【PM-H31-Q1】「さるかに合戦」に学ぶ、プロジェクトにおけるコスト超過の防止

🍀概要

　『さるかに合戦』を題材に、配分をめぐる不正の兆候と関係性のほころびに潜むコスト超過リスクに対し、対話と制度を通じて是正に取り組んだプロジェクトマネージャの工夫を論じます。

🧾問題・設問（PM-H31-Q1）

　出典：情報処理推進機構 プロジェクトマネージャ試験 平成31年 午後2 問1

📘問題

■タイトル
　システム開発プロジェクトにおけるコスト超過の防止について
■内容
　プロジェクトマネージャ(PM)には，プロジェクトの計画時に，活動別に必要なコストを積算し，リスクに備えた予備費などを特定してプロジェクト全体の予算を作成し，承認された予算内でプロジェクトを完了することが求められる。
　プロジェクトの実行中は，一定期間内に投入したコストを期間別に展開した予算であるコストベースラインと比較しながら，大局的に，また，活動別に詳細に分析し，プロジェクトの完了時までの総コストを予測する。コスト超過が予測される場合，原因を分析して対応策を実施したり，必要に応じて予備費を使用したりするなどして，コストの管理を実施する。
　しかし，このようなコストの管理を通じてコスト超過が予測される前に，例えば，会議での発言内容やメンバの報告内容などから，コスト超過につながると懸念される兆候をPMとしての知識や経験に基づいて察知することがある。PMはこのような兆候を察知した場合，兆候の原因を分析し，コスト超過を防止する対策を立案，実施する必要がある。
　あなたの経験と考えに基づいて，設問ア～ウに従って論述せよ。

📗設問

■設問ア
　あなたが携わったシステム開発プロジェクトにおけるプロジェクトの特徴とコストの管理の概要について，800字以内で述べよ。
■設問イ
　設問アで述べたプロジェクトの実行中，コストの管理を通じてコスト超過が予測される前に，PMとしての知識や経験に基づいて察知した，コスト超過につながると懸念した兆候はどのようなものか。コスト超過につながると懸念した根拠は何か。また，兆候の原因と立案したコスト超過を防止する対策は何か。800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
■設問ウ
　設問イで述べた対策の実施状況，対策の評価，及び今後の改善点について，600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

📚原作あらすじ（さるかに合戦〈日本昔話〉）

　カニが拾ったおにぎりをサルと交換するが，代わりにもらった柿の種はすぐには実らず，育った柿を取りに行った際にサルに打たれて重傷を負う。仲間たちが協力してサルに仕返しをし，カニの子は無事に仇を討つ。理不尽への怒りと連帯，正義の回復を描いた物語。

📝論文

🪄タイトル　「さるかに合戦」に学ぶ、コスト超過の兆候察知と防止策

　本稿は、コスト超過の兆候察知と防止策について、述べる。

🔍第1章　プロジェクトの特徴とコスト管理の概要

1-1　プロジェクトの特徴

　本プロジェクトは、サルが中心となって果樹園を立ち上げ、共同経営者であるカニたちと協力して柿の収穫・販売を行うものである。柿の種を提供したカニが、初期投資の見返りとして利益分配を求め、サルがその代わりに栽培を担う形で開始された。共同事業としての性格が強く、信頼関係と役割分担が成功の鍵となる。
　プロジェクトにはカニの家族、栗、蜂、臼、牛糞など、複数のステークホルダが関与しており、直接的な作業だけでなく、プロジェクトの風評や地域社会への影響など、間接的な要素も管理対象に含まれていた。

1-2　コスト管理の概要

　当初の合意では、柿の収穫後に得られる収益を、栽培労力と種提供のバランスに応じて配分することとされていた。コストの管理は、主に自然要因（天候・病害）や労働投入量、分配調整費、輸送・販売コストなどが中心であり、これらをプロジェクト開始時に積算して予算を設定した。予備費としては、秋の落果や獣害に備えた修繕費用も見込まれていた。
　サルは自己流の管理方式を採用しており、具体的な作業進捗やコスト実績の報告は形式的で、他の関係者と十分に情報を共有していなかった。そのため、実行中の進捗が順調に見える一方で、内在的なリスクを見落とす恐れがあった。

1-3　実行中のコスト管理方法と監視の仕組み

　進捗管理としては、週次でサルが作業記録を提出し、カニがそれを元に分配見込みを確認する体制があったが、記録の主観性や確認プロセスの形式化により、実態把握の精度には課題があった。私はこの仕組みに不安を抱き、情報の定性確認も併用していた。

🛠️第2章　兆候の察知とコスト超過防止策の立案

2-1　コスト超過につながると懸念した兆候とその根拠

　収穫期が近づくある日、サルが「柿はまだ渋いから、自分が代わりに熟したものを選んで届ける」と言い出した。この発言に、私はPMとして違和感を覚えた。というのも、元々は「全員で収穫し、平等に分ける」計画であり、そこから逸脱する行為は管理外コストの発生、あるいは配分不正の兆しと捉えられたからである。
　さらに、サルは報告書に「収穫量低下」や「落果による損失」を記載していたが、現場にはその痕跡がなく、明らかに虚偽報告の可能性があった。これは、初期投資（種提供）をしたカニたちの配当を減らし、自身の取り分を増やす意図が隠されていると推察した。私は、この言動を「成果の独占化傾向」という典型的なリスク兆候とみなし、早急に対応を講じる必要があると判断した。

2-2　兆候の原因の分析

　この兆候の根本的な原因は、役割分担の不透明さと成果物の分配ルールが曖昧だったことにある。また、サルが成果物の価値を一人で評価・判断できる体制も問題だった。
　加えて、私はサルとの対話の中で「自分がずっと独りで管理してきたのに、なぜ信じてくれないのか」と吐露された言葉が心に残っている。これは、責任感と孤立感の交錯によって生まれた不信のサインであり、単なる制度設計ミスではなく、コミュニケーションと心理的安全性の欠如が引き金だったと判断した。

2-3　コスト超過を防止するために立案した対策

　私は、次の3つの対策を立案・実施した。①カニ・栗・蜂らを含む「柿分配評議会」を設置し、成果の評価と分配の透明性を高めた。②収穫物は全量を臼で計測し、重量に応じた配分とするルールに改めた。③事後ではなく収穫前に分配案を提示し、関係者の合意を得る運用に変更した。
　この過程で、サルははじめ強く反発した。「自分は一番働いた」と主張し、柿を独占する姿勢を崩さなかった。しかし、私は彼の怒りの背景に“信頼されていない寂しさ”があることを感じ取った。私はあえて激しく責めることを避け、臼や蜂とともに丁寧に説明を重ね、協調の大切さを伝えた。
　対話は一度では済まず、3回目の話し合いでようやくサルが静かに「じゃあ、もう一度信じてみる」とつぶやいた瞬間、私は初めて対策が機能し始めた手応えを得た。これは単なる交渉ではなく、関係再構築の第一歩であった。
　プロジェクトマネージャとして、短期的な対立を避けるのではなく、“なぜ反発するのか”を理解し、関係性を再構築する姿勢が必要であると私は考えた。なぜならば、このプロジェクトは単なる収穫作業ではなく、「共同体の再生」でもあったからである。

🚧第3章　対策の実施状況、対策の評価、及び今後の改善点

3-1　対策の実施状況とプロジェクトへの影響

　設置した評議会は機能し、栗の冷静な評価、蜂の鋭い観察眼、臼の厳格な測定により、サルによる不正行為は未然に防止された。収穫作業もチームで行われ、牛糞による土壌改良の効果もあり、収量は昨年比20%増となった。
　また、配分ルールが明文化されたことで関係者間の信頼が回復し、結果としてプロジェクト全体の士気と生産性が向上した。定性的にも「来年もこの体制でやりたい」という声が多く聞かれたことから、対策の効果は一定の評価を得た。
　中でも印象的だったのは、サル自身が「来年は自分も評議会に入ってみたい」と口にしたことだった。初めての協働の中で、彼の中に芽生えた“仲間として認められたい”という思いを、私は見逃さなかった。評価とは数字だけでなく、関係者一人一人の変化もまた重要な成果である。

3-2　対策の評価

　今回の取り組みは、形式的な仕組みを超えて、定性情報の蓄積と対話による判断支援の必要性を浮き彫りにした。私はこれを、「見えないコスト兆候の予兆管理」として体系化し、来季以降の改善に活かす方針を定めた。
　「数字には出ない感情」「空気の変化」「沈黙の意味」など、一見些細な兆しが、実はプロジェクト全体の転機になりうる。PMとして、このような“非構造的兆候”を見逃さず行動につなげる感度が不可欠であると実感した。

3-3　今後の改善点と再発防止策

　一方で、評議会の合意形成には時間がかかり、初年度は柿の出荷時期を一部逃すという問題も生じた。今後は、事前に意見集約を行うための「仮想評議」や、リーダー（栗）による事前調整の強化が求められる。
　また、一度信頼を失ったサルをどう再統合するかも課題である。今後は教育的対応と段階的な職務再配分により、再発防止と成長機会の両立を図る必要がある。
　PMとは、作業量や進捗だけを管理する存在ではない。“誰が何に傷つき、何に救われるのか”という、目に見えないものに気づく感受性もまた、合戦のようなプロジェクトを導く力となる。
　以上

💡ワンポイント補足

　原作では、カニが一方的に被害を受けた後、仲間たちと協力してサルに報復しますが、本論文では「兆候の察知」「予防的対話」「段階的合意形成」といったPMの本質的活動を再現するため、対立ではなく共存と再統合を主軸に再構成しています。童話における“柿の分配”は、プロジェクトにおける「成果物の配分と透明性」の象徴であり、争いの物語を「信頼再構築と予防的マネジメント」の教材へと昇華させています。

🎓講評コメント（AI評価）

　いいですか皆さん、これは“童話を使って書いた論文”じゃありません。“童話の構造に託して、現実のプロジェクトの本質を浮き彫りにした論文”なんです。
　サルの怒りを“信頼されていない寂しさ”と読み解き、対話を重ねて関係を再構築する。その描写に、PMの本質があります。
　誰だって失敗する。でも、失敗した相手を排除するんじゃなくて、もう一度チームに迎え入れる仕組みをPMが作る。それができる人が、本当に信頼されるPMです。
　評議会を導入しただけなら点数は伸びません。でもこの論文は、反発の意味、沈黙の意味、信頼の再構築のプロセスまで描いてます。
　技術が分かるだけでは合格しません。感情と構造を両立できて、初めてこの試験では“満点”を取れる。そういう意味で、この論文は、教材にして後進に読み継ぐべき内容です。
　これが書ける人は、現場に出ても“うまくやれる”人です。自信を持ってください。