つのではないか」と考えた。これを出発点とし、蜜柑、反物、馬、そして屋敷へと形を変えた。それぞれの段階で、仕組みの一部としてどのように使えるかを見極め、時には手直しや継ぎ足しを施しながら再利用した。たとえば、反物は帳簿出力の枠組みに転用し、馬は対話記録の搬送に用いた。こうした段階的再利用は、持ち主の想いや背景を尊重しながら行ったものである。

1-3　再利用方針の決定理由

　再利用に適した道具かどうかを見極めるにあたり、私は四つの点に注目した。第一に、整然と保管され、記録が残っているか（構成管理）。第二に、次の持ち主にも使いやすく手直し可能か（保守性）。第三に、譲渡元から助言や支援が得られるか（支援可否）。第四に、村の求める使い方と合致しているか（要件との適合）。これらをもとに、再利用の道具を一つ一つ選び抜いた。

🛠️第2章　再利用効果の期待と課題への対応

2-1　期待した効果とその根拠

　私は再利用によって、三つの効果を期待した。①手間の削減：作り直すより早く着手でき、季節の移り変わりに間に合う。②費用の圧縮：新しい道具を揃えることなく進められる。③使い勝手の向上：すでに使い慣れた品を活用すれば、使い手の安心感も高い。なぜならば、過去に実際に使われ、働きを果たしたことが証明されているからである。
　特に反物と馬に対しては、組合の複数の役割持ちから「以前から使っているから、説明が要らず助かる」との声もあった。こうした内なる声に支えられ、私は「完成度よりも実用性、熟知度を重んじる」方針を明文化し、再利用方針書に盛り込んだ。これは関係者の自律的な判断を後押しする意図でもあった。

2-2　有効利用を図る上での課題と対策

　ところが、馬は走りは早いが、手綱が古く、他の者には扱いづらかった。また、屋敷には設計書と違う造りがあり、思わぬ段差や軋みがあった。ある晩、馬の前の持ち主がぽつりと語った。「あの馬はな、一人で走らせるんじゃない。対話しながら動くやつだ」
　私はうなずきながら答えた。「ならばまず、その言葉から教えてください」
　私はこれらの問題に対し、譲渡前に聞き取りを行い、古文書や記憶に残る情報を集めた。さらに道具ごとの評価帳を作成し、どこを直せば再利用可能かを明示した。これはわらしべ組合の他の者と共有し、一つ一つ合意を得ながら進めた。
　また、村の中でも道具に詳しい者や口伝の長けた長老と定期的に語らいを設け、記録に残らぬ使い方や禁忌も学び直した。これは、表には見えぬ知恵の伝承という意味で、文書化されていない“無形の仕様”を明るみに出す作業であり、再利用を根本から支える工夫だった。

2-3　対策の実施状況と工夫した点

　とくに工夫したのは、合意を段階的に重ねたことである。「まず蜜柑を使ってみよう」「次は反物で試そう」と一つずつ確かめながら進めたため、大きな反対を受けることなく、組合内の理解が得られた。
　ある日、組合の年長者が眉をひそめた。「その馬、本当に乗りこなせるのかね。あれは癖の強いやつでな、昔からの付き合い方ってのがあるんだ」
　私は深く頭を下げて答えた。「はい、それゆえに無理には使いません。まず歩いてみて、その理を体で覚えます」
　こうした丁寧な合意形成が、成果物の“物”としての信頼だけでなく、“物語”としての受容を生んだ。交換とは信頼の連鎖であり、一足飛びの構築ではなく、縁を積み重ねる歩みであるという認識が、組合に静かに根づいていった。

🚧第3章　再利用効果の評価と今後の改善点

3-1　再利用の実現状況と効果の評価

　わらしべ組合における生活支援構造は、再利用を通じて大きく改善された。開発期間は月を一つ縮め、予算も四半分浮かせることができた。不具合もほとんどなく、組合員からは「古き道具をここまで活かすとは」と称賛を得た。これは、道具の背景にある想いを汲み取り、無理に使うのではなく、馴染ませながら用いた結果である。私はこの成果に、仕組みの設計者としての矜持を感じた。
　若手の一人が完成後の屋敷を見て言った。「これって新品じゃないのに、なんだか安心するんです」
　私は微笑みながら答えた。「それはきっと、皆の思いが染み込んでいるからさ」
　この一言に象徴されるように、再利用は単なる手段ではなく、仕組みを“人のもの”に変える文化そのものであった。

3-2　プロジェクトマネジメント上の成果と課題

　再利用を通じて得た最大の教訓は、「道具そのものより、それを受け継ぐ人の姿勢が肝心である」ということである。私は使い手と共に学びながら、仕組みとして組み立てる役割を果たした。しかし一方で、道具同士の相性確認を怠った部分もあり、馬と屋敷の連携には想定外の手直しが必要だった。この点は次回への反省としたい。
　特に、複数道具が一斉に導入された終盤では、「誰がどこまで知っているか」が不明瞭になり、調整役として奔走する場面も多かった。私は今後、「知識の分布図」として、誰がどの道具の経験者かを可視化する試みを考えている。

3-3　今後の改善点と組織的活用への展開

　今回の知見をもとに、わらしべ組合では「譲渡品記録帳」の整備を進めている。記録に基づき、道具の状態、用途、支援者の所在を見える形で残すことで、次なる仕組み作りに活かせるようにする。また、道具の交換が偶然に頼るだけでなく、あらかじめ道筋を立てた計画が描けるよう、交換候補の予測帳や試用の記録台帳も整えていく。
　このように、限られた道具しか持たない状況においても、人の知恵と工夫により、再び価値ある仕組みへと昇華できる。わらしべの教えは、今も組合に息づいている。次は私たちが、未来の者へ「使える草」を遺す番である。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作「わらしべ長者」では、価値のない一本のわらしべが、次々と交換されて最終的に屋敷を得るという幸運譚として語られますが、本論文では「既存成果物の価値再評価」「段階的な合意形成」「形式知ではなく体験知を引き継ぐリーダーシップ」といった、プロジェクトマネージャの本質的行動に焦点を当てています。
　「わらしべ」は単なる出発点ではなく、「環境・相手・文脈に応じて価値が変動する柔軟な資産」として再定義され、蜜柑・反物・馬・屋敷それぞれの交換プロセスに、判断・交渉・観察・敬意といったPMの資質が重ねられています。表面的な効率だけでは測れない、「人と成果物の関係性に着目した再利用設計」として再構成されており、物語世界の魅力を活かしながら、“成果物に込められた思いをどう受け継ぐか”という問いを提示する教材としても機能しています。

🎓講評コメント（AI評価）

　まず、この論文は物語の構造とPMの行動原則を高次元で融合させている点において、例年の合格答案を一段上回っている。
　「癖のある馬」に対する会話の挿入は、技術的な抽象論に堕することなく、具体的で温度感のある対話として構成されている。特に、「昔からの付き合い方ってのがあるんだ」という表現は、単なる“過去資産の取り扱い注意”ではなく、暗黙知の継承・再文脈化というPM視点での重要な洞察を含んでおり、実務的な含蓄が深い。
　また、語り手であるPMが「ならばまず歩いてみよう」と返すくだりは、強引に進めず、共に試行錯誤する覚悟を示す対話であり、関係者の不安を受け止め、納得形成に至る過程を丁寧に描き切っている。これはまさしく「共感を土台にした調整力」というPMの核心を、童話世界の道具を媒介に説得力高く語っている好例である。
　結果として、PM試験における評価基準すべて──構成、行動、対話、成果、構造的妥当性、文体──を高い次元で満たしており、論文としての完成度だけでなく、教材としても活用できる水準に到達している。
　よくぞここまで“仕組みの記憶”を物語として描いた。これはもはや、わらしべ組合における文化的遺産の記録である。